無色透明色彩


25


 その考えはすぐに移り変わる…エレベーターで降りている最中に怒号と悲鳴が聞こえてきた。

 ガシャガシャと音がする。
 ドアが開きます、と同時に目に入ったのはストレッチャーに…寝ている人物を押さえつけている看護師風味の痩せた男と…イライラしたようにそいつから注射器を取り上げた柏村を見て銃に手を掛け一歩出る。

 ドアが閉まります。

 悲鳴をあげて腰を抜かしている…40代くらいの女看護師がパッとこちらを見てさらに発狂。

 「うっせぇババア!」と怒鳴った柏村もすぐにこちらを見るが、間を置いてすぐ「江崎ぃ……!」と、気付き、こちらに銃を向けてくるが…。

 「うわああああっ、」と、患者を拘束していた看護師が腰を抜かす。男は片手で目あたりを押さえていた。 
 ストレッチャーからバッと起き上がったのは…青木透花。震える手でメスを持ちその血に染ったメスを…まるで恐る恐る自分の首に向ける光景…。

 バッドトリップのトリガーを引いたようだ。

「…っやめろ!」
「皆殺さないでごめんなさい僕が死にますやめてください殺さないでっ!」

 …こんなの…。

「イカれてんのかてめぇ、ああそうだてめぇをぶっ殺すんだよォ!」

 銃口を透花に向けた柏村に「柏村っ!」と間を詰める。

「てめぇ見てわかん」

 あ、と柏村がこちらと目が合ったと気付いた瞬間バンっ、と音が鳴った。
 利き腕に痛みと痺れ、そして銃が落ちる音がして…。

 だが目の前の光景の方が目まぐるしがった。

 柏村が新に気を向けた隙に透花はグッと…見ていてわかる、めり込むくらいに腕を掴み「てめっ、」と柏村が体勢を崩した。

「誰かお願いです悪いことはもうしません助けてください僕のような雌犬が口を効いてしまい大変不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありません」

 捲し立てるようにそう言ったかと思えば、持っていたメスで柏村の腕を2、3回か刺し、更には「うあぁああっ!」と自分の腕までも刺す錯乱ぶり。

「Rape me again! Mr.Efrem Mr.Andreas Mr.Jack Mr.Lee!In the name of justice,Dear Joan of Arc!」

 これは痛いとかほざいている場合じゃない。
 崩れ、「ぶっ殺してやるこのクソガキィ!」と半狂乱になる柏村を止めなければと、とにかく銃を左手に持ち直し「……こっちを向け柏村っ!」と更に間を詰める。

 柏村が透花からメスを奪った瞬間には…身体は動くものだ、反射神経で柏村を蹴り飛ばして馬乗り、数回殴っていた。

 しかしこちらも撃たれてはいる、不意を突かれ押し飛ばされたかと思えば、柏村は逃げるように奥へ走って行った。
 紀子がいるのか、もしや…。

「まっ、」

 逃げた柏村を見て、透花を見て、江崎を見る看護師には「死にたくなけりゃ失せやがれ、」と声を振り絞る。

「…そのガキに何をした、ジジイと女は」

 ハッとしたように、先程転がった注射器を見た看護師も…精神状態は末期だ。
 「殺さなきゃ、」と、柏村が落とした銃を取ろうとするのに…あぁ、体が重い、けれど。
 銃を蹴飛ばす。

「やってみろ、その前に殺してやる、」

 その捻り出した声が恐ろしく響いたようで「ひぃっ、」と停止した男の胸ぐらを掴み頭突きを…いくらこれしかなかったとはいえ失敗しただろこれぇ…と、よろけ、ギリギリな力でストレッチャーに凭れる。

 はぁはぁと過呼吸な透花に「大丈夫か…、」と声を掛けるが届いているかわからない。

「おいっ、しっかりしろ!」

 そんな最中。
 電話が鳴った。それにビクッとした透花の背を撫で止血を…と考えながら「……はい?」と出るが。
 震える手…しかし強く新の腕を掴み「いっ、」と声が漏れ、多摩が『会長……』と億したのが分かる。

 息を整え「大丈夫利き手じゃない方…」と頭が回ってないなと思いながら促す。

『唯三郎を裏口から救出しました。これから』

 …切った。
 取り敢えず今はこの、怯える天使に「ジイさんは、無事だ」と伝える。
 彼は一瞬素に戻り掴んだ手を離し「おじいちゃん…」と俯く。

 自分で這い降りようとしたらしい…重心が傾きベッドごと倒れるのに「危ね、」と咄嗟に庇った。
 背中に衝撃が走る。

 傷付いた透花の腕を止血しようとジャケットを脱いだが、過呼吸で脳に酸素が足りなくなったらしい、痙攣し始めたので仕方ないとそのジャケットを掛けてやり、腕部分を縛る。

 …もしもその、死にそうなジイさんの姿を目の前で見ていたとしたら。
 背をさすり「大丈夫だ」と言うのも辛いけど…。
 見上げてくる透花の涙を拭い「大丈夫だって……」と言えばふっと、また廃人のように下を向くばかりで。

 …こんな状況を良しとし…死んでもいいと考えてしまったのなら。

「……嘘かもしれねぇだろ、なぁ、しっかりしろ!」

 ドアが開きます。
 やっと来た、海江田と坂下だ。

 一瞬そちらを見た透花へ「戻って来い…!」ここがお前の現実だと突き付ける。

 …気絶していた偽看護師男が起きたらしい、さっさと奥へ逃げて行く。

「行けぇ!奥だ!」

 「…江崎さん!?」と駆け寄ろうとした海江田に「俺はいい!」と指示をする。
 海江田は坂下を見、振り切ったように奥へ走る。

 人が来ればどうも安心するものらしい、一気に腕の痛みを思い出す……これ最悪パターンだろあの薬中ゴリラ野郎…!抜けてねぇよ多分!

 だがまず「…青木透花っ!おいっ……お前のせいで誤射ったから深呼吸…しやがれっ!生きていいから…戻ってこい!」置いて行かない…行けないんだ。

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