無色透明色彩


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「……えっと…」
「民事上の概念には、死亡手当金はないわけです。それこそ民事上では示談金…つまり損害賠償や慰謝料等に該当しますかね。
 裁判中の案件に死亡手当金が下りているとなると、行政で不手際があったこと、なのかもしれない」

 …おじいちゃんが言いたいことがわかってきた気がするぞ。

「お父さんへのことは“刑事”として方が付き、お父さんがしたことは“民事”になった…。しかし裁判中の訃報ですよね?なら、そもそも不起訴になっている可能性が」
「まぁ、そんな感じなんですね、」

 あまり深堀りをして聞くのはやめておこう。覚えがある。

「………?
 難しい話でしたね。あとは…お母様ともね、話し合って…どうしたいかでアドバイスも変わってきます」
「わかりました」

 ある程度、理不尽だと感じてはいた。不当に搾取されているのはなんとなくわかってはいる。

 自宅付近、外廊下を見てすぐわかった。
 丁度解散したのか解散してから外廊下で井戸端会議をしていたのかはわからない、ママ友…新人達の方だ。それと母が談笑しているのが見える。

 徐々に近付くが、余程近くに来て漸く母が気付いた。
 担当刑事が頭を下げ、「どうも」と手帳を見せれば、残っていたママ友は露骨に「あ、あぁ、じゃあ、また!」と散って行った。

 ふと思い出しスマホを見る。通知は2件で1件は山ノ井、もう1件は柏村。

“アバズレに伝えろ”
 だけは読めた。1度スライドしておく。

 母は刑事に「どうもぉ…」と、知らない素振りでこちらを観察する。

「…ご無事が確認出来てよかったです。
 本件担当の坂下と申します。犯人はまだ捕まっておりませんので、一応お気を付けてお過ごしください。何かあれば、とうかさんに直通と…1番は、おひとりのこともあるようですので、110番に掛けて頂ければと思います。
 とうかさん、気軽になんでも掛けてきてくださいね」

 では、と刑事は帰って行った。
 事態を飲み込まない母は取り敢えずと、とうかと祖父、そして海江田を見て「あぁ、すみません、」と、海江田が持っていた祖父の荷物を奪うように受け取った。

 海江田が「いえ、」という間に頭を下げさっさと「とうか、」と呼び促すように家に戻って行く。
 海江田と目を合わせ「ありがとうございました」と言えば「うん」とだけ返ってきたかと思えば「そうそう、」と切り出された。

「盗聴器の件だけど、あれ、あの人に渡しちゃったのを言い忘れ」
「盗聴器…?」

 祖父が怪訝そうな顔をしたので「あっ、」となる。

「何から何までありがとうございました」

 すぐに切り上げることも、海江田はなんとなく察してくれたらしい、あとは何も言わず互いに部屋へ戻った。

 早々に母はパタッと荷物を起き「ねぇとうか、あの人どういうこと…?」と聞いてくる。

「…まず、部屋に入りたいんだけど…」

 祖父は車椅子のまま、とうかの背にはドアが伸し掛りまだ半開きだ。
 仕方ない、と言うようにリビングに行く母の背。

 盗聴器の光はまだ、薄く切れ切れに点いている。どこにあるのか…正直この狭い家ではどこでも有り得るし、なんなら隣に仕掛けられたものを拾っているのかもしれない。

 とうかは祖父に手を貸し、荷物を拾った。
 壁伝いにゆっくり歩く祖父に合わせてリビングに向かう。

 「悪いな、とうか…」と、今日はやはりあまり眠れてないせいか、祖父はネガティブなようだ。
 思い出したので「おじいちゃん、」と呈する。

「……ごめんとかすまんより、ありがとうの方が嬉しいって…」

 自分はそんな立場ではないから。
 復唱、してみた。

「とうか……」
「疲れたよね、やっと眠れるね。おじいちゃん…無理しないで」
「………ありがとう、とうか」

 …よかった。
 しかし、よかったと素直に喜んでいいのだろうか。
 そんな思いのまま、取り繕って笑顔を見せるが祖父は聡い。とても複雑な表情で寝室のベッドまで歩く。

 …全てが覆るかもしれないということが、こんなに怖いことだったなんて。
 縋ることがこんなにも、怖いことだったなんて。

 腹を括らなきゃなとぼんやり思う最中、父や祖父と違い母は鈍い。ソファに座りそわそわと落ち着かない様子。

 「ねぇとうか、」と、こちらが祖父をベッドに寝かせようとするのも構わない。
 やはりこの環境ではどうしても、祖父ひとりを残すことは出来ない。

 とうかは母へ、メールで応答することにした。どのみち、他のメールも見なければならない。

「あの人何、警察なの!?」
「…あの人って?」
「隣の…」
「海江田さん?昨日引っ越して来て、通報してくれたんだよ。メール見てよ」

柏村さんが、動くなって言ってるよ。

 既読をつけた母が明らかに視線を寄越しているが、とうかは「おやすみ、おじいちゃん。良い夢見てね」と何事も無い素振りを見せる。

「おやすみ」

 祖父が寝ようとしているのを見、それから漸く母へ振り向き「昨日言ったよ」と向き合う。

海江田さんにあげたドリンクは柏村さんに相談する。 既読
しばらくは大人しくしておいて。 既読
これから呼ばれてるから。 既読

「え、」

 ハッととうかを見る母に「これから仕事なんだ」と告げる。

「母さんは休みだよね?昨日、連絡したから」

 柏村さんがね。

「…そうなの?」

 とうかはそのままサッとシャワーを浴びて仕事の準備をし、特に話さないまま家を出る…前に、たまたま靴箱の中、壁部分に小さな盗聴器を発見した。

 足で踏みつけ、ランプが消える。

 そのまま自宅を出た。

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