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 シノの、しなやかで肌触りがなめらかな背中。

 殆どがバックなんだと気付いた時、すっと、見慣れた背中を発見した。今日は七分丈のパンツと、やはりTシャツ。
 そのまま去りそうなシノを追いかけくいっと腕を掴むと、シノは一瞬ビクッとしてから振り向き「あぁ…」と力を抜いてくれた。

「割とわかりやすいかと、思ったんだけど…」

 今自分がいた柱へ振り向き言うと、シノはポケッとしながら眺め、「いや、改札からだとわかりにくいから」と笑った。

 少し頬も赤い気がしたので、駅ビルのスーパーでポカリを買って渡し、バス停に並ぶ。子連れが何組か並んでいた。
 少し首を傾けじっと楽を眺めるシノが「どこに…?」と言ったあたりで、向かい側のバス停を見て気付いたようだ。

「水族館?」
「涼しくていいじゃん」
「え?なんで?」
「………生物学のレポートがあってさー。危険な生き物展やってるみたいだからちょっと」
「…ホントに?」

 嘘だけど「ホント。学芸員取るから」と、本当っぽいことも混ぜて言ってみた。

「…何?サーカスか何かの人?」
「ん?」

 考え、「…もしかして高卒だったりする?」と聞いてみた。

「履歴書では。なんで学歴の」
「…専学?」
「そうだけど、」
「え、何、何系?」
「えぇぇー?いや別に普通に音楽というか舞台というか照明とかやってるけど、言わなかったっけ?」
「聞いてない聞いてない」
「まっ、そっか。俺たち」
「学芸員は大学卒業したら取れるやつなんだよね美術館しかり博物館しかり水族館しかり取り敢えず」

 人前で爛れた事情をバラされる前に、矢継ぎ早に言葉を被せた。
 シノは興味もなさそうに「ふーん」と、向かいのバスを眺めていた。バスの向こう側は見えないが、平日の割には人通りが多いんだな、とぼんやり思う。

 こちらもすぐにバスが来て乗り込んだ。やはり子連れが多い。

 二人並んで座るのも確かに良いが、そこは自重し子連れのママさん方に譲る気持ちで手摺りを選んだが、優先席前は、ベビーカー組には少し邪魔らしい。

 結局座る場所は一番後ろの広い席。真ん中を空け二人の子供と座ったママさんへの配慮も、はしゃぐ子供で意味もなくなった。

「……面倒臭いな」

 賑やかな車内、窓際に座ったシノの呟きは楽にしか聞こえないものだった。
 少し、ズキッとする。確かに、そうだろう。

 努めておどけた口調で「いやごめん」と言ってみたが、シノは感情も読み取れない、けれど綺麗な目で見つめ返してきては「いや……」と、少し言いにくそう。

「…海の生き物は好きだよ。自由そうで、気持ちも良さそうに見える」
「…なるほど?」
「10代の頃大人の男と、リュウグウノツカイがいる水族館に行ったことがある。深海魚って、なんかそれだけで静かな感じでさ。暗くて少し寒い、大きな水槽にいた」

 「大人の男」を強調した。なんとなく、昔の恋人だろうか。

「まぁ、その後すぐ死んじゃったみたいなんだけどね」

 懐かしそうに話す姿はどこか切ないような、暖かいような、含みのある表情。
 楽が眺めていると、シノはニヤッと笑い「謎多き絶滅危惧種だよ。そっちの方が、研究には良いんじゃない?」と、試すような物言い。

 俺には、あんたの方が謎なんですけどね。

 このバスにすら乗り気なのか、そうじゃないのか。
 着くまで黙っていたが、着けば当たり前に自分の分の券を買い、こちらが買っている隙に受付を通っていた。

 シノを追いかけると、入り口の側にドンと構えるペンギンの募金箱へチャリンと小銭を入れていた。
 なんとなく楽もシノに習い小銭を入れるとすぐ、「ねえ」と忙しない、今度は側にある小さな水槽を指差した。

 …ノリ気になってくれたのなら、なにより。

 シノが指した、水のない小さな水槽。
 よーく見ると、サワガニか何かがいた。

「…おー、」
「冒険心擽られるよね、こういうの」

 順路のすぐ側の、大きな水槽には少しの人だかりと、大木のオブジェがある。

 水槽に目が行った。鮎か何か。
 …思ってたのと違う気がするとふと回りを見るとシノがいない、と思えば、大木の下の方を眺めて振り向き、見ろよとでも言うように手招きをしてくる。

 そこにも展示物があったらしい…。つい「おぉっ」と、確かに冒険心は擽られるものだ。
 顔がとても近くなり、あ、あれ、と焦る前に、シノは向かい側へ行ってしまったが、目は合わない。自分もそちらへ行ってみれば、違うものが展示されていた。

「子供目線でいいな、これ」

 遊び心がある。

 それに気が付くシノにも感心したのだが、見上げてきたシノが少し、どことなく俯いたような気がする。
 回りの雑踏で聞き取りにくかったが、「…そうだね」と、言った気がした。

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