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 吐息を漏らしながら首筋を撫で、「…良い子だねぇ」と溶けそうな彼はまた少し寄ってくる。

 自分もはぁはぁと熱の意識で「もう無理だ」と見上げると、義父が何を考えているか…碌でもないとしかわからない目をしていて…。

 ただ先の筋を撫でていただけだが、「手も熱いな」と手の中のそれが少しだけ固くなっていく。

 そのまま手に力を入れて。

 そう言われ従うと、彼は腰を激しく動かした。
 そろそろ出るだろうと察し、枕元のティッシュを取ろうとしたが、「いい」と言われ、しょーもないなと諦めの心境。

 熱い体液が少し、こちらに飛び出した。顔には届かなかったが、手はぐっしょり、薄めの白で汚れてしまった。

「舐めて」

 非常に気分は悪かったが、しなったそれを口で一通りさっさと綺麗にして噤んだ。やはり吐きそうだ。

「熱くて溶けそうだ」

 そう言ったクセに、特に何も知りませんよ、とでも言いたげな澄まし顔をした義父は「中ならもっと熱いだろうな」と、どこかへ呟き出て行った。

 気配がなくなるまでグッと堪え、しかし本当に去ったか曖昧なまま、どうしても窓を開け吐こうとして……何故、止まる。喉に引っ掛かって、辛うじて洩れる嗚咽と胃液。

 溢れていくのがただ、怖い。
 アクリルの向こうはけして映らないから。

 くらくらする。

 そっと部屋を抜け洗面台に向かい、無になろうと手を洗い口を濯いで歯を磨いた。

 誰かに、部屋を抜け出したことがバレてももう、どうでもいいとまで割り切ったが、不思議とバレないし、それに関して「バレなきゃいいや」と理論が反転した。

 部屋に戻って布団の中で丸まってふと、母に昔聞いたことを思い出した。

 ある日、たまたまだった。夜、側の寝室で父の声がしたのだ。
 トイレに目覚めてしまったときだった。

 良いのか悪いのか、なんとなく悪いような気がしたが、葵は扉を開けさっと、母と父の寝室を気に掛けた。

 ドアは閉まっていても、二人は明らかに寝たフリをしたと察したが、「それなら多分、気付かない方がいいことなのかもしれないな」と、何事もないようにトイレに行き、それからこうして布団に潜ったのだ。
 神経を研ぎ澄ましたが特に何もなかったように静かで、いつの間にか寝てしまい、いつものように学校に行って。

 子供ながらに「愛情」という単語は知っていた。何故だかわからないが、それでやっと意味をピンと、理解したのだ。

 何日かしてからだったと思う、ずっとモヤモヤしたままで、思い切って母に聞いてみた。
 『お母さん、僕のこと好き?』と。父が母に言っていた、熱を感じる肯定的な一言だったからだ。

 母は優しく微笑み「当たり前じゃない、好きよ」と答えてくれた、だからもうひとつ聞いたのだ「愛してるの?」と。

「…愛してるには色々な意味があるのよ。いずれわかる時に思い出してね」

 養父は毎度、譫言、心が籠っているかはわからない…歯の隙間から「愛してる」と溢すけれど、別にこちらは質問していない。

「好きと愛してるは違うの?」
 その時母は「大人になったらわかるのよ」と言った。答えてくれなかったのだ。

 …幼い頃を思い出すと必ず最後には、泣く両親、それを冷たく見下ろしながら自分に優しく「おいで」と言った義父の映像が浮かんでくる。

 母は自分に愛情を注いでくれていた、最後の最後、養父の冷たい目に首根っこを捕まれたから、言えなかっただけだとも重々わかっている。

「こうちゃん、大好き」

 そう言った時、まだ自分はわかっていなかったかもしれないが、洸太が視線を外し「お、おぅ…」と気まずそうに言ってから、「次は、ドッチボール、しようぜ?」と、あの時も答えは返ってこなかった。

 けど多分、あの時のこうちゃんは……。

 …熱で頭がふにゃふにゃするし、余計な記憶、雑念ばかりで動悸すらするのに。もう汚れてしまったのだと、慰めることは出来ないが、熱い股間にズボンの上から触れ、あぁめっちゃふにゃふにゃだ、死んでいるかもしれないなと無駄なことを考え、葵はそのまま眠りについた。

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