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「……そもそもな、」
「だから医務にしたんすよ。俺も連れて行きたかったですが」
「……加東、聞こえるか?お前いまから今日の分の」
「部長ちょっといいっすか」

 ダメだなこりゃと、昇は受話器を部長から取り上げ「もしもし加東」と、いやまぁ知ってるんだけどなと思いつつ「おはよう」なんて無駄なことをしていた。

「どう?調子は」
『あ先輩』
「昨日すっ飛んだやつは渋谷の高速タイピングでどうにか戻したわ。構成しとくから。めっちゃ字詰まってんじゃん」

 ふ、と笑いながら電話をする昇に「おい宇田」と部長がうるさいので、掌で「ストップ!」の合図をしてやった。

「具合どんなん?」

 いやまぁ知ってるけどね。上手く返してね加東ちゃんという空気を昇が電話越しに送ると「いや………ちょっと、今日は歩けないです」と、部長に言ったら3時間は掛かりそうな返答がくる。

「んまぁ、様子見てな。一人暮らしだもんな、無理に歩くなよ。
 そう言えばなんなら有給消化ってしてない派だよね加東は。こっちはなんとかなるからまず君は食って寝てください。
 部長も元野球部で身体だけは人一倍丈夫なのでなんとかしてくれそうです。無理はよくありませんからね加東くん。行けそうなら病院な。
 次の勤務で皆君の飴を楽しみにしています。まずは飴じゃなくてほうれん草とか食って。お大事になさってください。部長に変わります」

 「なっ!」と吠える部長と「ふははっ、」と笑った加東の電話越しの声と。

 てめえ……と言いたそうな部長に「俺はわかりましたんで、」と受話器を返した。

 ぱっと部署の風景が目に入る、なんだか昇を見る皆の目がぽけっとしているのを感じた。
 ついでに始業前の浦野と目が合いこいこいとされ、全く悪趣味だなと向かった。

 浦野と共に部長を眺めると「兎に角…明日来なかったらわかってるな?」としか言えなかったらしい、部長はわなわなしながら電話を切っていた。
 浦野がこっそり耳元で「昨日サトウちゃんぶっ倒れたってマジ?」と聞いてきた。

「マジ。浦野流石だわ」
「わはは〜、全く自分が倒れちゃダメじゃんな?」
「その辺は帰りにそれとなく指導しといた。ぶっちゃけるとメンタルの問題」
「あー、だよねぇ。宇田ちゃんやるなぁ、頭は弱いけど身体だけは丈夫って言っちゃうあたりが嫌われるんだよ〜?」
「面白そうに言うなや、口が滑ったんだよ、あとそこまで言ってねえ」
「はは、中嶋に有給申請しに行ったら?」

 浦野と笑い合い、昇はしれっと自分のデスクに戻った。
 その間に木村も来ていたらしい「シュガーちゃん大丈夫かなぁ…」と心配していた。

「えっと、電気スタンドって今週末だよな」
「そっすね」
「んー、加東の文書構成し直せばいっか…こっちは。中身見てないからなんともだけど今日はそっち、がっつり固めちまお。
 木村と渋谷は中身見た?」
「見ました〜」
「あぁ俺逆に見てないや、なんとなくは打ったからわかるけど」
「ん〜。午前はじゃあそれについて渋谷と木村の意見も元にしてまとめる。プチ会議ね」
「ですねーちゃっちゃとやっちゃいましょー」
「木村はよくプチ会議してるよな、どう?」
「んーほぼほぼ伝えてありましたしまぁ文章には組み込まれてるかな〜て感じるんで、洗い出しですかね」

 方針も決まったし、なんとかなるかな…と時計を見れば8:36。あれ、二人とも早くないか?と思えば「明日シュガーちゃん来れるかなぁっ!」と木村は言った。

「明日お菓子買ってこよ…」
「俺も奥さんに一品…ほうれん草頼もうかなぁ…加東ちゃんそもそもほうれん草好きかなぁ」
「あー、あいつ好き嫌いないな、飯行っても」
「なんか…与えたくなりますよね加東ちゃんって…、くれてるのもあるけど」

 あー…なるほど、そうかも。
 帰ったら伝えてやらないとな、これは。あ、ついでに帰りはレンタカーも借りなければ…。

「…俺、仕事振りすぎたと思う?」

 ぽろっと出てきてしまった。
 「え、珍しいっすね宇田さん」と…確かにそうだ。

「いや〜…俺ら上手くフォローしてきてると思ってたからなぁ」
「仕事振る振らないはまず、部長じゃないっすか?」
「まぁねぇ…いや、その中でも得意不得意ってあるし…」
「まー、シュガーちゃんも宇田さんくらいにこー、ぽろっと言っちゃったみたいなの、もう少し欲しいですよね〜。なんだかんだ、調子悪そうなのとか、察知して動きますもんね…全然言われませんでしたよ。言いにくいのかな…」

 そこもそうなんだよなぁ。勝手にやってるんだよなぁ。確かに効率もあるが、何よりそれぞれ「気持ちよく仕事しよう」があったわけで…。

「ん、」

 そう思ったら気付いた。

「なるほど……」

 加東にはあの変態野郎の件がある。
 なかなか表に自分を出せないのかもしれない、まぁ、節々に感じてはいたが。
 しかし、互いに必要なことなんだよな、と違うことを考え始めてしまったところで「まぁ、良い機会だったな…」とした。

「ま、そっすね…」
「ですねぇ」

 甘んじていたのかもしれないし。
 再確認出来たところで今日はよしとしよう。

 仕事はそうして始まった。

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