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「いえ、いないですね」
「…堅苦しいからタメ語がいいんだけど」
「追い追い考えましょうね。僕はまだ君を知らないから」
「あんた可愛い顔してるよね」

 …やっぱり読めなし話が噛み合わないな…。

「…いや、美人系かな?」
「今の時代は同姓でもセクハラですよー。君の方がカッコいいじゃないですか。182センチかー、いいなぁ」
「盛ってるよ?178」
「充分あるよ〜」
「…モデルじゃ当たり前じゃん」

 …俺が悪いのかな。話の振り方とか持っていき方とか。なかなか聡い子だなぁ。

 その場にアメくらいしか置いていなかったので、試しに「何味が好き?」と聞いてみた。

「別にアメに興味なんてないけど…」

 座ると急に彼は俯いた。
 ふむ、なるほど。

 一握りして彼の前に拳を作りばらっとアメを撒いた。
 彼はポカンとし、俺をじーっと眺めるので…男前だなぁ、「飲み物買ってきますよ」と言っておいた。

「好きなものとかあれば聞きますけど、気分とか」
「…あんた、そっちの人だったりする?」

 ふいに聞かれてビクッとしたが、原因にぱっと行き着き「…もしかしてピアス?」と聞けば、彼はこくっと頷いた。

「…意外に日本人チックと言うか、古いね〜」
「海外じゃ」
「海外じゃ今は逆に言わないでしょ。君は左だけみたいだけど。お茶買ってきますね」

 なんとなく、朝に感じた違和感が溶けた気がする。今の一言で。

 モデルだから当然お洒落だし、顔も良いがパーツを見たらと考える。多分だけど短髪でなければ少し、女性顔かもしれない。

 朝のテレビでは爽やかな印象だったけれど、なるほど、ピアス結構開いてたな。朝はしていなかったのか、目立たないのをしていたのか…。

 普段はコンプレックスに感じているのかな、なら少し納得かも。

 ふっと右耳に触れる。まぁ間違ってないけどね。これも本当に中世ヨーロッパスタイルで芳明と片方ずつ空けた、俺が高校を卒業した日に。

 そういえば今年も誕生日、記念日と間違えず覚えているだろうか。とはいっても、自分も近年よく間違える。
 念のためどちらの日も休みを入れているが。

 女性が多い会社の利点はそこだ。
 家庭の事情だのなんだの言えば、忙しくても「全然OK!仕方ない!」と言う雰囲気になるから。

 …まぁ、芳明はそうもいかなかったり、どうしてもと取った休日が記念日じゃなく誕生日だった、は今までにあった。
 そっちか…と少し落胆はするのだが、あっちは「あーよかった!」になるのだから、この辺の差違も曖昧だ。

 互いに生活リズムが不規則な仕事柄、一緒に住んでも入れ違い、なんてこともあるし、互いに落ち着いたのだろう…結構レス気味だ。

 明後日の休み、久々に話題が出来て買い物、いいなぁなんて思っていたが、これでは休日もどうなるかわからないな…。

 思い出したので軽く芳明にメールをしておいた。多分、今日は夕飯を用意してくれるだろう、しかしこの雰囲気は間違いなく、夜会議だ。
 でもまぁわからないし…と匂わせてしまうのは、やっぱり一緒に居たいからだ。

 自販機で3本お茶を買って戻ると、眞田さんもいた。平中くんはアメをこしょこしょと手わすらしている。
 「ありがと西賀くん」と言う眞田さんと、平中くんの視線を浴びる。

 …やっぱり、なるほどな。

「あ、はいこれ」

 眞田さんがふと、果物のグミ…戦隊アニメとコラボしたやつを渡してきた。

「あ」

 ハモったのは平中くんと同時だった。

 …わぁこれ確か野島さんのお子さんと話してたやつだ…。

「野島さんが西賀くんにって。お子さんが見つけたからって言ってたよ」
「あ、はい。勇気ゆうきくんがこれ、好きみたいで…あの、この前の、休日に入った撮影中に話してたんですよ」
「平中くんもアニメ好きよね」
「えっ」

 眞田さんがにっこり話を振ると、平中くんはやはり眞田さんから少し視線をずらし「あ、はい」と素っ気ない。

 ふと思い立ち、パッケージの後ろからグミをパーティー開けし、「折角なんで、みんなで食べましょー」と言ってみた。

「え、いいの?なかなかないのにたまたま二つあったからって、野島さん言ってたよ」
「良いことはお裾分けです。幸先良い感じがしますね。あとで勇気くんに何か考えよ。
 平中くんの方がもしかして詳しい?俺実はそんなに詳しくなくて。野島さんがテレビで言ってたから調べてみたんだけど…あとは勇気くんから少し教わったくらいで」
「そうだったんだ〜。
 そうそう、彼、あまりテレビというより…資料読んだ?今専門学校行ってるのよね?声優の」

 あ、まだそこまで読んでなかったな…。

「まぁ、はい」
「どちらかと言えばそっちに行きたいみたいだけど…それでまぁ、預か」
「ハッキリ「前のマネージャーと喧嘩した」って言えば良いのに」

 ぽつっと、目を合わせないまま彼は眞田さんにそう言った。
 眞田さんは子供を見るような、悪い印象ではない「全く、」の表情だが、彼には見えていないだろう。

「なるほど。
 やりたいことがなかなか理解されないというのはまぁ、あるあるですよねぇ…」

 スターライトに居ては、俳優業に流されそうだと感じたのだろうか。
 まぁ正直、朝の番宣を見ればそう感じるし、この子の予感は的中しているだろう。

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