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 いや、忘れられないことだけど、言った通り「よくわからなかった」んで、大人になってからそうか、てなるわけだし、これはそれほど辛くないんです、実はね。
 これを恐怖だと思ったのは当時より、大人になってからでした。

 あーでも、痛みとかはやっぱりその時期、苛められている気分、みたいなもんだったのかも…いや、わからないな。

 ……ごめんなさい、やめましょうか。気持ち悪いですね。

 いや、いいんですよ気持ち悪いで。僕も若干そう思ってますから。

 ……続けますか?

 …どっちですか?…まぁ、そうですね、僕から勝手に話し…。

 …ちょっと、言ってることがごめんなさい、よくわからないんですけど。
 …え、いや、無理矢理聞かなくても。

 …あ、はは、まぁ、そっか、わかりませんよね。僕と一緒だ。じゃぁ、ごめんなさいね……傷の、話で。
 んーでもじゃあ、こうしましょう。無理に聞かないでください。僕はじゃあ…飽きたり、眠くなったらやめますね。

 この傷、はね。そう、してる時のテンションで切るんです。一本ね。そう決めたんです。そしたら思ったより…あぁ、興奮してると痛くないみたいですよ。

 確かに思ったより深くいっちゃって本格的に萎えさせて叩かれたことありました。

 あのときの傷は流石に痛かったかも。でも、血の巡りも良いから仕方ないと思いますけどね、そういう人なんです。
 だから、も一理あります。

 刃物を側に置かせてくれないとしないって言ってあるんです。実際ないといまじゃ落ち着かないし。
 頭おかしいよって言われても、あんたもおかしいよって思いますよね。まぁ言ったことあります。

 あの男のせい…とも言いきれないからいまこうなってるんでしょうかね、お姉ちゃんのこと。僕も悪い。
 でもどうかな…先に言っておいても結果、変わらなかったのかな…なんて、ね。

 お姉ちゃんが大学卒業の頃、二人で家を出ようかってなったんです。お姉ちゃんが、一緒においでって。

 でもそう、そのとき僕は中学二年で、高校のこともありましたから…本当はね、お姉ちゃんも働くし、両親も、それならお金は送るよってなってたんで、あのときでも良かった…いや、結果一年そう、あとに決まったんです。

 それだけは、なんか、一年長く生きてくれた…のかもしれないです。

 僕が進路を決めきれなくて、あまり急かしてもとか、気を遣ってくれたんでしょうね、お姉ちゃん。
 なんとなく急いでいるような気もしなくはなかったです。

 僕とひろのりさんの関係は続いていました。その頃には僕はとっくに諦めていて、事も理解していました。

 お風呂までお借りしてるの?て言われたこともありましたが、それなりに上手く…言えてました。

 あの人、結果いまもこうだから、あの時感じたのは間違いじゃないですね、手放せなかったんです。
 でもその頃はもう少し排他的で、魂胆がわかってきていました。

 あの人言ったんですよ、お姉ちゃんが好きなんだって。だからなんだって。前からずっとずっと好きでどうにかなりそうだって。

 僕が事を理解したあたりでわざわざ言ってきた。脅しですよね、要するに。
 僕はダメだと思いましたから。そりゃそうでしょ。お姉ちゃんを傷付けたくなかった、ただ。

 でも僕は、引き金にもなりました。

 高校に合わせてお姉ちゃんは先伸ばしにしていた引っ越し先を考えてくれました。
 受験もあったし引っ越し準備もあったしで、ここで一回完全に切れた筈だったんです、あの人と。

 正直、ホッとしました。
 ホッとしている自分にも驚いて、そうか、僕は嫌だったのかもしれないと思いましたが、性欲に関しては苦しい面もありました。

 普通じゃもう、満足ならなくて。僕、おかしいんじゃないかって、そんな悩みもあって少しだけ病んでいた時期もありました。
 そういう意味で嫌だったこともあります。

 …話してみると自覚するものですね、僕結構、何重にも踏みつけられてる…。なんだかここまでバカだと笑えてくるな。

 …すみません。でもそれ価値観合いませんね。言わないでください。いや、すみません、勝手に話しておいて。

 ……でも、ちゃんと頑張れたんです。その時は。
 もう、気にしなくていいんだって。あれがなくなれば、平穏なのかもしれないって。

 僕は…大学まで出てますから、普通のところには行けましたよ。実は一浪というか、ダブりましたけどね、高校で。

 ええ、通信になっちゃいました。

 …あんまり、撫でないでくださいよ。痛くないけど…なんか、嫌です。すみません。これも、そんなに良いものだって思ってないから。

 まぁ、いいです。そりゃ、気になっちゃいますよね。先輩、優しいから…。

 僕って、やっぱり卑怯ですね。上手くもない、そんな顔をされると、なんか痛みます、苦しいです。勝手なことばっかり言って、迷惑でしょう。

 …優しいなぁ、惚れちゃう。ふふ、話しにくい。

 あ、そうでしたね。はい、この辺から寝言です。僕はいま寝てますね。先輩もどうぞ寝ちゃってください。

 姉が自殺したのは引っ越しの…二日目でした。荷物を運んでいたのを覚えてます。

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