無色透明色彩


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「…今回はマトリからの話だ、てっきり寒い…トクリュウネタでも掴まされたんかと思ってなぁ、しかも、ミンボーならヤクネタだ。ガラ躱しちまおうかと迷ってお前に張らせたんだが」
「…す、すません会長…」
「あぁ、ダセぇから用語使うなって何度も言わすな」
「ハイ…」
「で。話を戻す。
 柏村独断ならまだいいが…。海外マフィアが絡んでたら…と、まだ調べきれちゃいないが、だとしたらすぐに引こうと思ってるよ」
「…あぁ、なるほど…。
 中、どうも…女の声がするんですが…」
「柏村のイロだろうな。今、居留守キメ込んでるらしい」
「……ん?」
「状況がわからんが今…対象が病院送りになってるらしい。モグってるマトリが対象の身元を引受けて戻ってく」
「いやいや、今あそこ、女の声と一緒にジジイかなんか…殺られかけてますよ、多分!」
「…マジかぁ…。
 まぁ、なんとなくわかった。ご苦労さん。このまま帰っていいぞ」

 高田は「うぃっす」と言ったが、ふらっと団地の敷地内には入っていき、出る様子もない。

 逞しいもんだなと、指定の202への階段を登ろうとした時、一台の車が止まり、下でごちゃごちゃ始めたようだ。

 こりゃぁ依頼主登場かなと、その隙に202の前に来た。
 足音も響くくらいの築何年かわからんような、カメラが一台もない…最近表に出され“流行った”ように見えている闇バイトには絶好の場所だ。

 昔は総代も、こんな場所に押しかけてたよと、念の為チャイムを隠すように平良の手帳を押し付け「すんませーん、警察ですー」と202のチャイムを鳴らす。
 物音を隠そうともせず、チャイムのマイクをガチャっと切られる。

 下にいた、恐らく例のモグりだろう2人組のうち1人が、焦った様子で向かってきた。

 …平良の野郎、お仲間に知らせたんじゃねーのかよ。

 まぁ、これで公認だなと、新は遠慮なくチャイムを鳴らし「すみませーん、青木さんいらっしゃいますよねー」と更にチャイムを鳴らした。
 通報されればある意味…ラッキーなんだが、こういう場所の民度など程度が知れる。

 「ちょっと!」と若造…とは言っても平良と同じくらいか。なるほど、目立つタイプでもない素朴な男が、チャイムを押す新の腕を掴もうとした時、やっとドアのすぐ向こうから『はぁい!』と、女が返事をした。

 後から相棒が登場…いや、どうやら様子を伺っている。
 平良やこの素朴くんより少し…若そうだ、20代だったりしてな…目鼻立ちが良い…モグりに向いてなさそうな外見だが、振る舞いはモグりだな、こっちが。

 素朴んに「静かに」の合図を出せば表情がふっと変わった。多分、警察設定に乗ってくれたのだろう。

 ガシャッと音がし「なんなんですか!」と不意打ちのようにドアを開けた女に合わせ素朴んと、まるで阿吽の呼吸だ、ドアに当たらず「おっと」と退いた瞬間に素朴んが懐に入ってくる。

 やるなぁ、マトリ。
 やっと側に来たモグり(多分)くんに平良の手帳を見せれば暗黙の空気。
 
 見た詐欺ステマの写真と随分違うが、うんまぁ、こいつだ。
 広告の写真ですら思ったが、多分、これはヤッ打っている。
 香水や色々入り交じった匂い…隠しきれないんだよなぁ、このプラ臭さ…ローションもあるかな。
 これは身体に染み付いたものだ。
 ということは今、仕事の時間だろうけど、流れたんだろうな。

 こんな現場は、いくらでも見てきた。

 ついでに丁度、奥の部屋でベッドに拘束されている老人が見えた。タオルで口を塞がれているが、新に気付いたようで、アピールを兼ねもがき始めた。

 …絞殺しようとしたのか。随分と興奮気味だなぁ。
 三流以下だな、この女。柏村も教育が行き届いていないらしい。

 「斎藤氏の件もありまして、警備も強化体制な中通報を──」なるほど?素朴んはどうやら始めから“警察”設定で動いていたらしい。

 別件でサツも動いている可能性が拾えた。早く引かないとな…と考えていれば確かに、平良が言ったことと現状が繋がった。
 「…緊急車両からもこちらに……」…なるほどっ。

「息子さんが職場で倒れ」
「はぁ!?嘘吐かないでよ透花の職場から」
「誤通報なんですかね?」

 モグりくんがひょいっと顔を出し「いや、誤通報じゃないですが」と、さり気なくあたりを探っている。

 …ふーん。
 なるほど、隣人、ねぇ。

 ジイさんとは目が合っている。
 ふいっと小さく頷きつつタイミングを伺う。

 まず、この2人の位置からはどうやら死角だろうが、状況、雰囲気に危機感はあるようで、だがやはりモグ隣人は“守備派”で間違いはなかったようで。
 ガラケーを取り出し「いま向かいのボンネットで発見しましたが」…なるほど、ぶん投げられたのかな、物的証拠だ。救急車を呼び居留守を使われガラケーをボンネットで発見したとあれば、これで漸く現状証拠。

 わざとというかこの女は末期だ。中に入ればわからんな、家など凶器はたくさんある。
 なんせ老人を殺そうとしている現場はいま、目前だ。

 他に気配はないな…と新が推し図っている最中、モグ隣人は「ジイちゃん、俺だ、隣の!」と、突撃をかます勢い。

 あ、踏み込みまではOK…なのか?え?潜入段階なんじゃないの?

 まぁいいか、と、新は女の腕を掴んでドアに押さえつけ「器物破損より奥で縛られてる老人の方がヤバくねぇか、奥さん」と助言した。

「早く行け」

 おかげかはわからないがモグ隣人は無駄なく奥へ向かい、慣れたものだ、救出に時間は割いていない。

 ならばこちらはこちらの方式を貫こう。

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