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「…ハイハイっ!じゃあなクソ人事!」

 鞄を取りに行かねばと思えば、「じゃあな問題児!半休だから!」と言われてしまった。畜生、もうどうにでもなれ。

 今頃…と考えると確かに有り難いけど、そこで感謝の言葉なんぞを掛けたら次に繋がらない。

 急ぎ足で部署に戻り、木村と渋谷に「迎えに行ってきます!じゃあね!」と告げただけで早々に退社した。

「行ってらっしゃい!」
「任せましたよ!」

 考えてみたら、何も問題はなかったんだ、全然、ひとつも。

 終業時間ジャストくらいに警視庁に着いた。
 自分は取り調べにどうやら3時間近く掛かったらしいが、加東はどうだ…もっと掛かるのかと部屋を覗けば、丁度何かを書いているのが見えた。

 加東を取り調べていた警官が宇田に気付き、静かに手を上げてくれた。
 それに加東が気付いたようでキョロキョロしていたが、警官が書類を受け取り、終わったようだった。

 加東が警官に何度かヘコヘコ頭を下げてドアが開かれた。

「あっ、」

 加東は昇を見て、「すみません、お待たせしました」と…案外、確かに心許はないが、スッキリした笑顔でそう言った。

「…ん」
「では」

 二人で警視庁を後にする。

 どうだったか聞く前に、「スッキリしました」と加東は言った。

「…本当に巻き込んでしまってすみませんでした」
「…別にそんなことはいいけど」
「…怖かったけど…先輩、本当に何もなくてよかった、大丈夫だったんですよね?あの人に、」

 その辺をちらちら見る加東に「俺は大丈夫だけど」と続いていく。

「…加東は?大丈夫?」
「…上手く話せたかはわかりませんが、概ね…あの人たち聞き上手ですよね、話せたと思いますが、」
「うん」
「…少し、心も痛むもんなんですね。あの人、そうかって…なんだか僕も悪いことした気分…いや、まぁしたんでしょうね」
「…その、昔の話しとかは」
「延長線上でね。動画もありましたし……」

 やっぱりか…。
 いや、それよりも……姉ちゃんのことは、きっと知らない方が良いんだけど。

「でも、そう、会社とかには、なんというかあんまり影響ないように…て言っても、先輩の被害届があったからなんですが…」

 まぁ、だからそうしたんだよ。別に言わないけど。

「そっか。そりゃよかった。そこが一番の懸念で」
「先輩は大丈夫そうですか?」

 不安気に加東は見上げてきた。
 …本当は気丈そうにしているが、果たして大丈夫だったのか、少し目が赤い。

 なんの根拠もないが、いや、気持ちがある。これが根拠だと「ダイジョーブでーす」と、昇はポンと加東の頭を撫でた。

「加東」
「…はい?」
「ちょっと歩こ」

 加東が疑問そうに「はい?」と、着いてくる。

 特に何も話さないまま昇は纏めていた。これは、一体なんなのかということについて。
 そのモードがわかっているのか、加東は特に何も言わずにただ着いてくる。

「…考えてみたけど、これがよかったとか、思えなくて」
「…はい?」
「……どうしても掘り返さなきゃならなくなっちまったなとか。やっぱ、俺あんま上手くねぇなって」

 うっわ〜。
 何このウダウダ愚痴タイムみたいな。超情けねぇけど昇が自己嫌悪していると、加東はキョトンとして「珍しいで…うーん」と考え込んだ。

「先輩のこんな一面も、そういえば最近見た気がする…」
「んーまぁ実はそうなの、わりと優柔不断だし…」
「そうですか」
「…今だって何言って良いかわかんねぇし、もうなんなんだろうなって、俺もめちゃくちゃ心折れそうだわ」
「…はぁ、」
「も〜…。
 あんときだってマジでタッチの差でお前が……刺されでもしたらとかマジで口にしたくないくらい怖ぇし、」
「…はい」
「手首切ってんのもマジ痛そうですげえなんかすっ飛んでもうわりとメンタルやべぇよ、なぁ加東!」

 ぐだぐだと加東を見れば「はいっ!」と少し肩に力を入れたようなので、昇は然り気無く加東の手を取り早足になった。

 加東はそれに「えっ!」と驚いているが、もうバカタレ…と、顔を見てやれば加東が戸惑っているようで、ただ……もうなんだかわからないが泣きそうになり、するっと恋人繋ぎをしてやった。

「あっ……!」
「…何」
「えっ、いやっ、」
「……歩こう、兎に角」

 いやこれちょっと…と言っている加東に「いーの!」とは言うが、何故だか顔を見ることが出来なかった。

 色々相まって…熱い。そう、物凄く温かくて。

 「先輩!?」と言うのに「あーもう!」と、ガバッと振り向いてぎゅっと抱き締めてしまった。

「………!」
「…クッッソほど、俺もう、マジで、お前のことで頭いっぱいだったんだかんな!」
「…ぇえ…」
「な、なんでこんななんかなって、あぁもう!」

 マジで一粒涙は出てしまった。
 その熱さに余計抱き締め、「お前がいてよかったよバカ野郎っ!」と言葉が出てくる。

「…先輩ここめっちゃ道路なん」
「うるせえ、あーマジ温けぇよう……かーっもうはー……よかったぁ…っ!」
「先輩ここめっちゃ道」
「気にすんじゃねぇいいんだよ!」
「えっ、先輩ここ」
「安心した……」

 離れたら尚のこと「?…?」となっている加東に「考えた結果です!」と勢いを付ける。

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