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「そんで、このラットが」
カゴが4つ用意されていた。
右から、身体が傷付きまくっているネズミが2匹…7日目とある。
次に、そのラット目掛け何度もカゴに頭突きをするネズミが1匹…これは凶暴性あり、なのか……?5日目。
その次がピタッと重なっては動き追いかけてはすぐにピタッと重なる…生存本能なんだろうか…あ、よく見たらどちらも耳が欠けたり手が欠けたり血まみれだ…カマキリ原理?4日目。
1番手前は落ち着きがなく挙動不審にカゴの中を歩き回るやつと…仕切りがあり…奥には死んだような…いや、怯えているのか?ぶるぶると大人しいやつが各1匹ずつ。2日目。
「ハシダの贈り物の結果だ」
「まだMRでもMSでもないんだが?」
「平良さん静かにしてください」
嫌味を言う平良にデジカメを渡し、安慈はスマホで動画を撮り始める。
一通りパッとネズミを撮り「これは露骨にハイかローか…」とオリバーに説明を求めた。
「定点カメラで見たらどれも、全く寝てないと思う」
「あ、この4日目のネズミの精子採取は…」
「した。不規則だが元気に大量に泳いでいたよ」
「5日目のは1匹…?」
「死んだ」
「なるほど…7日目のこっち、は生きてます?」
「いまから見せるが…」
オリバーはふと手袋をしまず、霧吹きに布をあてシュッと一吹き。それから大人しい方を取り出し、布を被せる。
平良が「汚いなネズミ!」と言うが確かに。
なるほど…痙攣やらなんやら…汚いし消化器系なのかなんなのか…。
もう1匹も傷だらけだが、それどころではない、という勢いでひたすら床材を食っては吐いている。
ネズミを交換し、また“何か”を吸わせ置いて観察する。
……痙攣していたネズミは更に痙攣し、挙動不審な方はピタっと動きを止めてしまった。
「……ナニコレ」
「研究するまでもなかった素人モノだった」
「え、全然わかりません」
「そろそろな季節だ、頭の医者は間違えやすい…ナメられたものだ、さっき吸わせたのは点鼻薬だ」
「……あ、処方の注意喚起は出してますね。癲癇受診歴がある患者を対象に」
「そもそも2日目〜5日目を見ろ。
これはアドレナリンがベンゾジアゼピンと共に」
「……え」
「貰ったの調べましたが、こっちはドパミンだった…合理的なようでいて…下手すりゃこうなる、と」
「ああ。脳神経科でもアレルギー薬と一緒に処方は出来るが、一般的にアレルギーはアレルギー科か皮膚科の受診を勧める」
「………7日目のネズミ、多分メンタルは治…あれ、くるくる始めた…」
「…これで外来をアレルギー科に投げられると今度は抗ヒスタミンを処方される可能性がある、と…」
「わかったかセーイチ。これもお上に上げとけ。
儲かるには儲かるが未来が明るくない。サトイはまだ、風邪薬禁止令を出しているからいいけど、少し見えたかセーイチ」
「…まぁ、あんたに任せればいいんでこんなことで呼んだわけじゃないですよね」
「そう。ハシダ」
オリバーはゴム手袋を捨て、タバコを吸い始めた。
「…腎不全やらパーキンソンを起こしそーなもん寄越してきましたね」
「オマエらに渡したのはドパミンなんだな?何個かバラ蒔いてそうだなあのMS…」
「それなんですが、一人なんですか?」
「んー…看護師に聞けばわか」
「置いといてもらってるだけだろ」
「うるさいなセーイチ」
……なんだかんだ確かに、安慈にも平良にも身近だ…なるほど、それでこの人選なのか。
「世の中マッドサイエンティストはいるものだな」
「いやあんたには言われたくないだろうがなるほど……。
アドレナリンなら薬機法に引っ掛けられるがドパミンは微妙だな…」
「そうそう、ドパミンの方…アンジに渡したやつか新人に渡したやつかわからないが一個返し」
「また違う成分かもしれませんよ?わざわざ種類を変えてるなら」
「じゃ持ってこい。オマエらマクラ?だろ?」
「…覚えたてなんすかそれ…潜入は、しますけど…」
「一人が一般人なんで面接受かってくんなきゃ困るというか」
「……オマエらはコネクション?」
「うーん…企業秘密。ちょっと違う、とだけ」
「…ケチくさいな日本人は。すぐケンゲンで逃げる」
「ご了承くださいよ。
あとは先生がそのMSをピックアップしてくれると助かりますけどね。しかし…引っ張れるかどうか微妙ではある、とだけ。…アドレナリンかドパミンか…更にどの工程で使われるか、そもそも使う前提なのかってのもなぁ…」
初動にしては情報が多くて助かるが…。
オリバーがふと「アドレノクロム…」と呟いた。
ふっと平良が2日目のネズミを見、それから「いやあんたまでそんな都市伝説を?」と言いつつ見てくる。
いや、何。なんで?
「そういえばアンジ、ユリシスに会ったぞ」
「脳波が変わったって言ってた、あれですか?え?会ったって?」
「タダが死ぬ前日…当日と言うべきか?その日の夕飯時にな」
「あー、それでアドレノクロムか」
「………指切り幻覚レイプの?あれが?まぁ、有り得なくはなさそうだけど…」
「まだ人格形成に至っていなかったかもしんないけど」
「…ちなみにどんな人格でした?」
「育ちが良さそう。おフランス」
「全然為にならないんでわからないっす」
「彼は苦痛を司ってる…自覚、多分あった。だがほとんどトウカっぽい人格だった」
「ん〜〜都市伝説?」
「かもしれないな」
何故かオリバーは少し嬉しそうに笑った。
皆目謎だが…まぁ、この人が言うなら何かあるのだろう…か?
「…注意深く見てみます。
あ、明日来るんでネズミはしまってくださいね」
「リョーカイ」
診察室を出てどっと疲れた気がしたが更に、目の前の椅子に座る青年が「うぃっす。ここっすね」と馴れ馴れしい態度…これは一体誰?
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