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「…僕の、せいで、」
「…加東、」
「今日は、」
…随分苦しそうで嘘臭い。
「加東、それでいいのか」
「………」
目を合わせなくなった。
それを良いことに、「ねぇ、見てって澄音」と男はワンピースをヒラヒラするが、完全に視界に入れないようにか、加東はそれから顔を背ける。
「…何?態度悪いなぁ。ちゃんと命日に合わせて探してきてあげたんだよ?澄音」
「…やめてっ、」
「薄情だなぁ、ねぇ、忘れちゃったの?清花ちゃんを」
「違うって、」
「いい加減にしろよ澄音!」
突然前触れもなく怒鳴った男に、ぴくっと加東が怯える。
…恫喝で悪趣味なのはよくわかった。
「あの日も待ってたのに帰って来なくてだからそこに掛けといたんだよ、お前忘れたって言うのか、なぁ、姿形や全て、なぁ、なんでそんなこと出来んの?お前のせいなのに。お前、清花ちゃんが死ぬのを黙って見てたんだろ!?」
「違う、違う、」と頭を抱えるように耳を押さえながら繰り返す加東を見て「やめろよおい!」と、昇は男に怒鳴り返していた。
わかりたくなくても状況なんてよく把握出来る。
「よくわかったよイカレ野郎が。
ダメだな加東、立て。ここダメだわ」
「…は?」
「こいつが出て行ってくれんのが一番平和だけどちょっと身体に鞭打つわ加東、悪いな、頑張れ。兎に角行くぞ」
耳から手を離した加東が「へ」だか「え」だか、声も震えている。
まぁ構わねぇわと、昇は加東をぐいっと持ち上げ、肩を貸す。
「は?なんのつもり」
それを阻止するようにがっと、男に押し返されたが「お前も行くか?病院」と昇は真っ向から男に言ってやった。
「ぶっ倒れて頭打ってるかもしんねぇんだわちょーど、こいつ。病院連れて行こうか迷ってたところだったし」
「………何言ってんの?お前」
「残念ながらお前の治療費はウチの経費で落ちないけど」
「…何?一体。なんなのつもりなのおま」
「宇田昇でーぇす!営業部企画課のーぉ!どーぞクレームならいつでも受け付けますよウチの事務がねー!でもお前ウチの顧客じゃないからぁ!」
は?と相手が怯んだ隙に昇は「はいはいはい」と半ば強引にトイレから加東を運び出し玄関へ向かう。
が、やっぱり「なんだっつーの!」と男が加東の腕を引っ張るので「やめてくれませんかねぇ」と睨み付けた。
「いや、お前マジで」
「宇田でーす!」
「…おい警察呼ぶぞこの野郎」
「さーこの状況どっちが有利かな。
どーする加東。俺、捕まるか?」
ここは敢えて当人に投げてみる。
確かに顔は真っ白だけど、何も言わないからにはもう、答えは決まっているなと昇は都合良く捉えることにした。
荒治療だが、こういうのは強行突破が一番良い。
加東の腕を掴む男の手をパシッと剥がし、昇は加東を無理矢理外へ連れ出した。
ガタン、と荒々しく閉まるドア。
案の定、肩を払われる。
「……先輩っ!」
「なんだ」
「…こー、ゆーの、やめてくだ」
「うるせえんだよさっさと行くぞこのバカ野郎」
ここで怯むわけにはいかない。
昇はまた加東の手を掴むが「離してっ!」と払われるのに、まるで別れ話の恋人かよと、少し頭を過った。
「…なんで…?こんなこと、先輩がすること」
「じゃあ聞くがあいつにはそこまでする必要あるんすか」
「あ、あんたには、関係なんて」
「だったらぶっ倒れてんじゃねぇよこのバカ!
おいお前俺はお前に襲われかけたの忘れてねぇかんな、わかってんの!?」
少し声が響いた。
そして加東がポカンとしたのにあぁやべぇなと、しかし昇の口から出てくるのは「…あぁもう、病院だ病院!」という常套句だった。
「…は?」
ただ、少しスッとして。
…お前いま、超怒ってんじゃんというのが若干愉快で、俺もどうかしてるわと思いつつ、結局「っはははは!」と、笑ってしまった。
「え…何…」
引いてるし。
「いや悪ぃ、お前めっちゃキレてんなって、」
「え」
「初めて見たよ、そんな素の表情」
言われた加東は少し俯き、そしてはっと家へ振り返ったが、結局ダメだと理解したのかもしれない。
まずは昇をぶっ叩いてから「…っわかりましたよっ!」と、先を歩きエレベーターのボタンを押した。
でも、待っている間、やっぱり情緒はヤバかったらしい。
声を殺しながら泣いて、また涙をたくさん拭っている加東に「はいはい、」と、昇は肩に手を添えるのみでやめてやった。
「…なんとなーく把握した」
それさえ言えば、まぁいいか。
エレベーターが来て、取り敢えず泣かせておこうかと、昇は加東の薄い肩を支えておく。
ちん、と、一階に着いた際に一言「把握してませんよっ…!」と、後輩は反抗してきたのだった。
「…っだってぇ、あ、あの人………ホントはお姉ちゃんの彼氏じゃないはずだもん!」
…………。
頭が真っ白になりそー………
「…はぁっ!?」
「んなわけ…ないでしょあんな変態っ!」
えええええぇっ。
「な、ナニソレっ!」
え、じゃあマジで兄ちゃんだった?
それだったらかなり困ってしまうなと、少し焦るが。
いやそれはそれで頭おかしすぎんだろ…いや、今でも結構かなり相当ヤバいくらい頭おかしいけども…。
状況、整理。
整理しきれずただ、鳥肌が立ったのは確かで「いや怖っ!」と、そのまま気持ちが言葉で出た。
「じゃ、じゃあ何あれえ?待って、パニックすぎんだけど何、何あの人っっ!」
…カレシぃ………。
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