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まるで扱いが靴べらだ。
この頃、高塚と付き合っているのではないかと噂を立てられているのを感じている。それは恐らく良い感情の噂ではない。
その悪感情をなんと言うのだろう。嫉妬…いや、自分は何も所有していない。では、果たして高塚と自分、どちらへ向けられるものなのだろうか。きっと自分なのだろうが、お門違いだ。
なんせ高塚はこうして愛想も良ければ...あざとい。
エレベーターに先客がいた。同じ系列店ではないが、たまにヘルプに来る人だった。元は系列店の人だったと聞いたことがある。
背もそこそこでスラッとモデルみたいだが、やはり、人目に付く人物は立ち振る舞いが違う。わざわざ指を組替え、然り気無く結婚指輪を見せてきた。
「あ、ミツヤさん、ヘルプですかぁ?お疲れ様ですぅ」
組まれた腕をタップする前に高塚はすっと腕を抜き、彼に近寄った。確かに、男前だ。
彼は特に高塚と目も合わせず「お疲れ様です」とだけ言った。
「大変ですね、お店も違うのに。独立されたんですよね?」
「はぁ、料理長がね」
「引き抜きってやつですよね?」
「まぁ」
「そっちは混んで………」聞いたことがある話だ。彼が突然ヘルプで来た際、話題になっていた。
接客が一流らしい。系列店から独立した料理長と現店長の仲が良いらしく、彼はたまにこうして来るらしい。上の階から来たということは、イタリアンの方の系列店だろう。
ぐいぐいと行く高塚にも「はぁ」「そちらは?」と、業務的、エレベーターを降りれば「じゃぁまた」と普通の対応をして去って行く。
自分とは大違いなタイプ。明らかに慣れていた。
大人の男はやはり、違うものだ。
彼が駅とは逆方面に向かい見えなくなるとすぐ、当たり前のように腕を組んできた高塚は、「あの人やっぱ、結婚してるんだねぇ」と言ってきた。正直神経が分からない。
「顔良いしね」
「やっぱりあーゆー人って、遊んだのかな?」
...こーゆー、ゴシップじみた中身のない話は、全く興味がないけれど。
「さぁ」そんなのは本人に聞けば解決だろう。何故わざわざ自分を見て言うのか。
「永町先輩も、遊ぶ派?でも遊ばなそ〜きっと」
それはさっきの話だろうか、そうだろうな、そういう間だ。なんだって言うんだか、面倒臭い。
「まぁね」とテキトーに返事し考える。果たしてシノとは遊びなのか、シノは遊びなのか。
シノの家は知らない。
水曜日だからだろうか、終電が近い割にはホテル街で降りて行く男女が多い気がした。週中日の魔法だ。
「意外に多いでよねー」
とちらちら、ネオンと自分を交互に見てくるこの視線もなんとなくわかる。
別に、遊んでやってもいい。こっちの方が多分割り切れるし。
ただ、事務所で聞いた高塚の理論だと、一回寝たら多分終わらない。これは、経験則もある。でも、それならシノとの関係の悩みだって消えるてなくなる。
どうせならタイプの方が良いなと、降りる予定の駅の手前で「じゃ、また。お疲れ様」と、何か言いたそうな高塚を置いて降りた。あとは歩こう、一駅分なんて、東京では僅かだ。
そういえばと、思い出した。この駅は界隈でちらほらと耳にする。とてもマイナーな駅だし、使い勝手も悪くはないが、側に大きな駅がある。大抵こう言う場所は遊び場が多い。
初めて遊びに足を突っ込んだのは無難に、上京してからだった。そのせいかバイトをしながらのせいかはわからないが、一浪した。
高校からの彼女は最初だけで来なくなり、自然消滅した。そういうのも重なり一回だけ、小学校の前にある公園の前でタバコなんかを吸ってみて彷徨いたのがきっかけだった。
当時は知らなかったが、ひっそりと話題の公園だったらしく、普通に女の喘ぎ声が聞こえたのだけど、自分が誘われた相手は男だった。
少し難いの良いお兄様にトイレに連れ込まれ抵抗も出来ず、俺はヤられてしまうのかと思えば、入った瞬間おっさんの口調は変わり、混乱しているうちに喘がせていた。
余裕もない程だったが、今度ハプバーに...と誘われた瞬間、逃げた。足はガクガクしていたけれど。
その公園の前を久々に通ってみた。相変わらず吐瀉物の匂いがするし、石段にはワンカップが置いてある。
この鎖のやつ、本当に意味が無いよなと、まだ始まっていないだろう男女カップルの黄色い声を聞きながらタバコを吸い、突っ込んで帰る。
19歳だったその頃、もどかしかった。結局遊べそうな店には必ず未成年にバツが付いているし、かといってこういった場所は割と品がない…だなんて、今思えば何に理由を付けていたのか。あの時もげなくてよかった、たった10分くらいのアレに。
1人の夜風は気持ちがいい。
ただ、バイト前までシノがいたベッド。それを考えると、溜め息と疲れが出た。
飲食店の臭い、ベットも冷たい。
そういえばシノ、サメか何かのTシャツを着てたよなぁと思い出す。今日は随分ラフな格好だった。今までのはデート服なんだろうか。
時間も時間だし眠さもあるが、ふとスマホを眺め「サメ好きなの?」だなんて送り、見ないように枕元へ投げて寝た。
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