無色透明色彩


7


 祖父はどう思っているのだろう。

 どれにしても答えは「そうじゃない」と返ってきて、その真意はわからないだろうと知っているのに、こうして聞いて…吃ってしまう自分の心が…こんなにも、痛い。

 祖父はふと頬を撫で「とうか、」と…少しくしゃっと、飽和状態で壊れてしまいそうな表情で「そうじゃない」と、予想通りの返答をしてくる。

「…俺は、お前のお父さんの真相を知りたいんだ。
 知ったところで変わらないと…わかっているのに…だから、これは俺の我儘なんだ、とうか」

 祖父の手が湿ってゆく。
 自分が泣いていることに気付けば、そろそろ耐えられなさそうなことにも、気付きそうになる。

「…それ、」

 ふっ、と笑うしかない。
 優しい笑顔がふわっと、頭に浮かんでくるのだから。

「お父さんも、僕の手、取った時、言った」
「ふっ、」

 顔を伏せた祖父がふっと、自分の手で目元を拭った姿。
 決壊しそうだ。眉間に強く力を入れる。

「…俺は、あいつを…犯罪者にしちまったんだ…。
 …だから、とうか。お前をこんな事に」
「こんな事じゃないよ、おじいちゃん」

 …冷静になろう。

「こんな事じゃない…。
 おじいちゃん、僕も僕で…調べ…いや、刑事さんを頼ったなら、ここから聞いてみたいと、思う」

 ぐいっと、手で鼻水と涙を拭う祖父にティッシュを渡す。

「…僕は、お父さんも知ってるけど、おじちゃんも知ってるからさ…。
 でもおじいちゃん。お父さんを信じて、ね?」

 続けてもよくないな。
 整理しなければ。よくわからないこともある。

「…帰ろうか、おじいちゃん。
 もし…よかったら」
「………そんなの、俺の方が」
「じゃあ、相殺!」

 聞かずに荷物をまとめ、「とにかくまずは」と部屋を出る準備をする。

 思い出したついでに、クライアントへ「母が、海江田アンジという男に、試供として渡してしまいました」とだけ送っておく。
 即、“山ノ井の後すぐに事務所に来い”と返信が来た。

 スマホをポケットにしまい、「おじいちゃん、行こ」と肩を貸し車椅子に乗せた。

 雫を頬に擦り付けるように手で拭い、取っ手を握る。
 部屋を後にし隣の部屋をノックした。

 部屋から出てきた刑事と海江田が一瞬戸惑ったような気がしたが「では、行きましょうか…」と、自然に手伝ってくれた。

 刑事と話をしたいが、一応近辺調査を頼んでいる海江田と祖父を同乗させたくない。
 考えたが、帰りの車は「とうかさん、少し…」と刑事に促された。

 そちらに頭を切り替え、「宜しくお願いします」と、話す内容を組み立てる。

「…今回は」

 バイブが鳴る。山ノ井だった。

 仕方なくとうかは「…仕事の連絡で…すみません、昨日シフト変更をしたもので…」と断りを入れ、バイブ通知を切る。

 …これからあの変態ジジイの自宅へ行く意味って、なんなんだ。
 しかしわかるまでは、いつも通りの対応をせねば。金はあって損がない。

「お忙しいですね。
 …あの、なんとなくなんですが、お祖父様と…」
「…すみません、そうですよね。
 まぁ、はい、聞きました。実は僕も父のことは詳しく知らなくて…少し動揺をしています」
「知らない、というのは…」
「…まさか、もういなかったとは、思わず…」
「…え、」
「示談金を少しずつ払う生活をしているのだと思ってて…」
「…ご相談されたことはまだ…今から署に行き調べてみますよ」
「相談って、ちなみになんだったんですか?なんとなく、「息子は何故捕まったんだ」とか、そんなことかなと…」
「…いや、まぁまだ通してないのでなんとも、ハッキリしたことは言えませんが…まずは、相談として記録には残します。
 まだわかりませんのでちょろっとしか言えませんが、どちらかと言えば…お父様の死因、ですかね」
「…それって、今更」
「はい、原因究明は難しい…いや、無理だろう、というのは言えます。
 …これはあくまで経験上、ですが。もしとうかさんとお母様が示談金を払っているのなら…私が聞いたお祖父様の話で判断するとまだ、まだね、わかりませんよ?
 あくまで聞いたのみの話ならば、詐欺の可能性があります。そうなった時のため、示談金は一度…弁護士費用として」
「みんなそれ言いますよね」

 思わず出てしまった。
 ハッとし「すみません」と謝ったが、刑事はバツが悪そうに「…いえ、」と言うのみ。

 なら、どうして父の時は…殆ど後付けであれだけのことをされたというのか。

「……お父様は民間の慈善団体ではなく、公職として施設経営をしていらっしゃったんでしたよね」
「はい」
「本来なら確かに、お祖父様がおっしゃる通り、刑事上の横領では…うーん、結局は現在民事で動いてるからこうなってるのか…。いやしかし公職なら刑事…うーん…。民事の方が早いか…。
 とはいえ判決には裁判所、逮捕には警察が関わっていますので、とうかさんの言いたいこともわかります」
「………ん?つまり…?」
「確かに横領でしたら民事でも刑事でも持って行けるのですが…あ、簡単に言うと民事は…賠償相手が個人と言いますか、行政ではない、というものです。刑事はつまり、行政ですね。
 死亡手当金の話は聞きました?」
「あ、はい…」
「これは青木さんのお家に行政が払ったものなので“刑事事件”と判断されたのだと思います。この辺が引っかかりますね。
 しかし裁判中のものですし、なんとも状況もわからないのでうーん…、個人間でしょうか、どういう取り決めをしたのか…」

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