無色透明色彩


2


「花村病院という場所を指定していました」
『花村病院?』
「はい。
 なんとなーくな勘ですが、平良さんに聞こ」うかな。

 という音声がロビーに響き、見れば坂下がケータイ片手に歩いてきた。

 通話を切り「…うす、すません」と頭を下げる。

「…どゆこと?」
「んー、こゆこ」
「そんなん説明になってねぇよなぁ!」
「しっ!ここ病院…。
 えっと、すません…出会い頭に倒れて…」
「……で?」
「…症状的には恐らく……バッドトリップっぽい感じもあったんで、多分なんか盛られましたね……。
 エロサイトの話なんですが…画録見直さないと確信を得ませんが、多分相手、山ノ井健三は最後あたりガンギマリで…」
「……悪ぃ」
「……はい?」
「青木家にはまだ、入れない」

 許可が降りないか……。

「テキトーに言って入院引き伸ばしますかね…」
「つーかお前ね、」

 坂下は隣にどかっと座り、そしてふと、自販機のお茶を渡してきた。

「寝ろ一回。頭回ってんのかソレ」
「……あー、通話前のやつなんですがなんとなくっすよ?
 入院保険とかじゃなく……生命保険だったらなんかやべーかな、と日赤にしました」
「…ふーん。で?」
「で、イマココ……」
「回ってねぇなコーヒーのが良かったか?ん?」
「……取り敢えず、一旦家にというか、青木透花の家に」
「行けねーっつってんだろ、会話になってねぇよ!」
「いや俺が」
「聞いてたよお前、ケータイぶん投げられたって」
「それも回収して器物破損で持っていきたいし…」
「ったく、わーった、行けばいいんだろ、もう折れるわ……ただケータイだけな、わかっ」
「ならふたりの方がいいでしょ、もうほぼ確で相手は反社っすよ」
「……わーった、ドライブすっか。お前飯は?」
「ご察しの通り食ってる暇ないっす」
「じゃーそれ医者に伝えてきて。つかなんならお前、ブドウ糖ぶち込まれてきたらいいんじゃねぇの?トリアゾラムと一緒に」
「あ、確かに」
「冗談だわ、こっちは所長に明日分!お前の休暇を伝える、それまで動くな!」
「…ありがとうございます」
「ついでに平良はお前が使ったんだかんな、お前がアポ取れ……なんて。
 まぁいーよ。仕事は取り敢えず明日はな、俺がやる。わかりましたか後輩くん」
「……へーい」
「あとパソコンは100万吹っ掛けられたから。
 払う前に直で行ってくる、データ抜かれるかもしんねぇ、高すぎだ」
「何から何まですません…」
「終わってねぇから、まだ。はよ行ってこい」

 行こうとした先でまた「うあああっ!」と叫び声がするのについ、足が止まってしまった。

 ……なんだか、なぁっ。

「海江田」
「はい…」
「…わかった俺が言いにいくから。
 なぁ、お前今回特に変だぞ」
「わかってます、」
「ん。自覚あるならいーわ」

 ぽんと肩を叩かれ…というよりは強かった、折角立ったのにまたソファーに戻され、代わりに坂下が窓口に向かう背中。

 ……どうしても。
 もう、前回のような思いはしたくない、あれで何人病院にぶち込まれた。
 全てが全て犯人が悪い訳じゃない、染まった方も悪い…けど。

 ユリシス・バタフライ。

 まるで透明な……硝子細工のような蝶だったんだなぁ。
 今回は少し、前回と違う。ただ、大元は一緒のはずで。

 どうして透花は「おじいちゃんを」と言ったのか……少し想像がつく。

 自分に生命保険でも掛けているのだろう。
 仲は良いかもしれないが、そんな金、誰が望むんだよ。自分だって……。

 ハッとした。
 ……そうだ、お父さんの病院ってなんだ、一体。

 身体が不自由な祖父、詐欺案件の母、無期懲役裁判中だった父…。

 もしかして。

 それに気付けばハッと、反射的に平良の番号を呼び出していたが。

「……ん?」

 あれ、そうだこれ自分のだけど…あれ?登録してないのにある……。
 あ、そうだった、社用のと同期したんだった……これ、相手には謎の番号でしかな「はぁ!?もしもしぃ!?」あれ、出た。

「あ、お、お疲れ様で…」
『坂下から聞いたわ、やっぱり来たか、期待を裏切りませんねぇ海江田さんっ!』
「……あらそうなんですねー…すません」
『何。俺今帰宅のOFF中なんですが』

 ふっ、と安心してしまった……。
 ずっと力入ってたんだな…と気付けばガックリきた。

「はは…そんでも出てくれるんすね…」
『たまたまな』
「…なるほど。
 えーっと…なんだったっけあぁ、そうだ…花村病院ってわかりますかね?」
『…それ、』
「え、もしかし」
『候補のうちの一人に上がったんだよさっき、たまたま。お前のハイエナ根性ホント凄いな何この奇跡…』
「……つか、飲んでます?めっちゃ早口」
『聞く気あんのか』
「ああ、はい」
『そこの地主。花咲過激派の一人、柏村ってヤツなんだよ。エッグい稼ぎ方してるらしい。
 なんだ、天使ちゃんそこでやったんか腎臓』
「えっと…いや、父親がどうとかおじちゃんを…て、あれ?」
『は?』
「……ヤバい、掛け直します!あざす!」
『は?』

 切った。
 
 坂下が戻ってくると「先輩やっぱ青木透花の家行きましょ」と矢継ぎ早になった。

「…え、何、マジな顔してる…」
「聞き流してたけど…あの女目の前でケータイ投げたわけで」
「え、うん」
「…母親しか出て来なかった…」
「居留守だったんだよな?」
「ジイさんがヤバいかもしれない。
 普通の精神状態ならあんなことしねーでしょ、わざわざ出てきて、俺と目も合いましたからね」
「う〜ん…
 救急車で保険の話してたよな」

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