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「あぁ、大学生だよ。卒業遅れた子って、夏休みくらいまで延期だったりするから」
「ほー」
「あと、従来品との違いね。とはいっても納期まであるし納品されてないから、そこはあとで書き足すとして。
 鳥が違うらしい。従来品は国産だけど、今回のは輸入なわけ」
「あーなるほど、はいはいはい」
「前のは鳥の種類まであったんだけど、今回は種類は特に言われてないの。
 あっちで洗浄してから来るから、こっちの工場での洗浄工程が減った。けど…コストカットというには、ちょっと業者には推せないところで」
「表記しない方がいいわな、確かに」
「クライアント的には多分、いずれこれを確立すれば、という期待があると思うんだけどね」

 これなら二方向で資料を作れそうだ。

 昇には外回りの経験がある。
 各方向から話を仕入れればスムーズに商品契約へ繋がるし、何より視野は広い方がいいと考えている。

「流石だな桜井。さんきゅー」

 桜井が送信ボタンを押したのを見て、昇はすぐに自分のデスクへ戻った。

 ひとまず、広報の資料を眺める。

 加東が無な表情でパソコンを眺め、飴をカリカリと噛んでいるのが目に入る。
 よく言っている、適度な糖分は頭の回転に良いと。

 金曜日に真っ白だった文書を思い出した。あの真っ白文書はどれだったんだろう。やっぱり、羽毛布団なんだろうか。

「加東」

 はっとし、加東はまたあの、嘘臭い笑顔を浮かべて「はい」と返事をした。

「…ちょっと、飴頂戴、チョコでも良いや。糖分欲しい」
「…あ、はい」

 加東が意識を戻し、飴をがさがさ始めたところで「さて、羽毛布団だけど」と皆に話を持ちかける。

「広報の桜井から資料を送ってもらった」

 案件のテーマ等の発信は昇から始まる。
 羽毛布団は少し先の案件ではあるのだ。
 ほぼ同時進行ではあるが、皆はいま、電気スタンドを優先に固めているだろう。

「あー…まだ納期まであったんで片隅には置いてましたが、ちょっと気になってました」
「だろ?いまちょっと良いか?
 すまない加東、印刷機前に」

「畏まりました」

 加東は一呼吸置いてから立ち上がり、印刷機へ向かった。
 作成途中のビラなど、先に部長に見つかれば厄介だし、何より、今日の加東は動かした方がいい。

 タイミングを見計らい、昇は印刷ボタンを押す。
 資料を持ってぼんやりとしたまま戻ってきた加東に「悪いな、ありがとう」と告げ、全員に資料を配った。

「えっと、宇田さん。
 …目は通しますんで、あとにしませんか?」

 ふと、木村が加東と目を合わせ、「ねー」と意気投合している。

 …なるほど。
 そっちはそっちで、隣のデスクだから、いざというとき互いの進行状況がわかるのだ。

「あ、わかった。全然良いわ。まず電気スタンド最優先。
 俺も行き詰まって、桜井から刺激を貰ったのを、少し共有したかっただけだから」
「あ、じゃあ俺は聞きますわ」

 個人で差があるのは当然だ、やっていることも微妙に違うし。

 こっちはこっちで渋谷と「この季節外れさと目論見だが」と、自分もまだ掴めていないという現状をはっきり話しておけば、木村も適当に聞き耳を立てるだろう。

 やはりどうも加東の手は止まりがちになっているようだ。
 それに「このセットの電球さ〜」と、木村が適度に声を掛け、なんとなく上手くやっていてくれている。

「これちょっと薄いっすよね〜、見た目」
「渋谷は重い方が安心する派?軽い方が良い派?」
「うーん、あー…薄いとよれるイメージかも…これ安いし。
 まぁ俺は気にしない派だけど、つまり気にしなかったり薄い派には効果ありっつーことっすかね?」
「…やっぱり快適な…うーん、新生活の方が効きそうな気もしなくはないよな…」
「桜井さん流石っすね。目の付け所が違う。
 でも…業者も個人店もと…その割にはあんま間口は絞れてないっすね。両方っすかね、まだ今は」
「お試しかなと捉えたようだぞ桜井は。うーんまぁ、まとめるわ」

 皆それぞれ、またカチャカチャとやり始める。

 加東も「あ、じゃあ皆さんどうぞ飴を…」と言えるくらいには、スイッチが入ったらしい。

 新しい風起こし、ひとまず成功だ。
 上手く行けば前二人も、今日の帰りまでには布団に辿り着けるかもしれない。

 商品によって分担に違いはあるが、渋谷は客層方面、木村はバリエーション、加東は実用性、等と分散している。
 
 それぞれを総括するのも昇の役割だ。

 最終的に、最初に発信したテーマとは変わってしまったとしても、それは意見をまとめてみたらそっちの方が良い、となった結果なのだから、大いに良いのだ。

 この仕事はチームの信頼度が必要となってくる。誰かを疑うのは悪意であってはならない。

 これが普通かと言えば、案外そうでもないと、外回りのときに感じていた。
 チームの統合が取れないと、言っていることが汲み取れないのだ。

 そんなとき、昇は兎に角、それぞれの分野、人物、業者へも徹底的に聞き回っていた。
 これは、外回りからすれば手間だ。

 なんせ、物を理解していなければ顧客になんて売れないのだから。

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