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…あ。
ぐっと鞄を渡してくれた手は多分…小さいから裕翔くんだ。
そろそろ鼻の表面張力は限界だったし助かった。鞄からなんでもいいからと出して鼻水を拭いたのは、どう考えてもズボンだった。
そのまま3人で階段を登りながら、「昔もあったよなー」と、当たり前に言ってくる裕翔くんが有り難かった。
いざ屋上前の3.5階、踊り場に着くと、裕翔くんはどさっと座り「さて、」と見上げてきた。
どうやらこうちゃんは本当に骨が痛いらしく、2段下がった場所で立ち裕翔くんと向き合う。
葵は気まずくその1段上で壁に寄りかかった。
「…葵でいいんだな?えっと…」
取り敢えず頷いた。ちなみに高槻でした、と思いながら。
「似合ってんな〜って、言われたくないやつ?」
「…ぃや、」
「あ、ごめ」
「あいや…あの、ほぅじゃなっ」
鼻声っ。
ただそれは流すように「そーかそーか超似合ってるわ!」と裕翔くんは笑い飛ばしてくれたが…。
「…不謹慎だぞ三澤」
こうちゃんが少し低めに言った。
「なんでー?いみぷー!」
「だって、」
「いや、あの、」
無意識にこうちゃんのシャツを掴んで「あ、」と離した。最近自分で気付いたが、多分癖なのだ。
「う…嬉しいから、いいよ、」
「………そーなん!?」
「ふん、わりと…」
「あ、知らなかったわ…お前あれ親父に」
はっとこうちゃんは口を閉ざした。
なるほど…多分誤解…いや、誤解ではないか。
「あ、いや、うん。好きだけど、う〜ん、まぁ、うん…」
説明が難しいというか…あまりしたくないというか…。
ちょっと助けてくれないかなとちらっと裕翔くんを見ればまさかの「付き合ってた?もしかして」と、葵が期待していたのとは全く違う返答がきてつい「へ!?」と声が裏返ってしまった。
「いやー、あいつ、いま便所ってるやつと。長内ああやってよくヤ」
「うるせぇねぇよ流石に、便所…」
ぱっと葵を見て「は」と、気まずそうにこうちゃんは黙る。
すみません確かにアレは俺が迫りました…。
「ん?何その空気?」
どうやら裕翔くんは誰の助け船でもないらしい。
「いや…あの…全然付き合ってナイデ」
「うっわー、長内とおんなじこと言うじゃん」
…確かに!あの女か!
「……いぇ、あの、彼とは何もなく覚えもない」
「え、マジな腹怖し?あいつ。ダイジョブかな」
「あ、いえその…」
「未遂だったんだろ全く」
こうちゃんにも裏切られつい「ハイ…」と答えたが…。
「…待って。人の性事情になんで突っ込んでくんの君たち」
「あ」
「確かに」
性事情…と呟く裕翔くんを置き去りに「特にこうちゃん!」とつい名指ししてしまった。
こうちゃんは気まずそうな表情を一瞬だけ見せたが「いや他人事じゃないから突っ込んでんですけどカリ首以上に!」と、開き直って暴露をしやがった。
「…ん?」
「な、なんで言うかなてゆーか下品な…」
「お前だよね、お前がやってきたよねマジで!」
「え?」
「まぁそうですけどいつも、昔から首突っ込んでくんのはこうちゃんの方じゃないの!?」
「はぁ!?」
「あの日だって…ば、バスケの練習してたんだもん本当は!」
「え?何のはな」
「んなわけねーだろお前あんとき、あんなでっけー柔らかボールで」
…覚えてたのか…嬉し…。
「…そぉだよ?そぉだよそぉだよ!?」
「んなわけ」
「何コレBL?」
「でも嬉しかったしホントは違うもんこの鈍ちん!」
…勢いは止まらなかったけど今更言葉はなかった。
そして、反響し静かになる空間。
「…ちょっと、黙らないでよ、いつも煩いじゃん特に裕翔く」
「惚気てる?お前ら」
「え」
「は?」
「なーるほど。お前ら一回ヤッただろ、俺にはわか」
「童貞は黙れっ!」
「あぁ!?」
「あー、え?童貞なの?裕翔くん」
間。
「う…るせえ!俺はお前らと違って一生を添い遂げる」
「体格差ないね、俺となら」
「えそこ?何時代だよ!とかじゃねぇの?」
てんてんてん。
「ふっ、」
「ははっ、」
「い、痛ぇっ、け、ケツ…ふはは」
それから3人で暫く腹を抑え密かにくつくつと笑ってしまった。
「あー、まぁ、まぁな。いっか」
「いや、よくないな」
「んーまぁそうだね」
取り敢えず葵がズボンを下から履きスポッとスカートを脱ぐのに「出た」だの「なにそれ」だの湧いたが、一つ、葵は安心した。
「…一発芸だよ」
「きーていーか、わかんねぇんだけどさ」
「大体いいよ。何?」
「久瀬はそういう派?」
「ん?」
「いや…」
「俺も思ってたとこ。無理矢理じゃないのかって」
「んー…」
わからないから普通に「…わからないや」と誤魔化し…いや、本音だった。
「…自分のこと、昔から、よくわかんなくて」
「…確かになぁ。俺も長内に言われるまで、いや言われても、お前のことわからなかったからなぁ、絶対俺の方が長く?長い時間?遊んだのにな」
「…裕翔くんはなんというか、察しがいいよ、昔から」
「俺は…いや、俺もわからないかもな」
「こうちゃんは」
「違う」
言い放ったこうちゃんは堂々と「お前のこと」と、目を合わせ言ってきた。
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