無色透明色彩


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「ったく、」

 …タイミングが良いのか悪いのか。
 正しく今、花咲と話が…あのジジイ、なんだかんだで「喧嘩両成敗」だなんて…拳銃ぶっ放したのがバレたのだ、過剰に穏健すぎる回答にイライラしたばかりだったが。

 使えない。
 車を飛ばしながら高田に発信し「高田か」と言っただけですぐ『会長っ!やべぇっす!』と音割れする勢い。

『青木の件ですが、すませんジイさんと天使ちゃんが攫われました!』
「……なんで。いつ。はい主語からどーぞ」
『こっちの病院で見張ってたんですがボロッボロの女と…柏村が病院に現れてそれが親族だっつーんで病院が返しちまったんで』
「…意味わかんねぇけどわかった。そんでサツが張ってるしどーしよーっつーとこだったと」
『…はい!』
「はい!じゃねぇよ。まさか今花村に向かってんだろうな?」
『はい、ゴチャゴチャ始めた隙に』
「よーし。それでよし。偉い。
 刑事は恐らくまだ初動だ、それでこの凡ミスとくりゃぁ、花村には暫く来ない、マトリが手動を握りそうだな。
 花咲も協力的じゃねぇし気を引き締めて来い。俺は今から平良と落ち合うんで」

 引き出したところで慧のGPSが指した公園に着いた。
 それについては多摩に言及をしない変わりに車を降りる。
 「会長!?」と追って来そうだがふっと手を翳し「助かったよ多摩。別々で行こう。すぐ電話する」と言っておくが…。

「何考えてるんですか、」

 結局降りて来てしまったので振り向き、「慧がいるんだよ」と言った。

「あと一歩引き上げるのが遅けりゃアイツも巻き添い食らってたかもしんねぇ…いや、もう食らってる。一人で家に返せねぇと判断したから慧は今、平良と来てる」
「…会長っ!」
「大丈夫だ」

 笑って振り向くことにした。

「俺も絶対に死にたくないからな」

 平良の車を見れば、慧が降りてきて「新さん」と来ようとしたので「はい、お前と俺はそっちー」と平良の車を指す。

「向こうで合流したら…こいつを任せる。その他の確保はこっちで」
「…新さん!」

 吠える慧にぐっと多摩は黙るが…慣れは、怖いものだ。
 いつも新は、慧の前では表情を切り変えているのに…「なんだ」と、“会長”として接する姿に目が離せなくなってしまった。

 慧はどうやら構わないらしい…そういえば一回“会長”を見てるか…。臆することなく「あの二人どうなっちゃうの!?」と不安をぶつけている。

 多摩が平坦に「恐らくバラされますよ」と告げるが、意外にも新が「っ多摩、」と、会長ではない声色で制した。

「バラされるって何!?
 ねぇ!さっきあの子、普通の…前を歩こうと頑張ってたんだよ、」

 ……あぁ。
 やるせないのだろう。まぁ、今日見ててわかっている。新も結局あしらわれ、結果最悪に向かっているのだから。

「……加賀谷くんの件わかりました。一緒には…柳瀬でどうでしょうか?腕は一番立ちます」
「それじゃ、みんなは」
「加賀谷くん。
 どこかは妥協してもらわなければなりませんが、私達は会長の命に変わります」
「…それじゃダメだ多摩、俺の命に変わるんじゃねえ、」
「……言いやがりましたね会長」

 …あれ?
 でも。

「ああ言ったよ。俺は、自分の命を軽んじるヤツに命を預けないんだよ、妥協しろ!」
「…わかりました。
 私も再三言いましたからね。加賀谷くんとの痴話喧嘩は後でどうぞ!」

 ……さささっと、あの多摩が先に車で去ってゆく…。

 ふぅ、と一息を吐く。あぁそうだった、多摩、静かにキレ…静かじゃなかったなぁ…いまの。

 でも、そうだった。
 背負ったものは誰かに任せてはいけないんだった。そんな当たり前のことにどうして臆病になってるんだか…。

「…慧。
 俺の部下が死んだらお前も死ね。そしたら…迎えに行ってやるから」
「………」
「そういうことだからな?男に二言は」
「バカじゃないの!?当たりま」

 ぐっとつい…強く抱き締めてしまった。

 それに文句も言わず抱き締め返…あれ、力強っ、そうだわこいつバンド野郎だ地味に力、あるぅ…。

 ただ、一瞬だけ。
 どうしてだろう、こんな当たり前だったことに胸が痺れて鼻腔すら掻い潜り一筋涙が出てしまって…本当に歳だろうし、向いてないなと自覚する。

「…いまだけね、」

 その一言で「よし…」と言える。

「お前は絶対にまず柳瀬と平良に従え。なんとかする…あと、俺がパクられたら多摩に従って。金出させるから」

 平良の車に向かう。
 つまらなそうにタバコを吹かした平良が「終わった?」と言う。

「あー悪ぃな。花村へ」

 発進する。
 新もタバコに火を点け「で?」と当たり前の態度。

「警視庁一課と元組対とウチで捜査本部が立ってる中。海江田と坂下はそれから来ると思う、多分だけど」
「…柏村はどれくらいの規模を持ってる?」
「ほぼないはずだが…。正直枝は把握しきれていない、先輩が神奈川に持ってたから。だがこっちは、お前らとウチとでなんとか出来るはずだ。
 お前らは後ろに乗りつけろ。いざとなれば慧はウチが預か」
「ヤダ」
「……だな。こっちは出来るだけお前を逃がす方向で」
「ナメんな、俺もあれから場数は踏んだよ。一斉検挙に乗り出す方針で行くと思うから」
「……花咲は全部そっちにやる、」
「おう、それでいいから」

 平良は慧を見、「それが…お前がやっと歩き出した道なんだな」と、染み染み言う。

「あわよくばなんて、甘かったよ」
「…セイさんだってもう、道を歩けてますよ」
「そう思って道を見つけたんだ。
 江崎、悔しかったら生き残れな?じゃないと慧を返してもらうから」
「物みたいに扱うな。大体ソレはお前には無理だったろ?バーカ!」

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