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「あぁ、転院のお話でしたっけ」
…転院?
疑問が顔に出たらしい。
えざきさんが「君は急性のヤク中なんで、まぁ…ちょっと宛があるもんでな」と言い、それから開け放たれたドアに向かって「さとい、寒ぃだろ、つーかちょっと来て」と誰かを呼んだ。
赤城さんが「ちょっと…」と小声で窘めたが、ふっと、えざきさんはゴツイ黒革の手帳を見せ……え、警察?
「…それは行政の指導なんですか?」
冷静に食って掛かる赤城さんの先、ドアの隙間からちらっと……目鼻立ちがハッキリした可愛らしい子がこちらを覗いている。
まだ警戒が解けない透花に、えざきさんは「経験者」とだけ説明らしきものをした。
「予想くらいには意識がありそうでよかった。命あるって素晴らしいんだぞ。君の様子なら三日で出れるだろう…。こんな謝絶んとこじゃな…頭にも良くないし。
今後のこの二人の居住とか、話し合い中なんだよ、看護師さん。な?じいさん」
「…あぁ。
透花…あそこには、帰れなくなった」
……え?
「ですが、」
「いずれ知るなら頭に入れといた方がいい。それこそ驚くだろ。こいつらには病院以外の未来もあるんだから。
場所は言えないがちゃんとした普通の、ツレも使ってるクリーンな、マジでちゃんとした……病院だ。特に薬物に特化してる。
リハビリは少し厳しいところだけどツレはお陰で精神病がほぼ|寛解《かんかい》した。
話題の、患者が消えるような場末の闇医者じゃない。そこは後に隣人が説明してくれるだろう」
……あまり耳に入らないくらいに、ドアから覗いている子……乗り出してきてわかった、男の人でギターを背負ってる…。可愛らしい子。
「気になるなら早よ来い。
天…えっと、名前なんだっけ君。大丈夫足も洗えるし未来は明るいはずだ。ちょっとツレが変なや」
「……はじめまして」
ひっそり傍に来たそのギター青年に「うぉあビックリさせんなよ」とえざきさんが驚く。
仲が良さそう。
「えっと、俺はさといです。確か天使ちゃ」
「うぉい、」
「とうかだよ。透明な花」
「……名前も可愛い〜〜!
あらたさんあらたさん、少しお話しても」
「だから、えざきさん、」
「俺はいいと思うよ、看護婦さん。
ちょっと、ちょっとだけ……」
「おじいさん!?貴方も」
「透花ちゃん、」
ギター青年が側まで来て「よろしくお願いしたい!」と、透花の震える手を気にせず握ってくれた。
…じんわりと、暖かい。
事態は飲み込めないのでどうしてもゆっくりになったが…一度頷くと「声は、意識しない方がいいよ」とギター青年、さといがそう言った。
「楽しいことや嬉しいことを考えた方がいいよ。
もし良かったら……あ、この部屋じゃイヤホン、ダメかな?
…俺の唄…あっちの病院に行ったら、是非ね」
…なるほど。経験者、か。
「丸1日というか2日目に起きられちゃってるから、多分このままじゃ逆に長引いちゃう」
そして、耳元でこそっと言われた。
「俺が薬漬けになった時は三日……かな。ガツッと効いたから少し様子見で入院は一週間だった。
あのヤクザさんが言ってるところは……海外式?らしくて。すぐ治る、頭とか心のやつは。でもヤバイところじゃない」
「……?」
海外……。
少し首を振れば「まぁそう思うよね……」とは言ってくれて…。
「あらたさん、説明くらいはしたよ。
名前出せば日赤さん?でも黙ってやってくれる所なんでしょ?処方箋も…」
「まぁそう」
「ご飯食べられる?手伝うよ?」
自然に座り食器を持ってくれたことには感謝を表した。
「…あれ、コミュ力上がってね?」と言うえざきさんと「ふはは、透花が困ってる」と笑うおじいちゃん、「…兎に角少しですからね!」と怒る赤城さん。
あれ。
なんだか和やかな日常…と、口元まで運ばれた粥に噎せ「……っふ!」と少し声が出た。
「あ、やっぱり身体的なやつじゃないね。出たじゃん、声。
暗いことはどっかに置いとこ?」
手を見る。握ってくれていたからから、気付けば震えも止まっていた。
「ゆ……び、」
ホントだ、喋れた。
「指?」
「……あ……る、」
「うん、あるよ。綺麗な手」
指を絡め、翳すように透花の指を眺めるさといの指は…長くて少し硬いと気付けた。感覚は戻っていそう…。
様子を見ていた赤城さんは仕方なさそうに「ちょっと、担当医に色々言ってきます」と去って行く。
邪魔者が居なくなったとばかりにおじいちゃんもえざきさんも側に寄り「よかったな」だの「透花……」と泣いてしまったりだの……。
いままでと、何かが違う世界。
ヌルッと冷めた粥を噛み締め、そう考える。
……夢みたいだけど。
多分、こっちは夢じゃない。
「プラネタリウム、透花、俺、行ったことなくて」
「……?」
「だから、だから……、」
……どうして、こうも感情が伝わってくるんだろう。
透花は笑顔で頷いた。
「最近大体バリアフリーだしな」とかなんとか、初対面の人が話しているのに。
…多分、えざきという名前は柏村の事務所にはいなかった、ぼやけた意識もハッキリしてくる。
大丈夫か不安ではあるが、この人はなんとなく、少しこっちよりだ。
それから海江田が来るまで、色々と話を聞くことが出来た。
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