5


 家に帰ると、リビングから「お帰んなさ〜い」と聞こえた。

 まぁ、そういえばそうだよな、誰かがいる環境なんだもんなと見れば、加東はテレビを観るわけでもなく椅子に座り、消毒液がテーブルに出ていた。

 何事だ、と昇は少し警戒してしまったが、テーブルを見ればピアスが側にあり、左耳を消毒しているようだった。

 自然と手首も目に入るが、取り敢えず変化はなさそう。

「あれ、ピアスなんてしてたっけ」
「あんまりしてないです」

 加東はティッシュで耳朶を抑えながら「金属、ちょっといまいちなんで」と言う。

 視線の先に転がっているのは、確かに金属製っぽいのが一つ。
 それと…買ったばかりのような、紙に刺さったままの…金色か、花のピアスが置いてあった。一緒についていたのだろう、普通の、石っぽい方のピアスが外されている。

 レディースだとわかったし、なんとなく、遺品かと察する。

「最近、命日だったんで…こっちのね、ファーストピアスをつけてたんですけど…こんなものでも、遺品なんです」
「あぁ、やっぱり…ん?」
「お姉ちゃんも金属微妙で。誕生日にこっちの、お花のやつ、これは樹脂なんですけど、あげたんですよね」
「なるほど…」

 気付かなかった…あれ?いや、着けてたことあったかもな?あれ?どうだったけな。
 どうやら左耳だけらしいが。

「これね、」

 ふと、楽しそうに加東が笑った。

「お姉ちゃん、ホントは両耳開けようとしてたんだけど、右耳ですでに膿んじゃって。ピアッサーのって絶対チタンだから」
「あー確かに」

 加東の向かいにしゃがみ、転がっているチタンのピアスを眺める。消毒の匂いがした。
 遺品ということは…つけてたやつなんだろうな。

「でも、最初は一週間つけとかないととか、言うじゃないですか?腫れちゃってねー…。一緒に透ピンも買いに行ったんですけどね」
「あ、でも加東は左なんだな」
「そうそう。最期、左に開けてたんですよ。右の時怖い〜って左は保留だったけど…心機一転だったから開けたのかな…。それ、お姉ちゃんが最期につけてたやつなんです」

 やっぱりそうなんだ。

「僕が開けるとき、ふと意味を調べたんですよね。なんか、あながちというか…。
 右は女性、左は男性、みたいな意味があるそうですよ。ついでに「片耳ピアスは同性愛アピールだ」てやつ。あれはそんなわけで、男性が右耳だけだと、とか、女性が左耳だけだと、みたいなのがあるらしいです」
「あ、そうなんだ。ただ単に片方、じゃないんだ」

 ティッシュを取り、加東はその、石に模した樹脂ピアスを着ける。

「そうそう。
 …元々は、右耳は守りたいもの、みたいな感じで始まったらしいですよ」
「へぇ〜」

 加東が手を出すので、そうだったなと昇は加東にファーストピアスを返した。

「…清花さんって言ったけ」
「…はい」
「洒落てるな〜ぴったりな感じすんじゃん」

 加東はそのファーストピアスを、空いている穴に射した。

「あ、確かに。なんとなくその場で買ったけど、そうかも。まぁ、ピアス揃わなかったんで、お花のつけてなかったけども。
 僕も流石にお花…つけられないなって、こっちにしてみてるんですけど…薄ピンクだから目立たないけどこれもちょっと女の子っぽいんですよね」

 似合ってないわけでもない気がするなとは思った。なるほど、意識を滑ったのも納得だ。

 てゆうか、金属が微妙だと言うのに…切っちゃうのか…それこそ化膿とかは大丈夫なのかなと少し思ったが。

「…あ、もしかして、一回帰った?」
「あ、はい。言ってた通り通帳と印鑑とこれと…スーツ一着です」
「明日はなんとかなったな…木村がお菓子と、渋谷がほうれん草を持ってくるってさ」
「え?」

 間を置いてから加東は笑い、「はは、ナニソレ」と言っていた。

「心配してた。
 まぁじゃあどうすっか。車借りようかと思ってたから残りも取り行く?あいつはいついんの?」
「今日はいなそうですよ。明日定休日なんで」
「…てゆうかアレは何してる人なの?」

 水曜定休日…わりとあるな、不動産かな。いや、でも昨日いたんだよな…。

「お菓子の人です」
「え?」

 おかしな人じゃなくて?

「パティスリー」
「…え、ナニソレスッゴい意外」
「ですよねー。
 昨日はあれから夜勤だったと思いますよ。定休日の前日、の仕込みで…多分、いたし」
「え、じゃあ連れて来た意味」
「まぁ…」

 加東が苦笑いをした。

 あ、いやでもじゃあ誰もいない中で放置になるかと思い当たれば「それはそれで…一人体調不良、なんで…」とフォローをされた。

「…ん?明日定休日なら今日はいるんじゃないの?」
「前日ですから。多分…まぁ、定休日前日は大体忙しかったり朝帰りだったりなんか色々でいないことがわりと多いです。木曜日は朝早い出勤だし」
「なるほど…」
「いや、わかりませんけどね。昼はいなかったです」

 まぁ鉢合わせても良いように一緒に行くのだが…。これも過保護な気はしなくもない…。
 取り敢えず、まずはレンタルを手配した。 

- 34 -

*前次#


ページ: