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 ぽかん、としてから加東は少し俯いたが、再び顔をあげ胡散臭い笑顔で「いえ、大丈夫ですよ」と言う。

 「何飲む」とだけ聞き、その場はその程度にしておこうかと思ったが、「あ、水で良いです」と…。

 珍しいというか、却って正直な反応かもしれないと捉え、「無理すんな、気ぃ抜け」と、昇は加東に給水機の水を与えておいた。

「………」

 加東は何も言わず、ポケットから何かの錠剤を取り出した。

 なんだ?と昇が思う間に、それをプチプチプチプチと飲んだので、「具合悪いのか?」とつい、肩を触って聞いてしまった。

 まるで咄嗟に、というか、触れないでくれと言わんばかりに、加東がパシッと振り払ってきた。
 それに驚いたが、それは本人もらしい、一瞬「あ、」と小さく言ってからすぐに取り繕って笑う。

「ごめんなさい、間違えました」
「いや……」
「午後から…取り返しますね」

 え。

 そそくさとデスクへ戻ってしまった加東を見て、パッと思い浮かんだのは、ラブホテルで大号泣していた加東の悲しそうな顔だった。

 …つーか、あれも襲われてね?俺。

 かなりモヤモヤはしたので、いや、一回マジで飯買ってこよ…と、昇は一人、購買へ向かう。

 …まぁ確かに?距離感間違えましたよねぇ、きっと。今の子は特に、多様というか、多感ですしねぇ?
 少し不貞腐れる心境。

 確かによく飲みには行くが、別に加東のプライベートなんて……そういえば、よく知らないことにも気付いた。

 …まず、根本だ。あれは一体なんだったんだ?
 これは土日も考えまくったところだ。

 なんか、そっちの人かな?というのも当たり前に過ったが、しかし、加東は山城さんといい、女子人気も高い。

 木村が言っていた通り、なんとなく立ち振舞いも「女心わかってる」感がある。
 だからこそ木村もああ言うし、山城さんもああなのだ。
 それは同時に、女性慣れというか、然り気無くかわすのが上手いとも言える。

 うーんでも、未遂だけど、人妻で逃げた俺を逃がす間もないあの感じ…。

 自棄になって、はあるのかもしれないが、男の俺への対応…女子達よりかは慣れてなかったよな…やっぱりここは「マジ超絶ヤバイもう死にそうなくらいの自棄」だったと考えよう…。

 でもなんか、あそこまでいったじゃんと…思わなくもない…。
 多分それもあって、さっき、距離感を間違えたのだ。

 …ん?あれ?てか何?間違えましたってどーゆこと?

 思い出す。時間差で来た。

 大体の場合、調子の悪い人間は他人が言ってしまうとより悪化してしまったりする、でもそれは、業務上の回し方で…。

 なんだ俺は。業務上のやつだと気に入らないのか?
 てゆうかなんか公私混同、ごっちゃじゃない?うーん…なんか、これ以上考えると精神衛生上よくないような…。なんか俺今超キモいヤツになっている気がする、これ誰にも話せないやつかも…。

 ぐるぐる考えつつも、楽にカップラーメンを買った。
 よくよく見ればシーフードだな、とは思ったがどうせもう、なんだってよくなってるし。

 しかし部署に戻るのもいまいちだ、あまり人も来ないうちにと、また喫煙スペースに行った。
 人通りが多くなった頃にはさっさとタバコまで済ませ、漸く部署に戻る。

 加東はいつも通り、皆と楽しそうに喋っているが、結局、愛想笑いだ。

 …外回りか。

 そう、愛想的には本当に向いているのだが、今日みたいに思考がまわっていないな、という日があるから心配なのだ。

 営業は一人だ。誰もその場でフォローが出来ない。
 マニュアルをちゃんと作れば良いかと言われれば、顧客との信頼関係など、そんなに単純ではない。

 戻ってきた昇に「あ、お帰りなさい」と笑顔で言うのも業務的に感じるというか…手ぇぶっ叩いといてそれか…とやっぱりよくわからなくなってきていた。

 まぁ、そんなもんだよなぁ……と仕事に頭を切り替え、うーん午後イチはまず電気スタンドの最終チェックをしようかなと、パソコンを開いた。

 そうしてやっていくうちにいくつか訂正もし、これならそろそろ部長に出してもいいかな、と昇が一息吐いたときだった。

「あ」

 加東が呟き、目についた。
 無の表情で打ち込んでいた加東は、間を置いてから「ヤバイ」と焦り始める。

「ん?」
「どしたのシュ…」
「消えた、」

 隣の木村が「え?全部逝った?」とパソコンを覗きこむ。

「あ、あぁ……うぅ、どうしよ、」
「あーまぁ、ちょっと戻そ」

 しかしすぐさま「宇田班の加東!」と、部長の怒鳴り声が掛かってしまった。

 昇は咄嗟に、今開いた文書をコピーし、「ちょっと待ってろ」と言い残し、部長の側の印刷機へ向かった。

「はい」
「違う、お前が来るなら加東も」
「あ、いや俺も今印刷掛けたんでついでに。どうしました?」
「これだよ!」

 ぱっと部長に見せられた文章には、びっしりと文が敷き詰められた「電気スタンド」があった。

 なるほど、送信を押したり文書を押したりと、多分テンパったか、集中力が切れたかしたのだろう。
 どうやら、データが消えた問題は運良く解決したようだ。

「あっ。
 加東!あったぞ文書。よかったなぁ!
 じゃあついでに構成しますわぁ」

 パッと部長の文書をすり替え、加東の文章を自分用に一部、コピーした。

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