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昇は加東の側に寄りよーく耳を澄ます。寝息が聞こえ安心した。
「加東、おい加東ちゃん、」
「……ふ?」
身体を揺らすと、加東は一瞬起きたのだが、また目は閉じそうというか腫れてるからかもしれない、わからないなと「アイス、アイスも買ってきた、飯だ、飯を食ってくれ」と昇は頑張って加東を揺らし続けた。
加東は一瞬顔をしかめ「…おはようございます」と、間を置いてから起き上がった、そうだそういえばこいつ貧血だったよなと、昇は側でじっくり待つ。
「…ご飯?ですか…?」
「そう、ご飯ですよ。わからなかったんでカレーかミートソースか親子丼です」
全部食っちゃったりしてと昇の頭に過ったが「…パスタで」と、案外、一番少なそうな物を選んだ加東に拍子抜けしてしまった。
「…あ、先輩食べたかったですか?」
「い、いや」
「僕はなんでも…いいです」
「…あれ?そんな感じ?
まぁいいや…温めるわ」
昇が電子レンジでミートソースを温めている間にもまた寝そうだなと思ったりはしたが、加東はちゃんと椅子に座って待っていた。
いつも以上にぼーっとしているのに、まぁなんか、これも素だよなと昇は仕事風景を思い出す。
あれ、実はそういうことだろうと。
「あ、てか、食える?大丈夫?寝たら良くなった?」
「んー……はい、多分……。
この際だから、言いますけど…薬……飲みすぎたんで…」
「あー」
やっぱりか。
…リストカットの痕を思い出す。相乗効果で精神科の薬袋までも目に浮かぶよう。
まぁ、仕方ない。それを「支障があるならやめろ」だなんて、流石に言えない。人間、仕事のために生きているわけじゃないし。
昇が温めたパスタを渡してやると、加東は腕捲りをし髪を耳に掛けた。
ぼんやりとしていても「いただきます」と手を合わせるのに、こんなやつなんだけどな、という気分になる。
…結構見てしまうものだな。明らかに新しそうな…少し目立つ傷が二本あって。
昇の視線に気付いた加東が「…交換しますか?」と聞いてくる。
「いや、俺はカレーでいいです…」
ふと、加東はそれに気付いたらしい。
はっとした顔をして「あ、すみません」と少し悲しそうな顔で慌てて袖を戻そうとするのに「いや、ごめん」と昇はそれを窘めた。
「別にいいんだけど……あれからやった…?」
聞くと、加東はぼんやりとパスタを眺め、「はい…まぁ、一度」と白状する。
「…なんか、ダメなんです。もう一つないと」
「…もう一つ?」
「これやると「萎えるんだけど」って言われるんですけどね。でも……」
…まだ、話したくないのかもしれないけど。
それは、まるでゆらゆらと浮かぶような気持ち。一体どこへ行こうとしているのか、まだわからない。
糸口すら手繰り寄せられないのだから。
「…んまぁ、俺もあれで気付いたくらいだから、誰も知らないと思うし…知ったところで相手が困るわけじゃなくて…」
「…そうですよ」
少しの間、無言で二人、食べ続けたが、「どうにか愛せないものかなって、思ってしまう」と、気付いたらそう、昇の口を吐いていた。
「どうにか、そんな、痛々しい世界が…」
辛いのは、好きじゃない。だから、どうにか、なくならないかもしれなくても、どうにか、と、昇はたまに考えてしまうのだ。そういう、優しい人間になりたいと。
ぽかんとしてから「え?」と加東は言った。
「まぁ、俺の好きな歌ね」
そう言っておくことにした。俺は優しいロッカーにはなれないみたいだけども。
今は多分、それくらいがいいのだろうと…思ったのだが。
「…んえっ、と………」
加東が更に下を見て、困ったような反応をする。
「…先輩、忘れてませんか…?僕、その……先輩のこと…あの、好きなんです、ケド…」
「…ん?」
あれ。
「……ん!?」
え。
「…だってぇ、二回も、言ったじゃないですか、…ちょっと、なんでそんなこと言うんですか…っ」
……あっ、そうだった…かも?
時間差でくるくるくると巻き戻したり再生したりで思い出すけど……え、この反応…?
「なんっで、…わかんないんですかねっ!」
「え、え、ちょっと待て?え?俺のこと……お?は?え?な……待ってなんかそんな感じで好きになられる要素ってどっかにあったっけ俺」
「あーあー!喋んないでくださいもう、なんか…」
うっわー。
こいつマジ照れしてる。え、マジか。え?
「………あ、なんかごめ」
「いいですよもうっ!」
…まさか。人生想定していなくてこっちもかなりビビっている。
やり場もなさそうにパスタをくるくるくるくる、もうそこまでいったら容器に穴が空くんじゃないのかというくらいにくるくるしている加東を見て、え、どうしようかと実感してきたら、なんか…。
おいマジかと思えば、泣きそうというわけじゃないが、少し潤んだ目で加東は睨んできて、その目からは「この人バカ!」みたいな反抗心が見て取れる。
観念したのかパスタは一口食ったようだ。
言葉が詰まる。
「あっ……なるほど、です……」
ね、と言おうとした瞬間にカレーを誤飲し、若干咳き込んだ。
そしたら鼻に何か、込み上げそうになったらしい「…っは、っ、いっ、いってっ……!」と噎せてしまった。
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