4
胡散臭い笑顔からころっと表情を変え「澄音をどうする気なのお前」と牽制してきた。
「は?」
「あんたんとこにいんでしょ、あんたが連れ出したんだから。元々あの子は俺の物だからさ」
「物?
あのさ、あいつが出て行ったってのでなんでわかんないの?空気読めないのかお前。基本的人権の尊重って言葉知ってる?」
「…まぁな、澄音はあんたのこと気に入ってそうだったよな。でもあんた上司だよね?どうかと思うよ」
「…何を勘違いして頂いてるかは知りませんけど、仕事とプライベートは別で、いまここ会社なのワカリマスカ?あのね、例え出勤してきてても、あんなもん見せつけてくる“一般人”なんて相手出来ませんよ、私怨でしょ?
この動画は何?脅しでも掛けようって」
「あ、いーねそれ。
ふーん、なるほど、あいつに送ってみよっか。血相変えて来てくれるかも。そしたらあんた」
「部下の命の危機に関して当たり前に見過ごすわけないだろ、コンプライアンスって言葉知ってマスカ?えぇ?」
聞きながらスマホを弄る阿久津は「あ、いーからそーゆーの」とぞんざいに言う。
「…愛しの先輩とテラスで会ってるよ、と。
既読着いたな。はは、来るかな。じゃあ帰っていいよ」
「聞いてねぇのかこのサイコ野郎。部下とストーカー会わせるわけには行かねぇよ」
「…は?」
怒ったな。
阿久津は睨んで立ち上がり、昇の胸倉を掴んだ。
「何がストーカーだって?」
「殴るのか?傷害罪追加するけど」
少しだけいたまわりが僅かに騒ぐ、空気は完全に冷たくなった。
「…こっちは誘拐されて困ってんだよ」
「こっちは保護してんだよ、大体お前らの関係って何?そんなこと言える立場なの?
あいつの姉ちゃんの旦那ってのも嘘で、小さい頃から追いかけてんだよね?挙げ句姉ちゃんを自殺に追い込んだんだよな、それもあいつに脅しを掛け」
「っはははは!」
阿久津は笑い額を寄せてきては「知らねぇくせに口挟んでんじゃねぇよ」と凄む。
「あいつが脅しだと思ってんのならあいつがバカなだけ。べっつに何も怖がることなんてないのに!」
「…はぁ?」
「姉ちゃんだって勝手に死んだんだよ?バカじゃないの?
可愛い女だったけどね、ははは、思い出したら勃起しそう。残念ながら弟の方が寝心地良いけど」
「……どういうことだ」
「別に死ななくてもよかったんだよ、素直に俺でイッてんだからあの女。ははっ、バッカみたい。二人して勘違いしやがって。
まぁあいつには言えねぇけどな、バレちゃうし」
「…それだけのことをした自覚は」
「可愛がってやったよ?ちゃんと。まぁよほど弟のことがショックだったみたい。やめて、やめてあげてってひぃひぃしながら譫言吐いてたけど」
……それは。
「…加東は知らないのか」
「あ?」
「加東は、姉ちゃんが自分のことでショックを受けて死んだと…そうやって脅したんじゃないのかお前、なんだそれ、まさか姉ちゃんまで」
「ま、時効っしょ。そんなに良くもなかったし。そりゃそっか、澄音は俺がそうしたんだ」
…怒りを理性で押さえつけ、手を払うに留めた。
イヤホンの電源を切り、「…威力業務妨害と迷惑防止条例方違反、」息を吸ってスマホを叩きつけるように置く。
「はぁ?」
「…ついで、洗い出せば強制性交致傷とあとなんだぁ?児童系もつくかなぁ、」
昇のスマホ画面の“緊急通報”が目についたらしい、「は?」と阿久津は表情を崩した。
確認したならそれでいい。
スマホを耳に当て「長々失礼しました」と謝罪する。
「正確な場所はマルビル向かいの“株式会社ジャパン”本社ビル、入り口付近ですが、」
警察はすでにちらほへらと、付近に見えている。
昇はぱっと阿久津の手を捕らえ、「凶器はねぇか」と聞いておいた。
「警視庁、すぐそこだから早いぞ阿久津博紀。すでに20分は経過してるからな」
自体を把握しぐっと手に力を入れた阿久津だったが、ふいに社内を見て「澄音…!」と呟く。
来ちまったかと思ったが、加東の姿を確認した阿久津はまた「澄音!」と怒鳴り付けるように呼び、最早そちらしか見ていなかった。
手を振り払おうとしている阿久津に「関係者以外極力立ち入り禁止ですけど、」と力を入れる。
入り口前で立ち止まってしまった加東に「こっちへ来るな!」と昇が荒々しく言ったのと、警察も目に入ったらしい、加東は動けなくなっていた。
「…せん」
「…加東、引き返して部長に伝えてこい不審者対応だと!早く!行け!すぐ!」
警察もそろそろ「通報者の宇田さんでしょうか」と歩み寄ってきている。
「…先輩!」
「良いから早く行け、昼休みが終わっちまう!」
まるで怒鳴ってしまったが、逼迫した様子を見てか、ふいっと加東は走り出した。
「澄音、待」
警察はあっさり阿久津を捉え「貴方は社員さんでしょうか」と聞かれていた。
「110番通報がありまして、社内に不審人物がいると」
「…は、」
「というか…おわかりの通り電話内容はこちらも聞いていましたんで。
わからないこともいくつかあったんで、宇田さんもこのまま署まで来て頂いても」
「構いません。俺はどのみちこの男を業務妨害とストーカーで被害届出そうとしてましたし、」
「てめ、」
「その辺も含めお話を聞きましょう」
- 40 -
*前次#
ページ: