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片桐雪乃
深山流星
雪乃の手を握ったとき、ベットのシーツと同じような気がした。瞑っていた目を開け辛うじて灯っていたオレンジ色の電気を眺める雪乃の横顔を見て、まだ眠くないんだろうと思った。
「ゆーちゃん、」
何故だか呼び掛けた声が掠れている。俺はそろそろ眠いのか。
雪乃がゆっくりと俺に顔を向けた。やっぱりそうだ、二重になってない。
返事をすることはしないで雪乃は俺の髪に手を伸ばした。「どうしたの?流星」と聞く彼女への質問を失ってしまった。先を越されてしまったのだ。
「ん?何考えてんのかなって思って」
「最近、夜寝付きがいいんだ」
怖い夢をよく見るらしい。よく、夜中にメールが来ていた。それを聞いて、居てもたっても居られなくなってしまい、何週間か前からずっと雪乃の家に泊まり込んでいる。
一度だけ、どんな夢を見るのか聞いてみたことがある。
「レイプされて、私が生まれてくる夢」
そう答えたのを聞いて、聞きたくなかったような、興味があるような、複雑な気持ちになったのを思い出した。
思い出して無意識に雪乃の手首を指でなぞっていた。俺は、この傷を気付いてあげられなかったんだ。
「よかったね」
「うん。朝にはすっきり起きられる」
どうしたもんかな。
やり場がなくて微笑んだ。
「それって切ないの?」
雪乃は表情を変えない。
俺はいま、どんな微笑みを浮かべたのだろうか。
「…なんで?」
「流星はそういうとき、そんな顔をするから」
どんな顔?とは聞けなかった。
でもたぶん、そう言うときの雪乃は不安定なんだろう。
俺はいまお前の隣にいるよ。それは、ずっとそのことばかり深追いすると気が狂いそうなほど痛いけど。
雪乃のことを抱き締める。
痛いけど、離したくないくらいに、何故だか泣きたくなる寂漠と幸せが広がるんだ。
「流星っていい名前。
私は自分の名前が好きじゃない」
「俺は好きだよ」
「私は春に生まれたの。
雪みたいに綺麗じゃないし温度を感じない」
「雪って冷たいじゃん」
「冷たいって感じるのはそこに暖かさがあるからじゃん」
「…でも好きだよ」
見たら彼女は泣いていた。空いた方の手で涙を拭うと、やっぱり暖かいなと思う。
そうやって泣いてればいい。泣くのはまだ、生きる未練があることだと思うから。
俺の胸で寝てしまった雪乃の重さに、息が詰まるけど、とりあえず俺も寝ようと目を閉じた。
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