無色透明色彩


7


「すっかり忘れちゃってさー」
「いえいえ、むしろ材料費少ないんじゃないかって…おいくら」
「海江田くん、そこんとこいい男じゃな〜い!いいのいいの。楽しも?
 透花ちゃん、夕希、千聖。では今から作りまーす」

 さり気なくビールを二本渡してくれた坂下妻に「ありがとうございます」と礼をし、坂下と共にリビングの椅子に座った。

 ビールを開け乾杯をすると、透花がたこ焼き器と油を置きに来てまた戻る。

「慣れてきた?」
「いやー、まだ1週間くらいなんで…」
「ま、そっか。平良とはどーよ?」
「……平良さん、結婚してたんすね…」

 間が産まれ坂下が「へ!?」という声…背後では「わー、手が赤い〜」と、千聖の声がする。
 「透花ちゃんは粉と卵を」と聞こえる中「驚きですよね」と坂下に返す。

「え、マジな話?」
「お子さんもいらっしゃいまして丁度…小学…何年生くらいだろ…それくらいの。奥さんの連れ子らしいです」
「マージーかー…え、アイツ、社宅じゃないけど近いよな」
「ですねぇ…」
「会ってたりして…学区とか…」
「去年結婚したらしいです。奥さんが良い人なんでしょう、お子さん、めちゃくちゃ良い子でした」
「…そーだったのかー…でもあんま帰ってなかったよな…」
「んー…喧嘩とか頻繁にするんでしょうかね…?」

 複雑そうだったし。

「いやぁなんか衝撃…あいつが子育て?マジで想像出来ない…」

 「あれー?八本じゃなーい」と夕希の声が聞こえる最中、「あれっ、透花ちゃんってタコ食べて良い感じ?」と言うのも聞こえた。

「あー、カナ。多分今時はその概念ないと思う」
「そうなの?」
「あ、はい。食べたことあります。タコキュウとか」
「…意外と渋い…」
「おじい様に育てられたと言っても過言ではないので…ほとんど日本にいますし」
「なるほど…」

 子供たちは「英語喋れる?」とか「どこから来たの?」と言っているが「合ってるかわからないけど少し…。フランスだって言われたよ」と普通に答えている。

「…結構普通にやれてるな。透花ちゃん、順応能力高いもんなぁ」
「部屋もあったんですが、来た初日からリビングで暮らしてます」
「…猫型ロボットが進化してる…!」
「普段ジイさんと同じ空間に暮らしていたもんだから、落ち着かないらしいです。俺、リビング横使ってるんで」
「お前あんな狭いスペース使ってんの!?」
「言うてダブルベッドは入るじゃないですか。セミダブル使ってますし、あと机くらいは置けますよ」
「…うちは専らクローゼットだわそこ…そのうち夕希と千聖それぞれになるけど…2LDKだっけ、お前んとこ」
「はい」

 こそっと「透花の第二人格が一度、現れたらしいです」と言っておく。

「あ、そーなんだ」
「脳波的には。医者の話し方的に…消えた、という瞬間が多分あったんだろうとは思いましたが」
「そっかそっか」

 そんな世間話の最中、透花と千聖が皿とたこ焼きの種を持ってくる。
 「よーし、焼くぞー」と坂下が液とタコを入れてゆく。
 くるくると回す調理法に「凄い、面白い…」と、透花は興味を持ったようだ。

「トーカは初めてなのー?」
「うん」
「面白いよねたこ焼き〜」
「そうだね…不思議…初めて見た」
「美味しいんだよー」

 千聖と話す最中、どうも夕希は「こんなのよくあるじゃん!」とか…なんというか男の子のヤキモチっぽさも少しあるのが微笑ましいが、「トーカの国にはないんだー」と延長線上で言った内容に坂下が少し制していた。

「いえいえ、気にしないでください」

 これはよく聞く「好きな子に意地悪しちゃうやつ」なのかなぁ…と思ったりもした。
 タコパを終え帰り際に「またな!」と照れていたので、多分そう。

「どうだった?」

「楽しいですよね、こういうの。施設以来です、みんなでご飯」
「少し見たんだけど、お母さんのSNS。結構皆仲良さそうだったね」
「はい。仲良かったですよ。最初は慣れないで…て子もいましたけど、いつの間にか仲良くなってて」
「…透花にとっても、良い場所だった?」
「はい。けど…」

 少し俯いた透花は「アンジさん話、わかる気がします」と呟くように言う。

「僕実は…施設の子がたまに泣いている理由とか、喜んでいる理由…親絡みの一切合切がわかってあげられてなくて。皆可哀想って空気が出来ているから触れない、そこに違和感を感じていたかも…」
「…そっか」
「そういうものなんだっていう肌感もイマイチ…。
 だから僕は人を傷付けても気付けていなかったのかな、と最近考えています」
「気付いたことについて考える、まで至る人は案外少ないと思う。だから“そういうもの”だっていう空気が出来るんだし」
「うーん」
「大切なことだと思うよ、それ。
 考えても一人の結果にしかならないものだとしても。だからこそ周りの人にこうして話したり…交流すると視野も拓けるでしょ?」
「…確かに。
 僕、夕希くんに何かしちゃったかなぁ」
「あー」

 本当に敏感だ。
 鈍感ままここまで来たのかと測りかねていたから、少しだけ安心する、ような。

「あれは多分…敵意じゃないやつ…寧ろ逆かも」
「逆?」
「構って欲しかったんじゃないかな。男の子あるある」
「そうなんですか…」
「成長過程だよ、きっと…。
 とは言ってもなんとなく…くらいで自分はそうじゃなかったからなぁ…ていうかね。
 愛やら恋やらのそういうやつ。オリバー先生には“デリケートなやつ”て言われた」
「…そうなんだ」
「こんな話を、もっとしていきたいね」

 透花はふと「…わかったかもしれない」と呟き「話していきたいですね」とハッキリ言った。

 綺麗な青い目。
 そういえば海の青は、空の色の反射説があるんだよなと「うん」と答えた。

 人は、自分を映す鏡。心理学では「ミラー効果」という。
 そんな関係性になるのだとしたら、自分だってもっと、まずは自分自身を考えてみないとなと、ふと夜空を見る。

 都会では、綺麗な星空が見えない。
 「あとでプラネタリウム行こうか」と自然な言葉が出ていた。

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