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家に帰ると、透花は洗濯カゴをソファベッドの側に置いたまま眠っていた。
多分、途中で夕飯のメールを入れたから、注意力散漫にでもなったのだろう…現に、枕元にケータイがあった。
…純真無垢とはこれだろうな…。寝顔でも綺麗…と、ついつい頬に触れはっと、飲み物を用意しようと思い立つ。
安慈がコップに経口補水液を用意していれば「んー……」と透花が起きた。
「ただいま。いまそっちにスポドリ置くからまだ寝」転がってて、の前にガバッと起きてしまったらしい、どうやら頭がじんじんしたようだ。
「おかえりなさい……」の声色は低血圧。
「あ、すみませんありがとうございます…」
ぼんやりしながらも「家事をこなさねば」精神があるらしい、飲み物よりも先に洗濯物へ手を伸ばすので「いや先にほら、飲んで」と言いながら、安慈も洗濯物を畳むことにする。
あれから案の定、このソファベッドは透花の寝床になった。
こうしてふと、ぱたりと寝てしまうことがある…となれば確かに…別部屋だと心配はあったかもしれない。
「いつ寝ちゃったんだっけ…」
「まだ明るいし…そんなに経ってないんじゃない?」
「…暖かいうちでよかった…」
とは言っても二人の生活だ、それほど洗い物もなく…。
透花なんて、旅行鞄ひとつとダンボール1箱程度でここに来たわけで…。
「そういえば」
言ってみてから話題が三つほど浮かんだが、優先順位として「何か夢見た?」と聞いてみる。
「あ、見てた気がする…ベランダに洗濯物を干す…」
はっと透花は洗濯カゴを眺め「あれ、干してなかったりして…!」と慌ててみたりしている。
「いや〜、なんとな〜くこれ、干した後の匂いするから大丈夫だと思う。
まぁあるよね、そういうリアル夢」
少しボーッとしたような日だったのかもしれない。
それはそれでいい事だが…レム過ぎ睡眠なのかもな…。まだ、それほどこの生活に慣れているはずはないし。
「俺のメールで一瞬気が散っちゃったのかな」
「あ!そうでしたそうでした!あの…買い物って…」
「俺もよくわからなくて奥さんに聞いたら、あっちで材料用意してくれるってさ。
丁度いいし、たこ焼き器ついでに皿とか見る?明日の予定だったけど…もし元気なら」
「そうなんですね。
僕は…寝たお陰かとても元気ですが…明日の方がゆっくり出来ますかね?」
「確かに。さらっと眺める、くらいにしとくか。
そうだ、あとはなんか飲み物も買って行こう。
俺タバコ吸って着替えるから、ゆっくり準備してね」
ゆっくり、を強調した。
出会った頃の透花の日常にあまり休みがなかったせいか…脱ぎながら着る、という得意技がある。タバコを吸うというのが申し訳なくなってしまうほど準備が早い。
時間帯もあるし早く行きたいには行きたいけれど、というか先輩は何故こちらをたこ焼き器担当にしたんだろう…あの雰囲気、持っていそうだったんだけどな…。
ベランダの灰皿にタバコを捨て、「研究室に出入りしている学生風味」よりもう少し着慣れたやつにしよ…とアウターを変える。
今脱いだベージュの謎丈カーディガンを眺め、俺は何故襟とフードを間違えたんだ、これは多分自分よりも透花の方が似合いそうだな、と透花を眺める。
あっ。出た、シャツにカーディガンスタイル。あ、合うかもと「良ければこれあげる」と言った。
「え?」
「ここから秋も本腰入るから着られる…と思う…俺と身長差」
…あるかも。
「うーん」と着せてみればなるほど!自分では謎丈だったのが袖…不自然だな、折ったら丁度いいかも…裾は…まぁよくいるこの「ミニスカ」みたいな裾の人。奇跡だいけた!
「合わせやすそうだし、気に入ったらでいいんだけど…似合ってる…フード可愛いわ」
「え!本当にくれるんですか!?」
「うん。少ししか着ないから。
潜入用に買ったんだけど、俺はなんというか…普段着としてはどーなんだ?こんなに若くないよな、と…」
「似合ってましたよ?」
「まぁ、どっちでもいいんだけど…」
「ありがとうございます、貰っちゃいます。
あ、行きますか?」
「あ、奥さんから通知来てた……えっと…。
揚げ玉か…」
「あげだま…」
…この子、いままで何食って生きてきたんだろう…。
「…透花、例えば好きな食べ物って何?」
「…春菊天そば?」
…意外と古風っ!
「じゃあ丁度いいな、春菊天の衣、あれが…余って出来るやつ」
「余っちゃうんですか?」
「うーん。まぁ、余らないように作ってみたやつと言うかなんと言うか…。
世界で見ても、日本は食品ロスがワーストワンらしい、衛生的なんだろうけどさ…。飲食店とかでは、賞…」
透花の頭に「?」が浮かんで徐々に濃くなっていくのが見てわかった。
「…この期限内に食べなきゃいけない!てのが消費期限。
まだ食べられるけど、この期限を過ぎたら美味しくない!てのが賞味期限。
お弁当20円引きとか…賞味期限で捨てる場合も多い。気にしない人も多い方の期限なんだけどねー…」
「あ、あれってそういう…」
やはり、な反応。
「…この概念は日本以外ではあまり通用しないんだけど…あ、英語は出来たよね」
指で「ちょっと」とやる仕草が少し可愛らしい。
検索してみる。
「expire…うーん、あ、use by date…」
「なんとなくわかりました、本当に食べたらヤバいやつと、ヤバくはないけどヤバいかもしれない、みたいな?」
「…そう!まぁ、自分で作ると」
「まるで僕がしたことだ」
…詰まりそうになったが「違うよ、近いけど」と言っておく。
「前科も前歴も付かなかったでしょ?
これだって中身だって、知らなかったら及第点として教わればいいんだし」
「教わるから、ここにいる…」
「それは違うけど、まぁ…間違っても…いない、な。ただ言っとく、俺の意思も強くあるんだ……ごめんね」
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