無色透明色彩


6


 エゴ、それを押し付けているならと…こうなってみて、当たり前にそれも考えた。
 再び籠の中…押入れにぶち込んでしまったのではないか、と。

「謝るのは違います、」
「……ありがとう、か…。
 先生も言ったと思うけど、自分を責めても意味がない。それよりも、どんな方法で人と生きていくか、それを考えた方が有益だ。人には恨みもあれば、愛もある」

 頭をぽんぽんとすれば透花は俯き「…よくわからないことがたくさんある…」と言う。

「でも、」

 ハッキリと合った碧眼はまたふっと逃げ「…わからない、かも」と言った。

「恨みも、愛も」
「いいんだよ。ゆっくり培うものだから」
「アンジさんにもあるんですよね、きっと」
「……偉そうなこと言ったけど、俺も探し中かな。嫌いなことや好きな事はわかるんだけど…」
「…アンジさんには…僕は…」

 言葉を詰まらせる物言い。この子は、なかなか複雑に物事を考えるらしい。
 ここに来る前は、ロボットじみていた気がするのに。

「さて、行こうか」

 時間も時間だと、家を出る。
 答えていないなと「嫌いや憎しみ、とにかく負の感情はないのは確かだよ」と答える。

「透花はどう?」
「…僕もです」
「そうか、嫌われたりしてなくてよかった」
「そんなこと絶対にない、と思ってます」

 そこはハッキリ伝えてくれたので「俺も」と答えておく。

「まだまだ、家族と言うには…俺は家族ってものもイマイチわからないから、透花の方がきっと感受性もあってさ、」
「家族……いなかった、んですか…?」

 遠慮がちに聞いてくる透花に「いや、いるんだけど…」と…なかなか、言葉は難しい。

「親父やお袋の概念が父と母なのかとか…よくわかんないんだよね。ばあちゃんに育てられたし。
 いい人だったのは確か。ばあちゃんが少し教育にうるせぇ人でね。途中から強制的にばあちゃんっ子」
「そうなんだ…」
「まぁ、不便はなかったし贅沢な話だよな。だからこそ…透花の方が慈愛に満ちているな、と思ってる。羨ましいくらいに」

 だからきっと、自分にはこの気持ちをわかってあげられないと思う。
 溢れて零れるほどの激情…人格を別に作るほどの。自分でなくても、なかなかある例ではないし。

「言えることは…透花は俺が会ってきた中で、結構良い人、てことかな」
「……そんなことは、なくて、」
「あ、俺の感想だから。あんま気にせず否定しないで」
「…わかりました」
「ちなみに透花から見た俺は?」
「優しくてかっこいい人」
「………あ、感想か。否定しないでおく…ありがと。
 嫌なことじゃなくても…良いこともさ、是非聞きたい」
「はい」

 雑貨屋でたこ焼き器を買い、坂下の家に向かう。
 …たくさんの雑貨に興味を示してはいたが時間も微妙だったので「もう1回じっくり来よう」と約束をした。

『あ、やっと来た海江田くん』

 ピンポンを押すと、坂下妻の声がした。
 すぐにバタバタっと音がして、ドアが開く。

 坂下長男(小学生3年生)と坂下長女(小学6年生)と坂下が「おー、いらっしゃい」と出迎えてくれた。

「あ!カイエダさんだ!」
「あ!外国人さんだ!」
「すごーい!」

 やんちゃ盛りの二人に、透花は「はじめまして、お邪魔します」とにこやかに対応していた。

「コラコラユウキ、チサト。まずは挨拶」

 長男、ユウキは照れるお年頃。長女チサトは元気に「坂下千聖です!」と名乗る。
 確か…坂下家は生まれるまで性別を聞かない派で、どちらでもいいように名前を付けたと聞いた。

「青木透花です」

 名乗った名前に「え!」だの「ん!?」だの驚いている。

「久しぶり、夕希くん、千聖ちゃん。実は日本人なんだよ」
「えー!そうなの!?」
「まぁまぁまぁ。お母さんが台所にいるから、手伝ってな?
 透花ちゃん、退院おめでとう。少しぶりだね。
 ウチの妻が一緒に作ろうって待ってるんだ。うるさいけど、一緒にいいかな?」
「あ、はい!」

 坂下はパッと安慈を見、「透花ちゃん、良い感じで肉ついたね〜」と言った。

「えっ、嘘っ」
「年相応というか、痩せすぎ感あったからさ。安心した。海江田一人暮らし長いからそーゆーとこ疎いんじゃないかと思ってたんだよ」
「病院のおかげもありますが…自炊率増えました」
「みたいだな。よかったよかった」
「まぁ、やって貰っちゃってる部分が多いですけどね」
「お前にとっても良かったよな。健康第一。どーだ?人に飯作んの割といいだろ?」
「ですねぇ…先輩の愛妻弁当の意味がわかりましたよ。透花、炊事洗濯掃除がマジで完璧で…」
「いや、いやいや!僕そんなに」
「まま、入って入って」

 ペコリと頭を下げ「お邪魔します」と再度言う透花を見て坂下は「彼シャツっぽさすげぇな海江田」と振ってくる。

「……やっぱりそう来ましたか…」
「萌え袖じゃん」
「いやぁ、潜入用に買った服なんですが俺にはちょっと似合わないなと思ったんで…似合ってません?」
「うん。で、お前があれを着ている想像も出来な……いや、今もお前っぽくなくてなんだお前、大学にでも入ったんか?」
「仕事帰りです」
「わかってるわかってる」
「30過ぎて大学生っぽさを求められるとか思ってなかった…」
「俺は最近、研究室の人やってるよ」
「似てるっ、近況!」

 坂下は先月から、近くの部署へ異動した。
 近況が似ているということは…現場が被る可能性は無きにしも非ずだ。

 リビングでは、坂下妻が「いらっしゃい〜」と、材料を出して待っていた。

「お久しぶりです。
 あ、お菓子買ってくれば良かったな…」

 途中までは覚えていたんだが…スーパやら雑貨屋に行っているうちに忘れてしまっていた…。

「ビールでもよかったよ?」
「すっかり…途中から抜け落ち」
「冗談冗談!相変わらず良い男ね」

 謎の対応に取り敢えず…とたこ焼き器と揚げ玉を渡す。

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