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「大体が「はい」とかだったからさ。
とうかちゃん、あまり母ちゃんと仲良くなかったりする?」
刑事の車を見つけたようだが、隣の駐車場はたまたま埋まってしまっていた。
「なんだよマジかよ」と言いながら海江田は眺め、空いている場所を探す。
「…普通です」
「そうなんだ。ジイちゃんとはむちゃくちゃ仲が良いのは見てわかるけど…複雑?」
「そうですね」
やっと空きを見つけた海江田は駐車に専念する。話題はこれで終わったと、安心しつつも気を張らなければならなくなった。
駐車を完了した海江田はタバコを取り出しドアを開ける。
さらさら出る気がない微妙な空気の中、ケータイで「あ、坂下さんですか」と電話を始めた。
「取り敢えず、青木さんを送り届けましたが、再び戻りました」
…あ、そっか。
「いや、湿布の時間だそうです。あと、お母さんはどうやら普通に帰宅していました」
縮こまる思い。
一言二言で通話を切った海江田は「ちょっとだけ待って」と言った。
「タバコが」
「あ、はい…」
「ジイちゃん迎えに行って…どうしようか?いつもどうしてるの?」
「お茶会中は、ファミレスとかに行ってます」
「……つくづく大変だね。
そう言えばお父さんって…あ、でもまぁ答えなくていいけど…」
「…おじいちゃん似の優しい人、でした」
「…そっか、ごめん、あいや……ありがとう」
「…ん?」
「いや、自分で言っておきながら矛盾したなって」
少し考えるような表情をしてから「さ、行こうか」とタバコを消してシートベルトを外したので、とうかもそれにならい、外に出る。
…曇り空だ、今日は。
坂下さんが「どうも」と、外まで出迎えに来た。
そういえば、どうして海江田はひとりで家に来れたのだろう。齋藤は結局どういうことになっているのだろう。
「こんにちは。
お母様が無事ご帰宅されていたようでよかったです。
今朝…とうかさんは寝ておられましたが、急遽規制線が解除されまして…。ですが、犯人は未だ逃走中というより…正確には行方不明となりました」
「…え」
…やはりか。しかし…。
「その説明をしなければと思っていたところでした。
こちら側としては、そういうことになりましたので…あまり詳しくは言えないのですけどね。言える範囲ですとまぁ…彼は戻らない、戻れたとしても現場保存をしております。なので自由帰宅、と、海江田さんとご帰宅されている間に決まりました。
我々の業務はこれで…どうしても、以上となります。しかしまだ油断は出来ませんので…そうですねぇ……。
お祖父様のご帰宅は如何致しましょう?海江田さんととうかさんはお荷物を運び終えたと思いますが」
「あっ、そうだったんですね…すみません……ありがとうございます」
「いえいえ。今はそれくらいしかお手伝いが出来ませんが…。
海江田さんのお車には…」
「車椅子とか荷物をトランクに入れれば行けそうですね」
「ではご準備が整い次第、隣の部屋におりますから、お声掛け頂くかたちにしましょうかね」
では何故、隣の部屋に刑事は残っているのか…。
「…そうします、す…ありがとうございます、お手数をお掛けして」
「いいえ。寧ろ申し訳ないくらいですよ。
では海江田さん、また何」
「あーいや、少し交流を深めようかなと。
自由帰宅ならとうかちゃん、昼だしファミレスでも行く?」
あ。
気遣ってくれた。
「あ、えぇ、まぁどちらでも…」
「こちらがチェックアウトを行うかたちにしましょうか?お祖父さん、気が休まらないのか、あまり眠れてないようで…」
「まずは、」
「あ、そうですね。部屋まで行きましょうか」
…状況は芳しくない。今警察が自宅に来てしまうと、ママ友たちはハイになっている。だが、一番は祖父の事だ。
夕方に仕事も入ってしまったし、諸々の連絡をしなければ…海江田に渡った試供品、いくつ貰ったんだろう。ひとつなら恐らく大した問題はないが。
…余計な事を言ってはならない。
……胃が痛くなってくる。
部屋へ向かうエレベーターの中、海江田は刑事に「お母さん、綺麗な人でしたよ」だなんて雑談までし始める。
「美容系のお仕事をされているようで」
「へぇ〜、そうなんですか」
「とても明朗な人でしたよ」
「親しくなったんですか。なら、私はお荷物をお運びしましょうかね、折角の機会なんで」
「そうですねぇ。いや、俺がやってもいいんですけどね。
まぁ、一息吐いて…とうかちゃんはまず、ジイちゃんにね」
「………はい」
「ん?」
顔色悪いのはなんとなくわかるよ…「顔色悪い?」やっぱり。
「…少し安心したせいだと思います」
言われれば脂汗が出てくるのもわかっている。
刑事と海江田はそれから黙り、部屋の前まで来てくれた。
部屋を開けると、流石に疲れに負けてしまったようだ、祖父はベッドでうとうとしていた。
…ホッとした。
「とうか……っ」と覚醒してしまいそうだったので「ただいま、寝てて大丈夫だよ」と言った瞬間、一気に自分にも疲れが出た。
作り笑いくらいは出来たと思う。
振り向くと刑事もにこやかで、「少し休んで行かれては?」と言ってくれた。
「俺も手伝うよ。俺は今朝チェックアウトしちゃったから、坂下さんの部屋にいるね」
「あ、えっと、はい、ありがとうございます」
「とうかさんも少し休んでください。朝から具合が優れていないと、お祖父様に伺いましたよ」
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