1


彼からもらったライターと、キャンドルが目についたので、試しに灯をともしてみた。

部屋の電気を消してそれを眺めながら、今日買ったラッキーストライクをワンカートンボックスから出してソフトパックの透明な包装を溶かしてから一本取り出した。

キャンドルから灯を貰って一息吸う。とても綺麗だ。キャンドルの灯りも、タバコの煙も。

そういえば彼が、タバコの煙を綺麗だと言っていた。細い糸の束が昇っていくようだと。

こんなに落ち着いてタバコを吸ったのは久しぶりだった。気持ちは今、すごく穏やかだ。

友達に酷いことを言ってしまったことも、彼からの返信が届かないことも忘れて溶けてしまいそうなほど安定している。外の雨音に落ち着く。私はここにいるんだと思った。

遠くで終電が走っている。あの鉄は乗っていると、どこか手に届かないところへつれていってくれるんだと夢想する。

あぁ、こんなに世界は静かだったんだ。

夜は寂しくて切ない。寂漠だ。だけど現実から遠退いた場所。

世界へ飛び込んでみたら、あっさりと人生が終わった。この家に帰ることはもう二度とない。ホームに飛び散った生々しい赤と肉片は、私の行方を眩ます。

最後にあった人は、どんな顔をしていたんだっけ。

ひとつだけ覚えているのは、淡いような濃さを持った茶色い瞳だけだった。

ラッキーストライクの火を消した。

私はもう、ここにはいないけど。

明日を始めようかなと切に思う。明日にはどこにいるのか。

とても、穏やかな夜がここに流れている気がした。


- 22 -

*前次#


ページ: