無色透明色彩


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 …現在透花は面会謝絶となっているはずだが、看護師から「ちょっとあの人たちを…」と言われ焦って部屋を開ける…前から聞こえてきた。
 ギターの音とひっそりとした洋楽…『アン、ソー サリキャウェイ』なんだっけなこれ…。

 安慈がドアを開けると、あの福山風味とギター青年と、合いの手を叩く唯三郎が「すげぇな兄ちゃん!」と笑っている。

 宴会場のようになったそこの扉をサッと閉め、透花が気付きコクっと頭を下げ…多分、笑っている。

「俺オアシスはWhateverがいい」
「えー、」

 ギターをやめた青年とヤクザが気付き、ヤクザがふいっと「なぁ?そう思わね?」と振ってきた。

「おー!兄ちゃん、」
「……えっと」
「ほらWhateverだって」
「……声低くて出ないからじゃはい、アラタさん」
「英詩わかんねー…」

 これこれ、とギター青年がアラタさん(福山風味)にスマホを見せ少しチャラーンとやったところで「あのー」と声を掛ける。

「透花は日本語喋るよ」
「そうなんだ。じゃあ…」

 こちらの存在感など気にしないままイントロらしきものを弾いたギター青年が「とまった 手のひ〜ら 震えてるの躊躇、し〜てぇ」と唄い…あれ、なんだっけそれと雰囲気に呑まれたが「いや待てい!」とツッコんだ。

 しかし目が合っても「なっつ草 揺れる せーんろに」と続ける…え、上手いな。
 なんだっけそれとつい聴き入ってしまったが「あんなーたはぁ くーもの影にぃ〜」でぱっと思い出した。

「あっ、スワ…オオルリアゲハの!」

 やっと手を止め「そですそです!」と…可愛らしく嬉しそうな顔で言った。

「……あ、あぶね、呑まれそうになった…。
 えっと、面会謝絶って…てゆうかあんたら…看護師から苦情らしき小言が」
「…あぁ、透花の声が出なくて」
「へっ!?」

 当の透花が親指と人差し指で“ちょっと”とやる。

 ……マジか。

「あ、あー……なるほど……。
 思い出した、それチャラだ」
「そうですけど違いますよ。イェン・タウン」
「君は一体誰」
「かがや」

 ふっとアラタさんが手を出し「透花ちゃん?のお友達になったヤツ」……あぁ、ツレっすね、と思ううちにふっと首で「外へ」の合図。
 まぁ確かに…透花を見て唯三郎を見、「…ですね、話しますか……」と、外に出ることにした。

「あいつは大丈夫。経験者だから」
「……なんとなーくは聞きましたよ同僚から」
「あ?そりゃ腹黒クソ野郎か?」
「はい」
「…一個言うなら孫は声が出ないわけでもない」

 車椅子は自然とアラタさんが押してくれたが「そうなんだ、あの子のお陰で」と補足をくれた。

「……まぁ、そうですか…」
「俺もいつも通りなんだが…鎮痛剤を打たれて少しな…」
「まぁジイさんよぅ、普通の病院はそうだよ大体。患者の意向と少しズレる。
 本気で孫の事考えるなら、俺にも案があんだわ」
「…それもなんとなく聞いてきました、その腹黒陰険野郎から」
「……ははっ!」
「ジイさん多分この人大丈夫な」
「わかるよぅ」

 流石だ。
 まぁ、そりゃそっか。

「…日赤だからな…ちと頑張って説得するけど…ジイさんとは孫ちゃんとの…」
「それなんだが……」

 ふと、唯三郎は「…忠恭は死んでいるし…紀子さんとの離婚はいいとして、死後離縁を申し立ては出来ないんだろうか…」と俯いて聞いてきた。

「…出来るけど、どしたの」
「…遺書を書いて、」
「いや、それは…透花ちゃんと話した?」
「まだ……でも、これから二人じゃ」
「…今から話しに行くけど、俺の社宅、家族用で申請出してるから少し…」
「なるほど。1番安全ではあるな、あんたが殺されなければ。
 おいクソジジイ。んなんだからこんな詐欺師野郎に騙されんだよ」

 より声色を下げ「なぁ?」とアラタさんが言うのにピタッと止まり、空気が変わった。

「ナマ言ってんなら左の腎臓売ってこい?な?ジイさん。
 てめぇもてめぇで絆されちまったんか?ん?同じ詐欺師でもなぁ、お上に騙されんのとこっちに騙されんのじゃ重みや痛みが違ぇんだよ、お前にはわからないだろ?そんで落ちてくるやつ何人見てきたと思ってんだシャバ僧が」

 言い返せないでいれば「だからあのガキが傷モンになってんだよ」と…随分グサッとくる。

「…は?」
「は?じゃねぇよボケジジイ。
 まぁいいだろ?んな、手放してはい終わり、なんて自己満よりか。老い先短かろうが役に立つ方法なんてな、いくらでも」
「少し泥に染っちまったからって悟った気になってしゃしゃってんじゃねぇよ」

 このヤクザ風情が、とは言えなかったがスラッと…自然と出た言葉に全く嘘はなく…それが、不思議だった。

 そこからふっと、アラタさんが顔を伏せ笑い「っはははは!」と声色は普通で。
 ついつい安慈も「はは、ヤバっ、」とクスっとしてしまった。

「……向いてねぇよ、お前も」
「あんたもね」

 ぽかんとしたような、でも考えを巡らせているような表情の唯三郎に「あーあー、すまん冗談だよジイさん」と、また普通通りにアラタさんは言う。

「…あんたのより…ふはは、この血気盛んな兄ちゃんの方が役立つから」
「…透花は…っ」
「そーだな。透花ちゃん、片方ないんだよ」
「…そう、」
「治ったらゲンコツもんだね…ホントさ」
「……そんなん、手なんて、俺、出来ねぇよぅ…」
「うわヤダ老人泣かせたこの人」
「あんただろそれ。脅すなよ全く。
 でもジイちゃん、この人が言うように、あんたが離れたらあの子、終わっちゃうよ」

 ロビーに着いた。
 待っていた看護師長が、「海江田さん、そう言えばさっき東北?の警察の方から連絡が来ましたけど…」と怪訝な顔で言われた。

 …バレているのは、わかってはいたが。

「あーそれ警察詐欺じゃないっすかね?普通は個人ケータイに掛けてきますけどね」
「あ…そうなんですかね?」

 目の色が変わったアラタさんの表情は肯定を表していた。これは、互いに猶予がない。

 怪訝な顔のまま、「ま、別室で…」と看護師長に通される。

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