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「でもわかった。お前がわかんねぇから、わかんねぇんだ、俺も」
「…それは」
知りたいってこと?
聞けなかった、もしそうだとしたら「知りたいよ」………。
あぁ、それ。
どうしよう。なんか…。
「…わからないもん」
「…そっか、じゃあ、俺は?改めて聞くけど」
えっ。
そりゃぁ…その…。
「ま、ゆっくりあとでやってくんね?お前らはお前らで。
俺のなかではどっちもどっち。はい、終わろ。保健室!」
ぱっと立ち上がった裕翔くんに肩を組まれ、正直助かったような気がした。
こうちゃん、俺はね。
…でも、考えるだけでやっぱりどこか寂しくなったから。葵は俯いたまま胸をぎゅっと掴む。
こうちゃんはよぼよぼなおじいちゃんのように手すりを掴んで降りて行き、一度ふざけて裕翔くんが腰を叩くと、滑り落ちそうになったりした。
…これはヤバい気がするんだよな…。
階段を降りてからは、仕方ないと言わんばかりに裕翔くんはこうちゃんに肩を貸していた。
保健室に入ると、机で仕事をしていた桐生はプリントを眺め集中し声すら掛けて来ない。
葵が「センセ、」と声を掛けても、まるで上の空でプリントから目を離さず「あー、名前書いといて」といつも通りな返事。
「センセ、俺じゃない」
「…ん?」
やっと顔をあげた桐生は三人を見て「ん?」と状況を眺め始める。
葵が「この人」と掌でこうちゃんを指すと、一瞬間があり「何、どうしたの」と怪訝な表情でそう言った。
「いや、あの……」
「壁よじ登って落ちたらしいっす」
もごもごしているこうちゃんに、裕翔くんが軽く説明をした。桐生は更に怪訝な表情をする。
「…壁よじ登ったって何?」
「ロッククライミング的な?なんなのお前」
「…取り敢えずケツから落ちて…」
すっと立ちこうちゃんをじろっと眺め側に寄った桐生は、一度裕翔くんを見、裕翔くんはそれに従いこうちゃんから離れる。
対面した桐生が何の前触れもなくこうちゃんの腰下を叩くと「いってっ!」とこうちゃんは前にのめり机に手を付き、振り向いて桐生を睨み付けた。
「あー、尻尾のところか」
間があった後、裕翔くんが「ふっ、」と笑いながら「そーっす、尾てい骨っす」と答えていた。
「どー落ちたんだ、足からじゃないな」
「…足…えっと尻餅と言うかケツに陶器が」
「は?」
「覗きっす覗き」
「犯罪だなぁ」
再びぼんっとそこを叩いた桐生は葵を見て、「湿布湿布。ペラいやつ取って」と言いながら片手でこうちゃんのベルトを緩め、後ろを少し下げた。
…なにそれ。
少しモヤモヤしたが、自然と慣れた棚を漁る自分に、葵はやっぱりモヤモヤした。
「沈痛のやつな」と言う桐生につい、「はいはい、」とぞんざいに返事をしてしまう。
葵が振り向き桐生を見ると…こうちゃんのズボンというか下着だろう、少し中に手を入れ、「よこせ」と言うように片手をこちらに伸ばしてくるのに、更にイラついた。
「………」
イラついた葵は「いてて、」と言うこうちゃんや何もかもに構わず手を取りベッドに連れ込みカーテンを閉め、「センセー!見ないでよね!」と威嚇しておいた。
ぽけっとした顔のこうちゃんに「寝ろ」という合図をし、うつ伏せに寝たこうちゃんのズボンと下着を少し下げた。
…大体、尻尾のところってなんだし…!
イラついてみたはいいが、こうちゃんは少し体を捩り「ちょ、待て待て」と言った。
「…自分で…貼るから」
…あ。
「…あ、うん…」
確かに。何してんだっけ、今。
素直に湿布を渡したは良いが、とてもやりにくそうだし、「はいよ、」と湿布を返してきてうつ伏せに戻ったこうちゃんの湿布は少しよれていた。
「…なんかよれてるよこうちゃん…」
「…まぁ、まあ…」
ふう、と息を吐き「なんとなくわかったから貼り直し…」と手伸ばしたが、こうちゃんはまた身を捩り葵の前に手を出して「だ、大丈夫だから…」と気まずそうだった。
…そっか。
「…ごめん。わかった」
素直にカーテンから出て行くと、桐生の視線も裕翔くんの視線も浴びた。
出来るだけ自然に見えるように「こうちゃん、病院行ってね」と声を掛けたが、その自然さは多分不自然だと勝手に居たたまれなくなり我慢も出来ず、葵は保健室を出、少し、ドアの前で座り込んだ。
…なんで、こんななんとも言えない…どちらかと言えば最悪な気分になるのか。簡単なんだ、自分はこうちゃんに迷惑ばかりを掛けているし自棄にもなっている。
……こういうのを、世間では“反抗期”って言うのかなぁ…だなんて逃げるように俯瞰する自分。
頭を少し抱える。
ねぇ、出会わなかったら…再会なんてしなければ、俺は一体どんな気持ちだったんだろう。
再会するまではそんなこと、考えなかった、ただの、人形だったのになぁ。
前の家族の夢を見ることも、いま、そう、思い出すこともなかったような気がする。
気持ちに整理も付かないままに葵は一人、今日はやはり早退しようと教室に戻ることにした。
あぁ、もう、何も上手くいかないだなんて。
自分がいつも手を出すから、何もかも上手くいかないんだ。
本当は黙って立って見てるだけ、ただそれだけで上手く、まわるはずで…。
あぁ、もう嫌だ。
誰も、どうか見殺しにしてくれだなんて、虫の良い話だけど。また逃げているなと、ふらふら立ち上がる。
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