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…いやこの低めの声、覚えがある…。
「波瀬か!?」
青年はビシッとリクルートスーツを決め、あの白髪も目も真っ黒になっていた。
グイッとウィッグを外し「あー痛ぇ…」と白髪に、カラコンかと思っていたあの薄い目に指を当て、コンタクト入れにしまう様。
「あ、ごめん…自前ってか自目だったんだ…よく見てなかった…」
悪いことをしたなと謝るが、「いや普段も髪の色に合わせてますけどね、灰色に」とほざく。何それカラコン変えただけかよ。
「自目ってなんすか初めて聞いたわ…」
「…なんて言っていいかわかんなかったけどなんだ、慣れてんのね…」
「髪染めとけよ若干浮いてたし」
「じゃー月曜からスプレーします。ここまで脱色すっと難しいですから、金もったいねーし。つまり受かりましたから」
「あ、マジか」
「おめでと…う?MS」
「暫く店閉めなんで金貰いますからねマジで。
で、ここ?その優秀な医者がいるの」
「そー。イカレ闇医者ここにいる」
「……なんとなーく聞こえてきた感じで察した」
「いつからいたの」
「アドレノクロムあたり」
「ほぼいないね。行くとい」
「いやー、抜けましたよ天使ちゃん。ヤベーっすねあれ、合法じゃなかった感じ?」
…4日目のネズミかよと「その単語禁止だからマジで」と声を低くする。
「あの汁男確かに最近見ないわ、VIPルームのあれ、ぜってぇなんかキメてたよね、特に乱入しちゃったカメラマン」
「…俺見てねぇんだわ、捜査資料以外」
パワーワード多すぎなんだが、汁男とかVIPルームとか。
「え?マジっすか?てかあれ未成年だったんじゃね?
あの男優が水揚げしたんすかね?いやー予想以上にドエロでドストライクでしたごちそーさんです」
「………波瀬くん、君今からそこ。イカレ闇医者の部屋に行け。ドエロいの見れっから、マジで」
ネズミだけどな。
「え?怒ってます?」
「ノンデリだもんお前。流石に俺すら捜査資料で引いたぞあの子…お前よく人の事ドSっつったよな。新アカの過去ログ?」
「あんたもそこは聞くなよ全く。透花に会わせないリストインね、二人とも」
「いや、お前は知っといた方がいいかと思って敢えて聞いてやったんだが?」
「いーから聞きたくねーからなんの気遣い?家でどんな顔すりゃいいんだかわかんなくなるから、それ」
「波瀬はほら、早く行ってこい。挨拶ミスんなよ、ヒ素ぶっ込まれっから」
「んなわけねーっしょ。ダイジョブ俺愛嬌あるから」
どこがだよ。
突っ込む前に波瀬は素直に部屋へ入って行き「はじめまして、こんにちは」と、案外普通に挨拶しているのは聞き取れた。
「……優秀な人ってやっぱどっか変態説」
「確かにそれは言える。都市伝説じゃないやつな」
「いやあんたも含めて言ってますけど。
…来週とか言ってました?あいつ…対象絞るまで着いて回ることになるんかな……」
「多分あいつ、海江田はタイプじゃないと思うぞ?アレは確かに面食いだが、カワイイ系が」
「違ぇんすよねそーゆー心境じゃないんすよねわかるっしょ、なんの話してんだよ始終」
あんたもノンデリだし4日目のネズミだわ、全く。
「つっても仕方ねーだろ降りるか?ん?」
「…仕事なんでね、やりますよ、食い扶持も増えたし出世したし」
「…あの子のこともさぁ、」
ふっと、平良の声色が真面目になる。
「…仕方ねーしそれ覚悟じゃねーの?
まぁ、気持ちはわかる気はする。俺もやらかしたからね」
「…サトイくんですか?」
「そうだよ。お前はまだいいよ、取り返しつかないことをしたわけじゃないし…。俺たちはその後悔の先があったとしても、まだ…相手生きてんだから」
…それは現仮面妻の話だろうか。
「…まぁ、確かに。言うて俺も透花のジイちゃん」
「はいはい。似た者同士だな。ちなみに俺はサトイに関しては別に誰も死んでない」
「……やっぱあんたもノンデリだわ…似てるのは状況だけ」
「…じゃー今日だけ言っといてやるよ。お前、ユリシス事件はよくやったと思う。俺ならどうなったかわからないな。
江崎に言われたんだよね。犬とハイエナならハイエナの方が強いってさ」
……なるほど。
同じ職場で3年目、あまり被りはしなかったからか気付かなかったな、この人実は凄くヘタクソなのかも。
「……サトイくんも大変だったんだろうな…」
「あぁ!?」
「なんでもないでーす。俺は先人の背中を眺めて生きようかなって思いました、まる」
「…すっげー腹立つ気がするんだが」
「褒めて…は、いませんが、まぁなんかヒントにはなったかも。ありがとうございますね。これは嫌味なく」
「やっぱ嫌味かよ!」と言う平良に「はいはい」と病院を出る。
まぁ、これはこれで悪い気ばかりではない。仕事と私生活の両立という見方になれば、視野が変わる。自分は確かに一人で走り過ぎていた。
まるで、生き急ぐように。
「書類作って定時であがりますから。今日は坂下先輩にお呼ばれしてて透花がも〜嬉しそうだったんで。行く前に鉄板買わなきゃ」
「鉄板?」
「タコパです。初めてらしいんですよね、たこ焼き」
「え、あの子がたこ焼き初ってこと?」
「平良さんも来ま…あ、やめよ。坂下先輩に聞いてないし」
「別にいーわ。
でもいいな。ウチはタコパは規制線もんだぞ」
「学くん小さいですもんね。
ま、いつかね、いつか。透花は学くん、気に入ったみたいで」
「ウチも」
優しそうに笑う平良に驚いた。鉄壁の犬だと思っていたのに。
…今の方が、幸せなのかもな、実は。
入り立ての頃の平良は、今思えば余裕とか、無かったのかもしれない。
人付き合いはタイミングによる。サトイくんも今やこの人にとって、スパイスなのかもしれない。
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