6


 丁度、Bluetooth連動の車だった。
 憂鬱になるのもなと思い、昇は適当にスマホから音楽を鳴らすことにした。

「土曜日は、帰りが遅かったみたいなんですよね、多分」

 爽やかなサウンドが流れた。

 そういえば当日の話は聞いてなかったなと思うと、「わ、洋楽ですか?」と、自分で言ったくせに加東は話をずらしてくる。

「確かに英詞だけど全然日本人。
 あれからの帰りか」
「はい、うわなんかこの人声ねちゃっとしてる…」
「まぁまぁ3曲耐えれば良いかも。確かにねちゃっとしてるけど良い詞書く。多分世代じゃないよな。
 多分遅かったってのは…」
「僕、昼まで伸びてたんで」
「伸びてたってなんだよ…」
「いや、なんか言ってたじゃないですか、玄関のところにあのワンピースがあって」

 Ah,Ah,Ah,Ah,Ah〜♪

「いや気になるなこの声っ」
「確かにこんなあんあん言って歌になってんの凄いとは思うけど」

 Ah,Ah,Ah,Ah,Ah〜♪ This brain……

「なるほどあんな感じで吐きまくってか」
「ですね。まぁ忙しいらしいんですけど、金曜が特に。昼起きて這ってベッドまで行った気がしますけどあんまり記憶がないまま…日曜日でしたね」
「朝帰ったよな、伸びてても放置かあいつは…」
「まぁ、だってなんか、そういうつもりでしょうし土日も忙しいみたいで…だから月曜は多分、夜からなんですよねー」
「え、週6ではないでしょ?」
「はい、まぁ土日どっちか休みですね。大体日曜日かなぁ」
「…まぁ別にあいつがどういうシフトだろうと良いんだけどねっ」

 随分悪趣味なことに変わりないけど、やっぱり意外だおかしな人。

 なんだろ…やっぱり子供好きなんだろうか…でもだったら加東はもう…27だったと思うんだが…そして姉ちゃんと同じなら…8歳上って35じゃないの…?
 俺の2つ上かもしれないとか笑えない…まさにstopped growingなんですけど…。

 「やっぱねちゃっとしてる…」と言う加東に、チョイスはわからないがこんなヤバ気な話を緩和できたのは正解か…と気まずくならずにすんだ。

 アルバムの半分くらい、「うん、確かに良いのかも…」と加東が言っているあたりでマンションに着いた。

 カモンゴースト…いたらどうしよう、スタンバイか…と昇は身構えたが、加東の言う通り電気は点いていなかった。

 あっさりと加東が鍵を開けた室内、いやこれ普通によくよく考えたらここに服掛かってたら確かに失神するわ…とも思えたが今回はそんなこともなく。

 電気を点けるとリビングのちゃぶ台には、ケーキの箱が置かれていた。

「あ、帰ってきたんだ」

 取っ手のあたりに“澄音へ”と、手書きの付箋が貼られている。
 …まぁ、仲が悪いわけではないのだろうが。

 加東はそれを特別見ることもなく、側の寝室に行き、鞄にちゃっちゃと着替えやらを詰め始める。

「…これ」
「はい?」
「貰ってく?」

 ぼんやりと昇が言うと、加東はなんだか凄まじい物を見るような表情で「え?」と言った。

「いや、なんか」
「あーよくあるんです。余ったやつ。冷蔵庫にでもしまっておいてあげてくだ」
「いいの…?なんか…」

 あまり加東の意見を聞いてこなかった気がしてきた。
 もしいま、ただ流されてこうしてしまっているのなら…と、少し過ってしまったが。

「…今更言わないでくださいよ」
「まぁ…そうか」

 …どう転んでももう、エゴは発生してしまっている。もう少し考えればよかったかと思えば、「いや、まぁいいんです」と加東は言った。

「…先輩が言った通りね、僕ちょっと、多分限界なんです」

 そう言って寂しそうに笑うのも…胸が痛くなる。

「…あとは先輩を襲わないようにしないと。すぐ出て行きますから」

 それにもにへっと笑うのに、つい、「無理しなくていいんだからな」なんて言ってしまっている。

 …あぁ、もうなんて、こんな、飼い慣らされたエゴイズム。そんなの、何になるっていうんだと思えば「先輩、」と後輩は荷物を持ち、鞄を一つぐいっと渡してきた。

「…こんな機会を与えてくれて、ありがとうございます。考えました、僕もね。だから、大丈夫なんです、本当に」

- 35 -

*前次#


ページ: