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バイオリンの人、担当の野島小百合さんへのサラダを持って事務所に入った瞬間だった。
リーダーの眞田さんが待っていました!と言わんばかりに俺を捕まえ「西賀くん!」と…あの平中レイアを連れていた。
「彼なんだけど」
…自分の第六感なんだろうか、芳明も見越した通り、あまりの的中率に我ながら凄いと自嘲する思い…。
「そろそろ君にももう一人つけても良いかなって、野島さんにも聞いてみたんだけど」
…そろそろって、前回と全く一緒じゃん。
今朝は番宣で情報番組に出ていた。収録終わってすぐなのかなぁ。
取り敢えず挨拶しなければなと、「…西賀春」まで言った瞬間彼は、髪を弄りながら「あれ?女?」と不躾な態度で眞田さんに聞き、俺をよーく眺め始めた。
…画面越しとは全く性格が違う芸能人、というのはわりと慣れたが……目か。そういえば伏せ目だったもんな、自然な薄い灰色だと気が付いた。
これは本物のハーフなのかもしれない、朝はそう感じなかった。
「あ、男の人っすね、」
「貴方が言ったんでしょ。
スターライトから少し預かってくれって。平中くん、」
親会社か…。
眞田さんに促され、彼は無愛想に「…平中レイア」と名乗った。
見た目は大人っぽいけど、もしかすると10代かも…。
「初めまして、西賀春雪と申します」
営業スマイルに切り替え、反射で名刺を渡した。
「平中くん、スターライトが少し、固めたいみたいで」
「…丁度朝、番宣を見ましたが…」
つまり…まだ、何かの撮影途中じゃないのかな…だとしたら、スケジュールはもう殆ど決まっているのか、それとも撮り終わって今いるんだろうか…。
流石にいままで、これほど急なパターンはなかった。
「スケジュールは今から」
「あ、えっと今から野島さん、入るのですが…」
「さっき野島さんから許可貰っておいた。少し話しておきたくて」
…それもう「お断りします」段階じゃないじゃん…まぁ多分わざとだろうけど…。
どうも眞田さんは俺に振りたがる。
多分中途で、今のところ俺が一番の新人(同期はいたが皆3ヶ月から1年未満で辞めた)だからだろうな…。
「君のステップアップと思って」
だなんて、女の人は大抵こういう言い方をしたりする。俺の為か…まぁ確かにここ、女性多いからなぁ。男手は助かるんだろうけど…。
別に良いけど前持って言って欲しいなと眞田さんを見るが、眞田さんは不自然なまでに俺と目を合わせもせず、ごく当たり前に「じゃ、会議室行こっか」と押し進める。
「あのー」
ふと、平中レイアは面倒臭そうに「別に良いっすよ」と溜め息を吐いた。
「なんか?あんま歓迎されてなさそうだし。別に車くらい乗れますからあんま、いいっすよ」
…こちらの事情が態度に出てしまっていたのは重々承知だったが、彼は灰色の綺麗な目で俺を見て「騙し討ちだったみたいですんませんね、」と言うが、明らかに眞田さんに向けて言っているのはわかる。
しかし眞田さんも慣れている。黙って眺めるのみ。
「…すみません。僕、変な態度を取りましたか?」
「は?」
「いえ、気分を害されたようなので、謝ります」
少し頭を下げればまた「は?」と、また言われてしまう。
「…いや、てっきり知ってるかと思ったんで。サイガさんでしたっけ、露骨に驚かれたからなんかなぁと」
俺は敢えて「ふ、」と砕けて笑い「いえいえ気にしないでください」と声を掛けておく。
彼も黙り、まるでこちらの同行を伺っているようだ。
「お話が聞きたいです。僕で不快ではなければと…こちらは貴方のパフォーマンスの踏み台ですので。
眞田さん、彼、素直な方なんですね」
こういうときは相手にネガティブではいけない。
眞田さんは得意気に笑い、「正解かもしれないわね」と言った。
俺は眞田さんにまず、「これを野島さんに渡しておいてください」と、来る前に買っておいたチキン入りのサラダを渡した。
「わかった。先に入ってて」
サラダと引き換えに平中レイアの経歴書やら何やらを渡され、二人で先に会議室に入る。
「既婚者なんすね」
平中レイアは俺の手を見て、挨拶のような意味もない話を振ってくる。
ピリッとした空気を自分が作ってしまったと思ってるんだろうか。つんつんしている割にはやはり、案外素直な子なのかもしれない。
「はい、まぁ」
平中レイア、19歳ファッションモデルと記載されている。アイルランドと日本のハーフだそうで…。
遠いな、アイルランド。寒いだろうし…。
「あんたいくつなの?若いなと思って驚いたんだけど」
「26になりますよ。平中くんは大人っぽいですね」
「へー!まぁでもそっか。そう?」
「未成年には見えなかったなぁ」
「どんくらいやってんの?これくらいよく見るでしょ」
「まぁそうなんだけどね」
「今めんどいと思った?」
さらっと聞いてくる、と言うか突っ掛かってくるような感じだな…。やっぱり番宣の爽やかさとは少し違う、何より口数が多い。
「いえ」
「そっか、実際どーでもいーよな」
「そうじゃないですよ」
「いや、俺だったらどうでも良いよなって思ったんだけど、あんた変わってんね」
…事実面倒だなとは思ったけれども。
しかし彼はころっと何事もなく「子供いんの?」と聞いてきた。
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