無色透明色彩


8


 こいつはバカなのかとか、そういう次元ではない、ただ普通に面食らった。

 だからこそすんなり、それがこいつの筋であり道徳なのかと、当たり前なのだろう陳腐な理屈が理解出来なかった。

 捨てられなくなった理由の一つだ。

 当時、平良はまだ新人だったが、それなりの市場であった「花咲組」の解体を企てていた。

 それがあって、今がある。

 新は「おはよう」と慧の頭をポンポンとし、起き上がった。

「…昨日飯炊き忘れたからパンでよろしい?」
 
 そう聞いたはいいが「ふん……」とまた寝ようとするのもいつもの風景の一部だが。
 どうやら慧は新の声色で気持ちを察するらしい、寝ぼけ眼でふいっとこちらを見、「お昼…自分で用意するからダイジョブ…」とだけは言ってくれる。

「あー、少しなんとなく…」

 多摩のメールを見て感じた。
 恐く柏村の件は「終了」としたいのだろう。

 …まあ、確かに?わからなくもないけど?

 多摩は新に忠実だが、当たり前に一人の人間だ。
 花咲組解体に絡ませてきた平良をよく思っていないのは重々理解出来る。こちらを弾の一発としか見ていないのが気に食わないのは一緒。

 本来ならば真っ当な敵だ。ギャンブラー気質の相当なクセ者だが、今のところ損はしていない。

 今回の博打は確かに、どこがハジかれるかわからないが…事実としてアテ付けてきた相手ではある。
 いずれぶつかる可能性は充分あったからこそ…皮肉にもまた、利害が一致してしまっているのは計算なのか、なんなのか…。

 台所に立ち、軽めの物…今日は体力を使う気がするし、慧も昼飯と言うなら…と冷蔵庫から野菜炒めの用意を取り出し、多摩へのメールを考える。

朝礼で
 
 …考える。

平良の件含め、朝礼で情報を共有したい。

 既読。

どうあっても、一度動いたからには報告。それだけでもいい。 既読

 野菜を切り、肉を入れたあたりでケータイが1度振動し、火をかけ肉を避けたあたりでまた振動する。

 ……これは多分長文だし、朝礼持ち越しより事前情報、と考えたな…あとで読むか…どうせ迎えに来るわけだし。

 …野菜炒めとパンって、変じゃね?関西人ですら多分やらない…。

 しかし作ってしまったしな、と、慧のことを考え…慧には飯を炊けばいいかと、この謎の組み合わせを受け入れ味噌汁を追加することにした。

 豆腐とワカメと…と、急遽決めた朝食を作ろうとした最中、寝室から「…おはようございます」と慧が起きてきた。

「おはよう」

 はぁ〜、と気の抜ける欠伸をしながらふっと、米を研ぎ始めるので「あー、炊いとこうかと…」と言ったがその前に、寝ぼけている。

 …こだわりはないが最近どこからか覚えた「ザルの上で泡立て器を使う」と言う雑時短米洗いを始めたので「んー…」と手が止まる。

「…それ…米傷つきそうなんだって」
「俺の分だけだし…」

 味噌汁を見て「…あ、新さんも食べます…?」と寝ぼけている。

「いや米炊く時間は流石に」

 豆腐が手に乗る状況下で包丁を持つ手をすっと握ってきたので「危ない、危ねぇから!」と言えば、寝ぼけて湿った…綺麗な目で見つめてくる。

 それ、やられると鈍るんだよな…だなんて、ついつい溜め息が出るけど。

 「…やな夢でも見た?」と聞けば「新さんは優しいなぁ、」とニッコリする。

「そんなことより昨日の夜は?」
「寝てたじゃん、お前」
「ま〜ぁね〜、」

 洗い終わったのかなんなのかわからないままの米を炊飯器にぶち込んだ慧は「あ」と、どうやら台の上にあったケータイを目にしたらしい。

 保温状態で電源が入った炊飯器。それでやらかされたことがあると、「炊飯!取り消して炊飯して!」と指示をする。

 従った慧は「なんかタマさんの通知が多分大変ですよ」と、後ろから軽く抱きついてくる。

 …だから、包丁持ってんだってば…と豆腐もネギも入れつつ「…慧、なんか怒ってね?」と直で聞いておく。

「違う」
「……ちょっと忙しくはなるけどごめんて!」
「暫く別の、しかも、元カ…元何かを頼れとか新さんどういう神経してんの」
「………っだよなぁ!お前なんで昨日アレに呼ばれてんだか意味不明だから、文句言おうと思ったのになぁなぁにしたのはお前だかんな!」
「厚労省に抗議しようかな」
「……随分逞しくなったよなお前。
 あー最後ついでに昨日!文句言ったから!」

 …まぁ、空気作りもあった。昨日のカオスカチコミ?の、引き上げで。

 「その人関係ある?」という意外と真っ当な意見に「ない。けど雰囲気が葬式だったから」と…慧にも釘を刺した。

「…まぁいいや、タマさんに搾られてね。新着3件だってさ」
「………あぁ、マジで行きたくねーな仕事…辞めようかな、医者にも久々行くか…」
「暫く俺がATMになれるように…売り込みとかし」
「それは自分でやんなさい…ちゃんと実力で!意外と入ってんじゃん、客」
「あ!知ってるんだ!ヤダ嬉しい!
 そうそうツーマン…最近ワンマンでも来てくれるようになったの!」

 振り向きガシガシと頭を撫で、あ、豆腐の手だった、と気付いたがシラを切り「互いに今日は今日とて頑張」まで言い、雰囲気を変えようとしたのにやはり「頭に豆腐!」と怒られた。

「…ごめん」
「…行く前に風呂に入ろう…また寝ますね」

 …いつもこうしてさり気なく…鬱々としたところを取ってくれるから、あながちやる気も出るもんだが…「いや待てその豆腐頭で寝るな!」と忙しい。

 けれどまぁ、健全。
 本当に構わず寝に行ってしまった。多分、酒を飲みすぎて変に眠剤が作用したのだろう…。

 家を出る際、「枕カバーは洗って頂きたい」と、冷蔵庫のボードに書いておいた。

- 8 -

*前次#


ページ: