無色透明色彩


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 坂下と共に病院を出て車に乗った。
 なんとなく語らずとも、漸く、絶対にという意思が固まったと思っていた緊張感の中、ケータイが鳴る。

 所長からだった。
 礼状があるなら今、ガサ入れというのも有り得なくはないけれど……さっき、許可が降りてないって…。

 病院には刑事もいたしもしかして…礼状は先に取れたがその他は微妙ってこと?

 特に何も言わずに運転しながら横目でこちらを見る坂下と目を合わせ、安慈は電話に出た。

「はい。お疲れ様です所長」
『あいどーも、お疲れ。
 …招集予定だが…平良はいるか?』

 平良が去って行った背中が頭を過ぎる。

「…丁度居ないというか…」
『こっちも連絡がなくて…取り敢えず一度そちらに人を派遣するから』
「見張りですね?ガサでよろしいですか?」
『坂下と合流したんだな?』

 …読みは当たってそうだな。さて、どこが来たのか…。

「はい。今から現場の方が」
『……ところが…。
 海江田、今日の午後、1度抜けたよな?』
「え?あ、はい。
 丸被2人の、見舞いも兼ねた偵察を…」
『…こっちに戻る前、賃貸契約書を取りに行ったよな…時間帯にして15時から1…7時あたりか』

 …ん?
 なんだか雲行きが怪しい…?

 「…そうですが、何」か?に被り所長が『警視庁から組対部の薬銃と刑事部の捜一が来てる…』

 ……は?

「捜一!?」
『あぁ…。
 捜査協力要請とお前のアリバイの話が出てて』
「げっ」
『どの道一回戻って来て…』
「……坂下先輩」
「…その反応からすると嫌な予感が…」
「警視庁から今日の俺のアリバイと捜査協力要請が…」
「…それでかー。1本取られたな。所に戻ればいい感じ?」
「はい、すみません」
「ったく……。所長に向かうって言っとい」
「だ、そうです…」
『わかった…10分くらいか?』
「30分以内には…」
『了解』

 切れた。
 坂下が「一課って何、アリバイって」と聞いてくるので素直に「平良さんの情報屋が…俺があの家に戻ってる時間…撃っちゃったんですよね…」と正直に話す。

「……ん?」
「…その場ではホトケさんは出なかったんですが……。一発威嚇射撃をかましたんですよ…紀子に、俺の支給の銃で」
「…なるほど…って…は!?紀子!?なんで?は?」

 考えているようだがひとつ「それであの動画?」と、謎キワモノ動画の話題をぶり返してくる。

「…でもホトケさんは出ていないと…」
「はい」
「付近住民だろうが…アリバイに関してはあの動画でなんとか行け…え、なんか怖いんだけど…。
 現状証拠だけなら紀子の線は消えるはずなんだけど…って…。
 ゆうかお前!実弾許可も降りてないしなんで貸し…あれ?これもアリバイに近いか…逆に。にしてもバカなんじゃないの?」

 うわぁ。
 こっちでも言われた…。

「あ、ちなみに…えっと、情報屋は当たり前に指紋とか残してないと思われます…白手してたんで…」
「…やりそ〜あの人…なるほどじゃあ紀子が死んだ可能性が浮上しちゃったのか…」
「…かも」
「うーん…。
 まぁそれなら警察あちらさんも協力的になったんだと思うけど…齋藤も追ってるし」
「話し合う機会があるならラッキーです。
 あっちもガサなら、タイミング合わせないと多分柏村はトびますしね」
「…ま、とりま一回行かなきゃな。しかし大元はわかってるから取りっぱぐれるよな…。
 まぁこっちは結局頭からサイバーと繋いでたから…」
「あちらさん、薬銃も用意してるらしく…」
「終わった頃にやってくるとは…。あながちこちらに礼状が降りたのを嗅ぎ付けたんだろうけど…」

 ふっと嘲笑い「まぁこっちは結局いずれは全部提供するから早くてめんどくないな」と不服そう。

「警視庁か…どうせなら公安に踏み込みたいくらいだったのにな?」
「裁判記録ですよね。こうくるとは…マジで黒なのか白なのか曖昧になりそうだな…」

 ふぅ、と溜め息が出たが「んなら、逆にやってもらうのも手ですかね」とポツリと言ったのに「はいぃ?」と坂下が食いつく。

「いや、現状だけだとじゃあ病院って、超手薄だけど…花村には多分、ですが。江崎が向かいやすくなってるなぁと、今なら」
「………確かに?
 ん?けど…」
「こっちでしか出来ないこともあるんで」
「………確かに確かに」

 なんとなく筋道は立てたが「急に危険度MAXじゃん」と坂下も溜め息を吐く。

 掻っ攫われた気がしないでもないが、却って「そうだよな」と役割を思い出す。結局のところ、ある程度こうしてグレー組がいなければ解決しないのが現状だ。

「…あくまで俺が矢面にというか…好き勝手やったんで、先輩は」
「ナメんなこっちとら何年かであっても先輩なんだぞ」

 まぁ…。

「はい」
「この仕事はその瞬間がやりがいがあるんだ。久々に感じたよ。
 お前、死ぬ気あるよな?」
「じゃなきゃガンガン撃たれませんね」
「え、そんなに?」
「青木家のドアはトカレフ穴でなくなってるかもしんねーっす」
「マジか…えぇ…公営じゃんなぁ?」

 面白そうに坂下は言う。
 ガサ入れ前に乱闘(ひとりで暴れた三下による)があった。
 お陰でスムーズ…だといいが…。

 庁舎前でふっと覇気を入れ込む。
 アリバイはあるけど立証はなんとも。まさしくグレーだ、これは。

「先輩、申し訳ないですが少しだけ話を合わせてください」
「りょーかい」

 それがこちらの特権だ。多少強くも出れそうだが…上手く行けばいい。

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