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「おっはよーございまー!」
タイミングが悪いのかなんなのか。木村が元気に出勤してきた。
「はよ、何飲む」と、聞いてやったが、俺の業務はコーヒー屋かよという気分にもなってくる。
「私、開発の山城梨菜です、宇田先輩、であってますよね?ありがとうございました!」
新人山城ちゃんは、ペコッと頭を下げて奥へ戻って行く。きちんとしたお団子。まさしくThe 新人という感じ。
まぁ…一週間は延命したかなと昇が思っていると、木村が「今日は…抹茶オレで」と言いながらじろじろと見てきた。
「…別れたからって早くないですか宇田さん」
「ちっげぇよ、」
木村もちょいとデスクを見ては「あ、シュガーちゃん来てない」と気付いた。
「…あれ?休み?」
「今のところ連絡はないけど…」
「あ、でもな…」と悩み始めた木村を見て、まぁいいや、これでは営業部全員のコーヒー屋になってしまうと、昇はコーヒーを持ってデスクに戻る。
悩み抜いた木村が砂糖を入れてかき混ぜていると、件の加東が「おはようございますっ!」と、なんとなく急いだ雰囲気で出勤してきた。
安心した…一瞬金曜の夜のことが頭に浮かんだからだ。
「おはよーシュガーちゃん。何飲む?」と木村が聞くのに「えー……と…」と、なんだかぼんやりしているようだった。
まぁまぁ、と木村はデスクにやってくる。
加東は下の方のボタンを押したようだが、誰かが出勤してきても「おはようございます」と、コーヒー屋になるわけではなく、ぼんやりと挨拶を交わしている。
なんとなく、笑顔が控えめな気がする。
寝坊ではないが、いつもと調子が違うのかと少し様子を眺めれば、砂糖を何本かとミルクを入れながら「間違えた…」と呟いていた。
この違和感は俺だけだろうかと木村や渋谷の反応を伺ってみる。
「あ、多分今日微妙な日っすね、加東ちゃん」
「…かもな」
「まぁ月曜日だしねー」
木村はいつも通り、特に気にしていない口調だが、やはりそうか。
加東には、たまにそんな日がある。
大抵そういう時、小さい微妙なミスを連発する。
「はよー加東ちゃん、珍しいねぇ、俺の方が早い」
「おはようございます渋谷さん。アラーム微妙に間違えちゃって」
無難な返答だ。
木村も「私も電車遅延したらいいなって月曜日は思うわ〜」だなんて回答をしている。
こーゆーときって、俺、どう対応してたっけ。
変な意識をしているなと、昇は勝手に気まずくなった。
「遅延率は月曜が一番高いらしいぞ。
おはよう加東」
「おはようございます」
まぁ、悩んだところでフォローする以外にないしな…と頭を切り替えることにする。喉元過ぎれば、だ。
何気に、始業時間ギリギリだったらしく、加東が座って雑談する、と言う雰囲気でもないままに業務開始のベルが鳴った。
加東は早速、チョコレートを一欠片食べていた。
本当によく太らないものだが、ぼんやりとすぐ飴まで口に入れてはっ、とした顔をするので、うーん、これはマメに話し掛けなければならない日だぞと、三人で共通認識になる。
どちらかといえば「自然に」やらないとならない日だ。
結果、気にしない方がいい。
なのだが…あれ以来すぐの日、となると…。
昇は「関係ないんだぞ、外のことはな!」と振り払い、さてさて羽毛布団、どこまで直したっけなとパソコンを眺めた。
朝にそう頭の片隅へ入れたお陰か、いつの間にかいつも通りの仕事は出来たが、「加東の調子が悪いときの平常時」だ。
それに対し季節外れの「羽毛布団」という、少し厄介な案件が舞い込んできている。
まずは広報の戦略を見てみようと、試しに真後ろの席へと椅子を飛ばしてすり寄ってみた。
「よう桜井」
営業広報、同期の桜井。
今日もまた派手というかなんというか、サブカル斬新お洒落女…というか。
「宇田じゃん、何」
「いやーちょっと案が欲しいというか」
「でしょうね。どの件」
「えっとねーこれ。羽毛布団」
昇は先日、自分用に印刷した資料を桜井に渡した。
速攻で「何このクッソみたいな文書、どゆこと?ふざけてる?」とバッサリ言われてしまったが、本当はあれから改訂をした。
「いやーホンットなんっもマジで思い付かなくて。卸業者と…これ、個人店にも売るって聞いたんだけど」
「あーね、はいはい」
同期は話が早くて助かる。
桜井はぱっぱと、卸業者用と個人店用のパンフの下書きを見せてくれた。
なるほど図、写真の使い方が違う。
「…図解と写真との違いは?」
「まず、業者は図解、個人店が写真。そして今回は「リニューアル品」なわけよ。お分かり?」
「ほうほう…」
「個人店は鳥の絵よりこういう、製造機械とかの写真の方が印象良いでしょ?
業者用のは図解の方がわかりやすいし営業も掛けやすいでしょ?」
「なるほど。
これさ、従来品との違いが…見た目じゃわからんよなぁ、値段もそう変わらないし。
…ん?
個人店用だとなんでこれ、「新生活」って字入れてんの?販売は夏だけど」
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