無色透明色彩


4


「ほぼゴシップ並で書く、とか、まぁ色々あんのよ」
「…大変な仕事なんですね」
「とうかちゃんは、仕事楽しい?」

 急に聞かれてギクッとした。

 ついつい海江田を見ると少し柔らかく、しかし何かを推し量るような表情で「介護ってキツイってよく聞くから」と言われた。

「…まぁ、えーっと…」
「気を遣わなくていいよ。言いにくいなら別に良いけど、君、仕事の連絡の時、なんか暗い顔してるように見えて」
「…楽では、ないです」

 山ノ井さんに連絡をしなければ…。
 ぼんやり画面を眺めるが思い付きもせず“昨日はすみませんでした”と打っていた。

 …楽しいとかどうとかで“仕事”が出来るかと聞かれれば…楽しくはないのかもしれない。
 頭が真っ白になる瞬間、“楽しい”と…多分思っていないけれど、これが存在意義のひとつか、と考えていたりするのかもしれない。

 仕事は提供と対価だ。つまり、それは必要とされているはずで。必要とされなくなればあの時のインディアンと同じことになる。

“夕方は?”

 …現実がぼんやりする。

 妙な間が生まれていることに気付いたが、話題も特になく、黙るしかない。
 “間に合うように善処させて頂きます。この度は申し訳ありませんでした”と打っていると、「忙しそうだね」と海江田から声が掛かった。

 既読が付く。

「まぁ…はい」

 「まずはジイちゃんの」そういえば…。
 覚醒した。

「アンジさん、お茶会参加してましたよね…?」
「ん?まぁ、テキトー…」
「ご迷惑をお掛けしましたよね、すみません、母が」

 母は“動くな”と言われたのを本当に無視してしまったようだし、この人は流石に注意を払わなければ…。

「いや、別にというか、お呼ばれだったからむしろ感謝で…」
「だ、」

 大丈夫でしたか。
 これを聞くのも変だけど…やはり、思い付かず口を閉ざす。
 たった今上司に調べるように促した人物だ。それが“アレ”に気付いたら…。

「あまりいなかったけどね…いや、まぁ俺社不だし?あんま上手く対応出来なくて失礼だったらごめん、と母ちゃんに伝えて欲しいかも」
「……しゃふ?」
「あー……まぁ、その、引き篭って仕事してるくらいだしそのまぁ、社会不適合な面があるって自覚してるから…」
「え、そうですか?」
「あー………まぁ、社不なりの社交辞令は、まぁ…」

 何故か空気が重くなる。
 社不っていうのか…。

「ふっ…、」

 海江田がふと笑い、続けて「いやごめん」と言った。
 …笑った顔が新鮮に感じる…何故だ?やはり、いままでのが随分と社交辞令じみていたのだと感じた。

「ママ友とか自治会とかって昨日言ったけどさぁ、いやぁちょっと…女性が3人集まると、とはよく言ったもんだよね。めっちゃテンション高くて置いてきぼりだったよ」
「……はあ…」
「ま、とうかちゃんは慣れてるか。女性にもそんなに慣れてる訳じゃなくてさ、俺。君の前で言うのもなんだがいやー、ひとりくらい仲良くなってもよかったよなぁ」
「…アンジさん、かっこいいですからね…えっと、ハーレム?」
「いやそこ!?普通「いやー、既婚者ばかりですよ」とか、ない?」
「あ、そっ…いや、既婚者…なのかな?」
「ママ友っしょ。まぁ、シングルの人もいるのかな。丁度同い年くらいの人いたんだよなー」

 …そういえば取引相手をよく知らないけどもしかして…。

鮎原あゆはらさん?」
「あ、“アユちゃん”ってそれかー。最近の新顔っぽさあったけど…大人しめでなんとなく流れで居そうなタイプの」
「少し前に離婚したようですよ。母が目を」

 あ。
 危ない、ポロッと変なこと言いそうに「目を掛けた、的な?」やはり拾われてしまったか。

「そうですそうです」
「インフルエンサーなら多分、ボス的な位置だよね。
 海外の美容グッズとか詳しかったね、あれが案件ってやつ?試しに貰ってみたんだけど」
「えっ」

 …母の案件には違法なものもあるしそれは困るかもしれない、と焦る前に「綺麗になる飲み物」と言われゾッとした。

「1日2回、特別価格3ヶ月無料キャンペーンを始めようとしているから、その前にひとつお裾分けって、試供品くれたけど…」
「あ、それ微妙です」

 咄嗟に出た言葉がそれで、海江田がふと、驚いたような表情をした。

「…それ、言っちゃっていいの?」
「あ、あの人たち…つまりは、その…3ヶ月のテスター、終わってまして、」

 しどろもどろになっているのもわかる。それは、まさしく柏村かしわむらが持ってきた“仕事”で…。
 どうしよう、頭を回さなければ。

「ふっ、へ!?いやあの人たちそれで綺麗になったんじゃないの、それ…っ」

 笑いを堪えて…また自然な笑いだ。
 まだだ。これは中止を検討すればいい…。

「元々綺麗な方に…薦めても仕方がないというか…」
「あ、それは俺も思わなくはなかったけどなんだっけ、リラックス効果とかもあるって」
「なんと言いますか心に余裕が出来たらリラックスじゃないかなって思いますし、そのー…母は職業柄口が上手いので。
 でも信じている方々を否定するのも違う気がしまして、あと、こんな気持ちながら僕が最初のテスターだったりすることもあるので微妙だというのは感想でしかなく」
「随分喋るね」

 ハッとした。

「ごめん、意地悪を言うつもりではないんだけど、今までで一番喋った気がして」

 カチカチ、カチカチとウィンカーの音がする。
 気付けば例のビジホだ。

- 12 -

*前次#


ページ: