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「まぁ、俺もクリーンな方ではないけどな。田舎の商店街ってもんは、今見ても埃臭いだろ?
 公務員も筋金でくり抜かれた目玉瞑っちまうよ。仕組みなんて、利権者は名前があればと…。さっきのなんとか君と話したい話題だな、頭良いだろあいつ。株取引なんてバカには出来ないしついでに授業してやりたいもんだ」
「いや、裕翔は自称バカなんだ」
「…そんなんじゃインサイダーやっちまうな。やめとくか」

 …どういうことだ?
 保健医はちらっと振り向き「全くって顔してんな」と、何故か…漸く表情が変わった。

「所詮お前らなんて卒業したら話しは終わるもんな。
 これは俺なりの励ましだぞ?知らねぇくせに被害者並みの自責に駆られてんじゃねぇよ」

 それは、氷のように冷たいもので。

「………」

 言い返す言葉すらなかった。

「はい、名誉毀損に当たる単語はありませんでしたからねっと…。遅せぇな、帰っちまったかな…」

 保健医はケータイを取り出し電話を掛けた。
 廊下の方…音が反響して慌てたように消える。間髪入れずに保健医がまたケータイを耳に当て「あ、すみませんいきなりビックリしちゃったかな?」と言った瞬間、また切れたらしい。

 少しして三澤が「センセー」と、葵を連れて来た。
 葵は不機嫌な顔で「悪質」と、ボソリと文句を言った。

「いやお前ら遅くて暇だったから。お前かよ」
「……何、あんたここに未成年呼び出してんの?いつも」
「んな足が付くことするわけねーじゃん。てゆうかなんのこと?俺はただお相手・・・のケータイに掛けただけですけど誰の身分証使ってんだ?手癖の悪い」
「えっとー…?」

 気まずそうにした三澤に「あーありがと。こいつ宿題出されてんの忘れたみたいで」と話しを変えたようだ。

「宿題って」
「担任から預かってるんですー保健室にー。
 はい、そこ座れな?
 えっと…」
「あ、良い加減そうっすね、モブすぎません?三澤です」
「三澤くんか、悪いね。大丈夫君主役。はいここ座るー。今ちょーど良いとこよ上げ下げが。
 はい、お前…こーちゃんは名字なんだっけ親を…」
「長内っ、長いに内側の内!」
「はいはい。まー多分病院代はドブだけどいちおーセンセーに診断書…いや、レントゲン見してねー」
「なん」
「センセー内側見るの好き」
「桐生さんやめてよ、この変態、」
「なーに怒ってんのかなー、君今の名誉毀損だかんね」

 ぐっと黙った葵の方へ歩いて行き、桐生センセーはあの冷たい顔で葵のケータイを毟り取り「没収すんぞ」と凄む。

「…児童…いや、窃盗で訴えますけど」
「どっちも負けんな、1回は。でもお前の親父さん、どちらかと言えば示談派じゃん。
 いくら欲しいんだよ1とかナメてんのかお前。バカな成人女ですらホベツだしもっと取ってんぞ。俺の本気の説教がなんでわかんねぇんだよバカ」
「うるさいこの、」
「あーあーセンセセンセ!桐生センセ!動いたからほらチェーン店、め…めっちゃ下がっ」
「…マジかよなんで!?は!?
 …ちとお前マモル。SNS開くからパス教えろやべぇちょっと三澤お前開いてる間一回そこの売却クリックしろ」
「く…クソすぎんだろ桐生センセ」
「うるさいこっちやべえよ億だよ早くしろ、お!よし流石見込みあるな三澤くんとやら、はい取り敢えず脳筋の名字はなんだっけ」
「長内」

 名誉毀損もクソも心理学…いや倫理観がやべぇ人だとはわかった。
 また平然と、葵のケータイを弄りながら備え付けの電話で「あ、保健医の桐生ですが」と職員室に電話を掛け始める。

 三者気まずくなる中、どうやら洸太の親は本当に来ることになったらしい。
 葵は渋々テーブルに座りながら参考書を開き、三澤は「すっぱ抜かれてんじゃんここ」とケータイを開いている。

 デスクで「嘘癖ぇ記事だったなクソ、売っちまった」だの「情報過多っすね」と盛り上がる三澤と桐生を背に、1度葵と目が合ったのだが、葵の方はまるで俯くように参考書をまた見る。

「ごめん…」

 なんのごめんか、自分でも分からないのに。

 こちらも、情報過多だ。だけど1番直近ストレートでスポッと頭に入ったのは桐生が葵に言った件。

 やったことはなくても流れでわかる会話、今まで桐生は意味不明で遠回しだったのにこれだけはかなり分かりやすく吐き捨てていた。
 それだけ怒ったわけだろうし、そうなると真実が突きつけられてしまった気分、いや、気分どころではなく恐らくそうなのだ。

 弁当屋の件ももし事実なら、こいつは今もそう、昔もそう。結局葵に救いの手を述べているのは確かだ。それが、道徳的か倫理的かは分からないが。

「…別に、それよりこーちゃん、痛いの?」
「…いやぁ、別に…むしろそこの闇医者が」
「なんでじゃあ、そんな顔してるの」

 …とても、悲しそうな顔で言われてしまった。

 …待てよ、待て。俺は今どんな表情だって言うんだよ。
 だが、確かに被害者でもなんでもなく…。

「…え、こうちゃん?」
「え、」

 気付いた。
 目が湿っている。

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