無色透明色彩


24


 花村病院はクイッと右折してすぐ「うわ、あった…」と非常に気付きにくい位置にどん、とあった。

 鉄筋の…どう見てもモグリ…これも塩漬けだわなと、「これ車線あっちじゃん…」と手間取る平良のおかげで見える、新の車と…裏口にワゴン車、その他何台かしかない。

 雰囲気はどこか物々しいのに何故か…通り沿いなのに静かだ。これは勘でしかないが“血生臭い”。

 見えにくいがなるほど、裏口の目と鼻の先に葬儀場があるタイプだが…。うわぁ、これ“霊柩車、絶対に来た道を走らない”の原則が不可能なんじゃないか…つまり、そこも本当に葬儀場かは謎である。

「おぅ、柳瀬。もー着くんだわ。ワゴン車だな?
 後ろに停めっから慧をよろしく頼んだ……あ、そう?つまりマル被の姿は確認済みだな?
 ……平良、後ろな?一台あるけど気にせず、それ別で使うから。
 んー…なるほど…やべぇな、すぐ行く。
 平良、先に降ろしてくれ」

 顔を見ればわかる、しかし推し量っている場合じゃない。

「お前は正面から来い。
 あー、多摩から来たぞ間取りが。役に立たなそうだがコレを見て“地下”の間取りを想像しながら歩けな?」
「…地下?」
「らしい。もー始まってる」
「いや待てお前」
「わかってんだろ?
 柏村の狙いはマル被と…俺なんだわ」

 仕方がないと、平良が歩道に車を停める。新は手を翳し後部座席から外に出た。

 ワゴン車の前で、多摩が銃を用意し待っている。
 「会長」と、一枚…名刺のようなものを渡してきた。

「柳瀬が拾ったようで…」
「裏口の受付ぶん殴ったらくれました。恐らくこれで正面から行けるんで…」

 …今どき見ないほど古い…ラミネート加工されたフランスの身分証。

「…そういうことかよ」

 ユリシス・ヴェルディエ。
 青木透花の出生名と出生日のみが書かれた物。これでは確かに…そうだな、日本人の“青木透花”の方がハッキリした身分だ。

「………平良…」

 後ろに停まったので「ついでに平良に渡してこい」と柳瀬にラミネートを渡す。

「会長、」

 多摩に銃を渡され「よし、」と…ガラ空きになった裏口から堂々と侵入する。
 仕事が早いと言うか…受付の従業員は椅子に縛り付けられていた。
 警備員や事務ではない…アホ丸出しのスキンヘッド刺青というダサさ。

「……アイツとことん趣味悪いな…こりゃ花咲のジジイも見なかったことにしたいわけだ…」
「最早チンピラですね」
「…まーいや。並木と高田はどこに向かった?」
「高田は正面、並木は先にこちらから」

 少し前の団地崩壊で押収された品には青い蝶がプリントされている、それは「ユリシス」と呼ばれていた。
 出回った際にこちらでは話題になったものだ、日本名“オオルリアゲハ”。3匹見つければ幸福が訪れる、それに乗じて「三回でハイになれる」と謳われていたのだ。

 透花の脇腹にも蝶の刺青があった。

 あのラミネートの身分証…。
 ラミネート時代であれ、フランスの身分証には写真が貼られるはずだがそれすらないとか…。孤児院が辛うじて作ったの物かもしれない。

 海江田、それがお前のパラベラムだ。それに何を思う?

 人の底をよく見る。それはどんなものか、人による。
 「どうしてヤクザになったのか」と慧に聞かれた時、そう答えた、そんな自分に驚きもした。

 俺はそんなものが見たいのかと。

 随分と泥に浸かっちまったもんだ…だけどわかる、こんなもん、幸せでもなんでもないじゃないか。
 それが捨てられた事実なら、もう…いいだろう。

 エレベーターに乗れば、ボタンは地下1階まで。
 「2階も存在するようです。並木は1階にいて…」つまりエレベータは上から地下1階で切れる構造らしい。
 それはどちらが当たりか…普通は切れるとしても地上と地下の繋ぎだろうに、変な作りにしてあるもんだ…設計図に地下なんてない、完璧な違法建築の塩漬けモグリだ。

「…2階が当たりなんだろうな、これ」

 地下1階…どうしてその下があるんだか…隠されているということはそこは“秘密”なのだ。
 地下や地上階を見て予想を立てる。ある程度部屋はあるはずで…。

「……それ以外、並木からは何も来てないんだな?」
「ですね」
「じゃあお前はここね。平良も来る」

 音声アナウンスは響く。
 従業員用…いや、地下2階用のエレベータに乗らねばと思ったが即、「…ご面会…で、しょうか…」と、不自然に通りかかった看護師が怯えた態度で聞いてきた。

「親戚が緊急搬送されたっぽいんだけど姉ちゃん、随分怯えてんなぁ」
「え、いや、あぁあの、」
「事情知ってたらこの人こっそり案内してやってくんない?いまここヤバいんだろ?」
「えっ」
「…汚ぇチンピラと女は下かな?
 静かに従ってくれたら紛れて逃がしてやれるかも。あと、もう一人…なんかニヤケ顔の小動物じみたスーツ似合ってない兄ちゃん来なかった?」
「お、おじいさん………あ、泡吹いてて……っ!」

 多摩と顔を見合わせれば頷いた。

「……わかった。それじゃここでウダウダもやれねーな。
 あ、上のインターホンなんかぶっ壊れてたよ。
 姉ちゃん安心して、この人真面目な人だから。まぁあんたの医療従事者精神に任せるけど。じゃ、多摩、あとはよろしく」

 …この階に何かがあるとわかってよかった。
 バラすとすれば地下2が1番都合が良さそうだ。ということは地下1に何かがあってくれるなら、そっちはまだ間に合っているのかもしれない。

「…ジイさんを適切に助けてくれ。高田も正面を開けてくれるはずだ」
「…畏まりました。会長、」
「俺は方を付けてくる。明日の…未来のためにな」

 上手く切り抜けてくれよ、お前ら。

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