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「殺人未遂の現行犯でも行けますが」
「できるもんなら、」
「やってやろうか?正攻法じゃねぇが」
こんなバカな女は多分、こっちが脅した方が早いぞ、若ぞ…あんまり、変わらないか、多分。
「おい若造、ガキとジイさんの貴重品と金品持ってこい、タンス預金とか!この女が飛ばねぇように!」
しかし末期がテンパると本気でうるさい。一回叩きつけてやろうかと「柏村隆太郎」と名前を出せば、ピタッと止まった。
マジか、一発ビンゴか。
「お前の男、流行りもんしか興味ねぇぞ?裁判だの助成金だの生保だのな。よーく知ってるはずだ。お前だけ助けてもらえると思うな?」
大体はこの後、どこかの道路が補強されるんだよ。お前は特に面、割れまくってるし。
海外に飛んで整形したとしても、帰って来れたら命拾いだ。
こんなのは最近よく聞く。そして昔から、末端の三下は獄中死にて司法解剖から帰って来ない。世の中の不条理が道理な世界なのだ。
少しの情報でこうも胸糞悪い筋立てが的中するとは…。
あぁ、気分が悪いな。義理はともかく品もない。アテ付けてきた相手がこれとは、まだまだ自分も小さいもんだ。
一通り終わり最後、女は老人にツバを吐きかけ「あんたが早く死なねーから悪ぃんだろが!」と言い放つ。
そんなことにしょんぼりする隣人くんに、若造だからなと、それから撤収まで新は極めて普通にしてやった。
こちらとしては合理的だ、露骨に。
気が向いた。
スッキリはしたいよなと、隣人くんのケータイを逆パカし「これがこっちの仕事」と見せつける。
これが、染まらない方法だよ。
マジョリティを全うする人間を無理に関わらせる必要はない。ああやって自ら、頭も使わず落ちてくる人間もどきを相手にする方が…楽でいい。
日陰と日向は考えずとも見え、わかる役目がある。
車に戻り、しかしアイツらは日向と呼べるのかとも考えたりしたが、慧が後部座席で寝転びながら…綺麗な瞳でこちらを見、何かを言おうとしてやめている。
まぁ、俺も同じようなもんだよなと「慧」と呼んだ。
「ん」
「ただ呼んだだけ」
「…嫌な仕事したんですか?」
何を思ったのか急に起き上がり「……頭重い…」と額をクシャッとする。
愛すべきアホ。非常にバカ。
そんな慧は赤信号でクシャッと、後ろから髪を撫でてくる。
「お疲れ様です」と言われる心地良さに「ん」と返しつつ「危ないから座って」と…照れ臭さにも慣れてきた。
髪から頬を撫でられ、あぁ、今日も一日平和な裏社会……などと考えた。
「慧」
「はい」
「……平良とは程々にな。多分…数日はよく会うことになりそうだが」
「はぁい」
「今回は少し胸糞悪そうだし、下手打てば火傷しそうだからさ」
「…うーん…」
「言ってあると思うが、俺に何かあれば多摩に言って…諸々さっと済ませて平良んとこに」
「新さん」
「何」
「明日忙しい?」
「多分明日から忙しい」
「2時間寝ればいけます?」
「……てめぇの酒癖はなんなんだよ」
「そんなくだらないこと言われたらついつい意地悪言いたくもなるでしょ?」
「…仕事による…多摩待ちな部分がありそうだよ」
「じゃあ?」
「まぁ俺も久々に滾ってる…いやぁ、あちらさんは見た目に反し熱い男だったよ。
…でも、AV見たあととか癪じゃねーの?お前」
「あー……。
なんというか、天使ちゃん」
「青木透花、が本名らしい。和名しかない」
「…天使ちゃんのは…可愛いけど…可愛いからこそなんだか切なかったと言うか…」
「最早別ジャンル感あると言うか」
「ですよね」
「……尚更やめとけ、フラッシュバックすんぞ。
平良には5寸釘刺しとくから。もう観んな気ぃ悪ぃ」
「はーい」
「…家帰ったらじゃあ…風呂入るか。俺今日半端なく疲れた」
とか言いつつその場の雰囲気は、その瞬間にならないとわからないけど。たまにこうして慧から言われると少し揺らぐのは…幸せだからだ。
ああは言っても平良に任せる気などない。ただの保険だ。
「……俺も案外、心底ではあの、会ったこともない子を…同情してんのかなぁ…」
「珍しい…」
「お前と一緒でなんだかな、少し自分の過去を思い出した気がする。考えたら少し似てるよなぁって。だとしたら同じ目線で“可哀想”なんて言って欲しくないし言いたくないっていうただの自己満だったりしてな」
「…それはすみませんでした」
「いや、別に。お前も同じようなもんだし。一人二人の話じゃねーのよ。
いーよ。2時間寝れば」
「…ふふふ…」
笑って後部座席に寝転んだ慧をおぶり、結局何事もなく布団で一緒に寝た。
酒臭くて背を向けたが、朝になればいつの間にか抱きつかれている。
あー、寝返りとかで潰さなくてよかったなと感じながらケータイに手を伸ばした。
金澤保奈美が一時補助金42万プラス中期50万円の申請報告をしたようです。
…アコギだなぁ。しかしそろそろこの女にも灸は必要だな。
並木はどうと?
既読。
流石にそろそろ切りたいようです。
…そうだろうな。
流石に3回も同じ手口でやれば良い加減、バレるだろう。
並木には、すぐに店の看板からその女を降ろしておくよう伝えてください。 既読
「朝の」と打っているうちにもぞもぞと、慧が起きた気配がしたので、社用ケータイを伏せる。
「…新さん?」と、寝ぼけたまま慧がぐっと抱きつく腕に力を入れたので抱き返し、そしてふと思い出した。
「誰がこの人を守るんですか」
初めて会った日。
慧はマトリの聴取室で、平良にそう言った。
まさか、20前半の貧弱そうなただのバンドマンに、そんなことを言われるなんて思っていなかった。
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