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昇がはーはーと苦しい思いをしているのにも関わらず「………んも〜っ!バカなんじゃないですかっ!」と加東がハッキリ反抗をしてきた。
「すみませんねこんな気持ち悪いことを言ってしまいましてっ!」
「えっ……っは、っ、」
「今だから勢いつけて言いますけど昇先輩が初めて!僕を部長から助けてくれたとき!凄くきゅんってなったんです!きゅんっとか言っちゃうくらいねっ!」
「おっ……、まっ、」
今は待ってくれかなり鼻とか痛いからっ!
「はい!もういいです終了っ!ありがとうございま」
「まっ、待ってっ!今………鼻っ!鼻っから、出そうっ、」
「は!?」
「いった、いんだっ……か、カレーがっ!」
「わかってるから今言って」
「っは、がはっ、う゛〜っ、」
「…え、待ってそんなに!?」
「き…気管支、実はめっちゃ弱っ、あ゛〜っ、あー過ぎた、うん、いや痛ぇ〜っ、死ぬかと思った……」
「タバコ吸ってるじゃん!」
「ちっさい頃マジで喘息疑われた、大丈夫だった、今は治ってるけど弱かったせいかたまにクるんだわ…あーごめんめっちゃ雰囲気ヤバくしたわ。うんわかった、I LOVE YOUってマジ最強なんだなって」
「…くっさ、ナニソレ」
「好きな歌ね。きっと加東世代じゃないわ…。まぁ、わかりました聞きましたんで…」
「……え、ちょっと待ってそれだけ!?」
「何か望みますか君は」
「えっ、と………えー…待って、だからなんでそーゆーことを」
「取り敢えず食いましょうな?」
諭せば「まぁ……はぁい」と不貞腐れる様子。
これはこれで新鮮だが、まぁ「考えますよ」と言っておいた。
「…え」
「アナログなもんで、頭整理しねぇとなんとも。まぁ、君が考えているであろう「俺ってキモくないか?」は今日丁度俺もぶち当たりましたのでその辺も含めて…」
「あぁ…はぁ…」
なんかわからないが。
どうやら加東も若干、妥協した雰囲気になった。まぁ、いいだろう。
驚きはしたがなんだかスッと胸に落ちたのは事実だった。これは鼻に詰まってない。
だが、息苦しくなった瞬間は今日、沢山あった。それは気管支かもしれないけど…。
夕飯をすませ、なんだかスッキリしたいなと「風呂入ってくるわ」と昇が言ったのに「あ、はい。あ、パンツ、着替えも」と、まるで当たり前に一緒に入る風だった加東には、取り敢えずコンビニで買ったお泊まりセットとテキトーに寝巻きを渡し「待ちなさい」と指示した。
「あ、間違えましたね」と…出たよ間違えました。もう子供かお前はと笑いそうになってしまったが、まぁまぁ、自分の適応能力の高さにも驚いた。
あんな当たり前な態度だったが、なんだ?近所のお兄さんとは風呂でも一緒に入るんか?と、少しスッキリした時に思い立った。思い立ったらモヤモヤした。
…子供は、手首切ったりしねぇもんなと、どうしても発展途上な気がして、とんでもねぇな、なんてこんがらがっているんだと…寂しくなる。
ホントはこんなもん、犬も食わねえと、わかっているのに。
…そう言えば子供の頃、身体を温めれば気管支、ちょっとマシだったんだよなとか、変なことを思い出したりした。
昇が風呂から上がると、加東がベッドを占拠し、どうやら勝手に探し当てたらしい(いや、多分テーブルに出しっぱなしだった)昇のイヤホンをつけて目を閉じていた。
こいつめ、と側に座ると加東は目を開けてにやっと笑い、「お風呂借りますね」と去って行った。
なんだかなと思えば、加東のケータイ画面が見える。
なるほど、好きな歌、探し当てたらしい。そうか、探したのかと思ったが、同時に「14件」とある通知も目に入った。
あのクソ野郎はどうやら「ひろのりさん」というらしい。モヤモヤする。まぁ、14件なんて多すぎるって訳じゃねぇよ、それもモヤモヤするような。
あーあ。どうしようかなと、自分もベッドに寝転んで音楽を聴いた。あぁ、そうね。どうしてこうも響くのかねと、ぼんやりはしたが眠れないような……。
と、思ったのに、側で血の匂いがして起きた。一瞬寝ていたらしい。
加東がこっちを見て「どうするんですか」と、落ち着いた声でそう言ってきた。
「性被害者って見過ごされがちですけど、性犯罪率高いんですよ、先輩」
それは、血の匂いがする気がする。
けれど、特に新たに切ったわけではないらしい。
「“ひろのりさん”」と、こちらも落ち着いて返す。
「加東だって、どーすんだよ、明日とか」
「…まぁ、テキトーに」
「テキトーじゃダメだな」
まぁ俺が強行突破したんだけどね。だから、俺のせいだな。
ただ、その手首を緩く握り「どーにかならんかね」と目を閉じる。
まぁ、着いて行ったのはいずれにせよ俺だったよ、今までは。一息吐く。
「…ごめんなさいね」
「……休みの連絡は朝早くに。
アレは要改善だと思う。あそこは碌でもない」
「…それって」
「あぁそうだよ。俺なりの「来い」だよ。けどまぁ荷物とかあっかんなぁ、鞄すら置いてきたじゃん」
「…ですね」
「どういうつもりかは加東が決めるべきだ」
少し声を伏せた加東が、聞き取りにくい声で「先輩?」と呼んだ。
「ん?」
「澄音です。澄んだ音で」
「…知ってるっつーの。綺麗な名前だよな、澄音って」
ぽつり、ぽつりと、それは聴こえてくる。朝ではない音が。
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