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「……はようございま」
「あぁあああ〜〜っ!やっと来た海江田ァ〜〜!」
一日休んだ午後の出勤早々。情けない声で出迎えた所長はベシッと肩を叩きすれ違い「無理無理トイレ…吐いてくる…」と、会って早々に出て行ってしまった。
所長のデスクを見れば、平良が考え込むようにパソコンを眺め、坂下が「はぁ……」とマウスの主導権を握っている。
所長のパソコンには、あのUSBが刺さっていた。
「……はよっす…」
「あ、海江田…」
「先輩、パソは…」
「まだ無理っぽいけどお前がダウンロードした残りデータを鑑賞中……」
「あぁ、」
「こりゃ酷いな…」
平良が、誰も付けていなかったイヤホンをぶち抜くと、パソコンから「いやああああ!」と…まるでマンゴラトラだ…音割れした少年の悲鳴に「うるさっ、」と坂下がミュートにした。
金髪碧眼の子供が目隠しをされている。
大人の外国人がその子供の指に刃物を当て上から水を垂らす、錯覚した子供が怯え、その錯覚の中でブチ犯されている映像が流されていた。
「所長、お子さんいますもんね…」
「耐えられなかったらしい」
「子供いなくても無理だろ……俺も仕事スイッチなけりゃ無理。今日不眠になったら……」
やっと安慈を見た坂下は「なんかお前クマ凄くない!?」とツッコんできた。
「……そりゃまぁ寝れないっすよねー。日赤で不眠薬でも貰おうかと思いました」
それでも非日常的な映像が流れっぱなしで、そうだ仕事スイッチと「マシなというか…毛色違う方を…」と坂下からマウスを奪う。
「セックス恐怖症になりそうだわ…」と言う平良を放っておき「こちらになります」と、別の動画を出した。
先程の金髪碧眼の子供がメイド服を着て……理性とか自我とかぶっ飛んでそうな……ラリった様子で騎乗位をしている様。
音を出さずとも「あは、あはははは!」と無邪気な笑い声が聞こえてきそうだ。
場所は恐らく、同じ場所。
「ホントは音声解析まで……いや、単純に聞けばわかるんすけどね。多分これ、船の中」
「……船?」
「青木透花が救急車の中でふと、『船で来た』と言ってなんつーか、繋がっちゃいました…。
……この動画途中で仰け反って……多分意識が飛んだんでしょうね、そこで切れて終わるんすけど…続けます?」
「いや、いいや」
「うんなんとなくわかった。
多分、この子にはこの頃の記憶、ないだろ。俺の知り合いにそんなのがいた。がっつり薬漬けにされて記憶飛んだ奴」
「……そうなんですか?」
USBは抜き、それぞれデスクに戻る。
「まぁね。そいつは…たった一度の過剰摂取でアナフィラキシーになったお陰…と言っていいのかわからんが、モノを絞って、今は心配がなくなったというか…」
「……なるほど?」
「で、この子の検査結果は?」
「ケタミンが出た。常用性はなしだってさ」
「あ、例の…あの人に頼んだらなんか、良い病院があるって」
「…あぁ、あのぼったく…いや、カナダ式で、一応医院長は日本で薬剤特許は取れているが…がっつりな病院だから、バッドトリップの懸念がなくはない」
……ぼったくりって言った気がしたが、そんなことより先日の、透花の姿を思い返してみた。
「救急車で拘束具は付けられなかった感じで…フラッシュバック現象はあったと思う…」
ふいっと坂下が平良を見、何故か「平良、最近恋人と別れた?」と話題変換する。
平良自身が「っは、」と飲みかけたコーヒーを誤飲し更には咳き込むので「あーあーあー」と海江田が背をさするも、それは払われてしまった。
「いねぇよ暫くっ」
「あ、そうなんだ」
「つか関係ねぇよなぁ、それ!」
「いや最近お前も寝てなそうだしぃ〜、家出してんの?てくらいここいるしぃ〜」
坂下先輩、意地悪いなぁ。
「まぁまぁ。確かに関係ないし興味無いんで」
「いや、恋人の体験談なら超ラッキーだなって」
また誤飲した。なるほど?あのヤクザのツレは、こいつの元恋人的な?
「……坂下、お前なぁ、」
「あ、そうだ海江田。紀子への被害届、出したじゃん?」
…うーん、なるほど、バレたか。
「バレました?」
「うん。警察さんが青木家に行ったら「詐欺っすか」って男の声がしたってさ。数日近付かない方がいーよ」
「最近流行ってるからな、警察詐欺」
あんたの偽手帳も使われてたし俺も所持してるし先輩もそう振る舞ってますけどね。
平良がケータイを弄り「帰りたきゃ言ってくれれば、日時とか」と言ってはくれるが…多分、あのヤクザに頼むんだろうな…。
「……なんだかなぁ…」
つい、ポロッと出てしまった。
それにふいっと坂下がこちらを見、「どこ行ったんだお前の生意気鉄メンタル」とドヤされてしまった。確かに自分でもわかる、今回は柄にない…。
「そんなんじゃ降りた方がいい。今回マジで死」
「そうですね」
「……は?」
ちょ、何言ってんだお前。あのなぁ、」
「平良さん、先輩を宜しくしたいで」
「は?却」
「大丈夫です。なんかあっても末端の“取締官”の話なんで」
「……あっ、」
「だからそーじゃねぇってば!」と坂下は言うし平良は「はぁ…」と溜め息を吐くし。
「…タバコ吸いたいな海江田さん」
「俺はいいです。どうぞ行って来」
「ふっ、」
平良は笑い「いや無理今申請はお前と坂下じゃん、」と腹を抱えた。
「別にまだ降りてないし」
「あーあーはいはい!お前らコンビには入っていけねーよ!いい度胸じゃねぇか、ハイエナくん」
久々にキリッとした先輩達の目を見た。
…まぁ、いいだろう。
「まぁ、この後は病院に顔出すんですけどね?」
「…確かにお前、エンジンの吹かし方バグってるわ…」
「そっちが火ぃ点けたんでしょ坂下先輩。あんたタバコ吸わないからわかんないかもだけど」
満場一致の雰囲気が出たところで「た…だいまぁ……」と所長が帰ってきた。
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