17
透花と唯三郎の“日本アルバータ大学付属病院”へ転院の話を進めた。こんなインチキ臭い名前の病院でも、アカイハネ病院は「えっ……」と驚くらしい。
「では…」
と去るモグ隣人の背にふいっと何か…あぁ、こいつやらかす気だなと勘が働いた。
安全かどうかも頭には過ぎったのだが、透花の病室に行き慧に「ちょっと居てくれ、行ってくる」と伝えている自分。
「…確か高田が空いてたな…柳瀬…うーん、まぁ顔覚えてるよね?」
「あ、はい…」
「どっちかをジイさん、どっちかをこっちに寄越すから」
「セイさん…は?」
「……あー、そうだな…入れ替えで呼び付けとくか…」
「…どうしました?」
察しているだろう…。
「いや、まああの子のこともある。今元気なようだし構ってやってくれ。俺はちょっと別で仕事が」
「他の人寄越すのに?」
…全く。
軽く頭を撫で抱きしめ「頼む」としか言えない。
そうすれば「……ん、わかりました…」と従うのを知っている。
「大丈夫、帰ってくるから。
あ、浮気すん…」
いや。
…言えることなのかと迷えば「根に持ってる〜!」と明るく言ってくれるので「そうだよ、」と返しやすい。
「よろしく…」
こいつには伝えてある。自分に何かがあったら…なんて。
「…甘いな」
ジイさんに「腎臓売ってこい」等とどの口が言えたもんだか…と、迷いを察した多摩が「別にいいんじゃないですかね」と言いいながら発信する。
「…高田か。今からこっちの病院に…柳瀬と来てくれ。会長と俺は外す。加賀谷くんがいるんだ。
あのマトリも呼び付けるから喧嘩をしないように。…コンタクトだしそれは傷害罪より先に公務執行妨害で現行犯だ。
あー、多分加賀谷くんにちょっかいを掛けたら…会長、いいんですかね?」
「…なんの確認だよ、大丈夫だと思うけど殺すな面倒臭い」
「だ、そうだ。コンタクトを触るくらいにしとけ」
「…お前陰険だな、意外と…」
「なんですか?
あ、総合窓口では「青木唯三郎の遠い親戚」と言えば大丈夫だそうだ。会長は透花の親戚になってるから」
ピッと電話を切った多摩はなんだか物申したそうに見てくる。
「…なんだよ、言いたいことあんだろそれぇ…」
「彼もマトリなら武装許可降りているでしょうに…というのはわかっていそうなのでやはりあのインフルエンサーですか?」
「…も、芋づる出来たら手間が省けるなって」
「……思ったんですが多分、嗅覚似てるんじゃないですかね?あの若造と」
「…犯人は現場に戻る、と言うし…」
「花咲へはどうするおつもりで?」
「わかってんだろ?後に売り込みに行くよ?俺があのイカレ闇医者に不意打ち食らったのはそのバカのせいだ」
「ですねぇ…ちゃんと医療費の領収書持ってきましたから」
「……出来すぎて怖いなお前。最早俺、多摩さんの部下でいいかも…」
「甘いですね〜」
「だよね…」
ふぅ、と一息吐けば「この件が済んだら本当にもう、マトリとはいいんじゃないですか?」と言ってくる。
「…そぉれはわからんよ、今んとこビジネスパートナー化してるしぃ…」
「まぁ、確かに。クリーンヤクザまっしぐらな道を作りましたよね」
「……も少し刺激欲しかった?」
「嫌ですよ。会長も40を過ぎ、孫が出来る歳になればわかりますよ」
「………孫いたっけ!?」
「報告が遅れてました、忙しくて。はい。娘が授かりまして」
「…そりゃぁめでたい…。
ホントのところ遠慮した?」
「………いえ、」
多摩は吃った後、まるで「…会長は隣の芝に興味がないと言う人なので」と言い直す。
「まぁ、そうだな……つーか、まずおめでとう、50封しとく」
「ありがたく」
「まー…俺はいいんだわ。ただそうだな…いまのままじゃ甘いなって反省しました。
でも、何かあったらホント、アレには気付かれないようにどっかに埋めてくれ」
「………聞き入れますが、実現するかはわかりませんよ、」
「ん、わかった」
それでいい。
タバコを三本吸ったあたりで高田と柳瀬が来た。
さっと多摩の不意を突き、ひとりで車に乗り込み発車すれば案の定、何度も電話が鳴るが気にせず音楽を掛ける。
久々に気分が良い。そんな日だってある。
なんとなく想像したかった。さて、俺がいなければ皆どうするのかと。
多摩や皆…足は洗いたいんだろうか。
だとすれば一番染まり抜けられない自分なんかに付くべきではない。
自分は総代が死んでも何も残らないからそうした。たまたまあった栄養豊富な泥濘。思う存分溜めておこうと。だから、本家に行くことはないんだよ、多摩。
それに気付かずにあそこまで身を削ったのなら、青木透花にとってあの家庭は足枷…それこそ詐欺だ。そして今、モグ隣人は向かっている…なんとなくあいつも見極めたいのだと思う。
あの子供が生きたいのかどうか、飛びたいのかどうか。
答えはどちらも「呼吸をしていたいだけ」というのを本人が信じていないのだ、ならば、行くしかないのだろう。
そんな奴がひとりで前に立つならば、自分もひとりで向き合うべきだ。ただそれだけで、これは根拠も何もあったもんじゃない、くだらない同調と感情論だけど。
何も日向ばかりを飛びたいわけじゃないのだから、と。
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