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 タバコも吸いたいなとポケットから出し、昇はそのまま火を点けた。
 小さく震える加東を見て、「まぁ…」と、しかし、何を言おうかなと考えた。

 言葉が出てこない。引き出しの中から探そうとするのが悪いのか…ただ、ただと、無責任に「大丈夫だから」だなんて言う自分に…苦しくなったけど。

 加東は顔を上げた。

「…なんて言って良いか、わかんなくてな」

 営業ならば楽だったな。自分へ皮肉な言葉が浮かぶ。

「……そんな姿を見ると。なんて言って良いかわからん。何を言っても嘘臭くなる気がして」

 だから、絞り出してみようと思ったが、そういえば外回りで、いつもどこか…詐欺師のような気がしていたと、思い出す。

「……すみません、急に、なんか、」
「いや、そうじゃない。本心を聞き出すのは俺の得意分野だったんだけどな。たまにあるんだよ、どうしても自分が嘘臭く感じることが。
 例えば、それでも売らなきゃなんねぇもんもあるわけだ。欠点の方ばかりを捉えるからいけないんだと、ではその欠点をどう生かすのか、なんて考える。
 普通は、利点ばかりを取り考えていくらしいが、それじゃ気に入らなかったんだ。でも、それだって充分、嘘臭ぇよな」

 そう思い始めていた時期だった、あの頃。

「ま、外回りはわりと天職だったんだけどな、俺には。接客みたいなんはわりと好きだった。違うもん売って怒られることもあったが、仕方ねぇよな?客に合ってねぇんだからって、やりがいも沢山あったよって…全然違う話になったな、悪い」

 こんなことしか言えないのかね、俺という男は。つくづく話の苦手なヤツだなと皮肉は増していくが、加東がぼんやりと見つめてきて、「…お疲れさまです、よね」と言った。

 …なんなんだよ、全く。いまお疲れなのはお前だろうと昇が思えば、加東が「先輩布団、羽毛なんですか?」と、控えめに笑って言ってくる。

「…あぁ…そうだなそう言えば。ばあちゃんが「布団は大事だ」っつって買ってくれたらしいんだよな。実家から持ってきた…て、なんでわかった?」
「いや、枕がなんとなく」

 あ、なるほど。

「確かに、一緒だったかも」

 その割には…言われてみればベッドが鉄組だったりスプリングも普通だったり、なるほど「お布団セット」というより統一性はないな。

 あ。

「いいな、お布団セット」
「…え?」
「加東の今の聞いて思い付いた。そうだよな、羽毛布団って単体感あるかも」
「…でもそれって、高いからじゃないですか?」
「あ、確かに」

 てゆうか。

「あ、悪ぃ、いま一瞬仕事モード入ってたわ」
「あぁ…まぁ、」

 いつの間にか泣き止んでいた加東は「ふふ、」と笑い、「ちょっと面白かったんでいいです」と言った。

「仕事人間ですね〜」
「え、あ、はぁ」

 まぁ、歴代彼女達とか友達とかに言われてきた、確かに。

「そんなんじゃ彼女逃げちゃいますよ。
 …じゃあ、一眠りします、はい」
「あ、ああぁああぁ、そ、そうだったな」
「すみませんね。
 スポドリも飲み終わっちゃいました…飴もないし…頭も痛いし」

 まぁ確かにあんだけ泣いたらそうだろうな。

 「砂糖めちゃくちゃ入れとけ」と助言すれば「逆に喉乾いちゃうんで」等と反論されたので、対策として「まず、水道水を湧かしておく」とした。

 そのうち本当にこくこくとしてきてしまった加東に、「ベッドで寝て良いから!」と言っておき、寝たところでちゃんとコンビニに行っておいた。

 お陰でなんとなく頭でまとめられたのは、あのヤバそうな男は(GPS付き)加東の自殺した姉の……旦那、ではなく近所のお兄さんだった人、らしい。

 うーん、ストーカーなんだろうか…姉ちゃんが好きならば別に弟に固執しないというか…あと「犯されちゃったんで」とかケロっと言っていたわけだから………待て、加東のその…DV彼氏パターンだったら俺、どうしよう。

 やべぇそれめちゃくちゃ怖いんですけど。

 結構考え込んだが、いやそういえば仕事でも頭使ったわ…一回なんか、リセットしよ…とテレビを点けてみた。
 あ、起こしちゃうかなとも思ったが杞憂だった。

 どうやら加東も疲れていたらしい、まぁそりゃそうだ、吐いてたし何より倒れたわけだから。びくともせずにぐっすり寝ている。

 よくよく考えたらThe 典型的DV彼氏要素をこれでもかってくらい兼ね備えているよな。

 「近所のお兄さん」と加東が言ったのもそうだし、確かにあの男には、多分お姉さん…「清花ちゃん」にも、執着のようなものは見えた気がする。

 まぁでもかなりヤバイやつで、間違いはない…。
 …これは一体どうするんだろうな。少し、途方に暮れそうだった。

 頭も全然休まらないし、月曜日からこれか…と、昇は買っておいたビールをキメることにした。

 ま…いっか。

 ビールにはそう思わせてくれる力がある。始めにビールを開発企画したやつは凄いと、常々昇は思っている。

 途中で「加東に飯を食わせなくちゃならないな」と思い立った。

 ぐっすり眠っている。

 泣いて目蓋が腫れ、加東は超ブス顔にはなっていたが、なんだかそれも可愛らしいような。
 起こしにくい心境に至り、弱々しく「加東?」と昇は声を掛けた。

 びくともしない。

 …あれ?まさかなんか間違って死んでる?

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