無色透明色彩


7


「……あいつっ……!」
「だよね。
 だからてのもあるけどまぁ普通に、診察券のある日赤に運んだ。ジイちゃん、会って説教してやってね。
 そして、ジイちゃんも同じ轍を踏まないでね。ソッチはあの人がやってくれるらしいから」

 俯いて震える唯三郎に「ジイちゃんのせいじゃないよ、大丈夫」とハッキリ言う。

「だから、俺はあそこに越したんだ」
「……なんて、言って、いいか……っ!」
「今日は落ち着こうね。
 事情話して…ちょっとまず場所確保するから、あそこには帰らないで欲しい、本当に違法なことをしていなければ」
「……わかった」
「俺たち…少し向こうの団地知ってるかな?
 そこが崩壊しちゃってね。捜査入る頃にはもう、ヤクザも「売れねぇな」って去った後でさ。みんな……酷くて。
 その中でたまたま浮上したのが先日の、404の齋藤だったんだ」
「……そうだったんか… 」
「…そこで、紀子さん。
 紀子さん、ネットで美容グッズ売ってるでしょ?鑑定待ちだけど多分あれもそう。
 透花ちゃんは多分、それをジイちゃんに伝えないようにしてたんじゃない?」
「……そんなのって、」
「酷いよな。ゲンコツ…は、いま脳状態やばそうだから、まぁ、怒ってやってよ。
 今は、透花ちゃんに依頼されたから来たんだ。さっき必要なもの見たけど……2人とも生命保険やら医療保険やら…めっちゃ入ってんじゃん」
「……あの人、俺たちふたりを……。
 いや、もしかして忠恭も……」
「……憶測は目を濁らせるよ。
 とは言ってもまぁ……なんもない俺だったとしたら普通にそこを疑うだろうなと…思う」
「あ、今言っていいかわからんけど…さっきのヤクザが言ってた。紀子さん、柏村の愛人だってよ」

 間が出来た。
 ……気まずい間だ。これは、「まぁ、詳しい話は後にして…1回みんな落ち着きましょ」と言ってみる。

「……だねぇ。
 まずは透花さんだね、ジイさん。
 一瞬だけかもしれないけど、同伴で許可取ってみます。多分…会えたら病状良くなると思うんだ。
 あの子…限界だと思う」

 言わなくていいことは言わないでおこう。
 なんとなく坂下とそう、空気で決めた。いつかわかってしまったとしても、それはその時でいい。

 それから唯三郎はただ黙り……しかし、起きてはいた。

 病院に着いてすぐに看護師がやって来て「保護者の……」と、明らかに首の痣を見て言い淀んだ。

「母親に軟禁されていたみたいで」
「では、そちらも治療しますね」
「あ、その前に一瞬、少しだけ。
 荷物も持ってきたんで…えっと、透花さんは今は…」
「あ、はい。検査と処置は全て無事済みました。今は鎮静剤の投与を…15分くらい前ですね、しています。落ち着いてきましたよ」

 看護師は唯三郎を見、唯三郎はくっと頭を下げ「…養祖父の唯三郎です……孫が、ホン……」泣いてしまったらしい。

「…寝ちゃう前に会えてよかったですね、少しだけならいいですよ。
 その後の手続きは……」
「あ、それも含め急ぎでしたが…色々持ってきました。
 後で俺たちがいない間でもいいので、希望を聞いてあげてください。入院保険もあったし…まぁ、我々の仕事としてはいずれ診断書を取りに来ますので」
「わかりました。
 じゃ、いま!サッとね!」

 看護師がそう言って車椅子を押してくれた。
 後ろから黙って同伴する。

 個室をノックし小さな声で「青木さーん、」と声を掛け、開ける。

 ぼんやりとしたままこちらを見た透花は……「おじい、ちゃん?」と、そこはハッキリ言って…。

「…透花っ!」

 唯三郎は看護師の手を離れ車椅子を回し「透花っ!」と側に寄った。

 ふと頬に触れる祖父と「…おじい、ちゃん……」と眉をしかめ、首の痣に触れる透花に「俺は大丈夫、大丈夫だから…!」と、唯三郎はただ愛しそうに顔を側に寄せて泣く。

「っ……すまない、すまない透花ぁっ!」
「……おじ、ちゃん……」

 ふっと安慈と坂下を見て、ふにゃっと頭を下げる。

「……荷物とか保険のとか、色々持ってきたよ、透花ちゃん」
「ありがとう…ございます」

 まずはと、試しにお気に入りだと言う星空のコップを置いてやったが「あっ、海江田さん」と看護師に注意され、やめた。

 ……硝子だからか。

「……お父さんと、プラネタリウム行った時、買ってくれたやつ…」

 なるほど。

「暫くは…」
「じゃぁ、壊したら大変だし、ジイちゃんが大切に使おっか。
 プラネタリウムか。暇になるだろうし……はは、なんか、リハビリ出来そうなもん、買ってきてあげるよ」
「……アンジさん」
「ん?」

 顔をクシャクシャにした天使は「っありがとっ、」と言った。

「……うん。こちらこそ。
 じゃあ、俺たちは一回帰るね。
 看護師さん、明日また来ますので」
「わかりました」

 部屋を出ると以外にも坂下が俯いて少し鼻をすすり「っあー!クるもんあんな……」と言った。

「俺も流石にキました…」
「うっし!……やるぞ、海江田」
「ですね」
「取り敢えず帰るか…」
「はーい」
「明日お前は休みだが……。
 ちと俺も、ここまでの報告書書いて…午後からにしよ…寝ないとやべーわ…」
「……もしかして先輩も寝てない?」
「お前ほどじゃないから寝たけど……普通にテンパってっから一回寝ねぇとやべぇ」
「…ですね」
「あぁ、その前に被害届か。あれ明日車の主が見たらビビんだろ……」
「あ、そっちはそうっすね」
「じゃ、少しだけ…て事で」

 それから警察署に行き被害届の旨を伝え、社宅で坂下と別れた。

 何かをしようにもパソコン、ないし。
 素直に寝ることにした。そういえば、結局203では寝なかったな、と思いながら。

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