1


うるせぇな…

雨の音が耳の中で残っている。傘を持っていこう。午後には降りだしそうだ。

実家から送られてきたミネラルウォーターを冷蔵庫から取りだし、鞄をひっつかんで家を出る。

ドアを開けたって雨なんて降っていないのに。ずっと、雨の音が耳の奥から聞こえるんだ。

嫌になってイヤホンをしてロックをかけたって。意識はずっとそっちにいってしまう。

何でこんなにうるせえんだよ。

しとしとする音も、俺の呼吸が早まるのも。

どうせ今から死ぬってのに。

ここら辺で一番高いビルを目指して。

“歩きタバコ禁止”の張り紙。もう関係ない。

大通りに出てからタバコを一本出す。ホントはこんなもん、旨いとなんてひとつも思ってないけど。死ぬまでにした遠回りな自虐行為。

煙を嫌がる人が俺を避ける。構わない。

ビルの前に差し掛かった時だった。

道路に、頭から血を流した少女がへばりついていた。そこら辺には血ではなくて真っ白な羽も散らばっている。

あぁ、こいつは天使なのか。

鳥でも上に乗っかってんのかとも思うけど違う。

そいつの空虚な目は確実に俺を捉えていた。

だが、こんなに派手に死んでるのに誰一人目もくれない。もしかすると、俺にしか見えていないのだろうか。

車も天使を踏みつけている。

だがふと、そいつが俺を見て、悲しそうに笑ったような気がした。

しばらくそれに見入って、そいつの目が静かに閉じられたとき、フィルターギリギリまで燃え尽きたタバコを携帯灰皿に捨て、ビルを通過した。

雨の音は、気が付いたら止んでいた。


- 21 -

*前次#


ページ: