無色透明色彩


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「目新しい製品の良さを伝えきれればと思いますよ」
「べんきょーになりますね。流石メディカル・リプレゼンタティブ」
「長谷川、ちょっと失礼だぞ」
「あ、スマセン…」
「いや?新人さんの意見はこちらとしても貴重です。これから更に市場を増やす予定ですし、流石にここも院外…まぁ院内ではあるんですが。新しい製品を求めるはずです。
 ポジティブに、しかし正確にメリットデメリットが伝われば問題ありません。エチゾラムも…ネガティブポイントは「依存度への注意」が重点ですから、優秀な医師に処方して頂きたいところで……」

 ふと平良がこちらを見る。
 …確かに。ちょっと厚労省こちらに寄りすぎた意見だったかも…。

「私からも気になった点として。
 間宮さんと長谷川さんは脳科医を中心に回って頂いているんですかね?」
「…まぁ、中心は」
「脳科医ならこのラインナップの文字列を見た際、少し癇に障るのかもしれません。
 トランキライザーと風邪薬、アレルギー薬は確かにどこも品薄で助かると思いますが、並んでいるのを見てしまうと。これなら別日に違うラインナップで行くとか…」
「…へ?」
「いや、巷じゃこれ、闇バイトというか…世間のニュースも気にするべきかと」
「……はあ、」

 わかりやすい反応だな。
 「まぁ、なんとなくな話ですよ」と付け加えておく。

「別にひまわりさんを闇バイトだと言ったわけではなく。ただ…気にする方もいると、相手方への気遣いですかね」
「あ、いや、ありがとうございます…また頑張ります」

 …そもそも橋田製薬は長く息をしている中小企業だ。
 だがそう、ドラッグストアにも僅かに商品を流せる立派な製薬会社なわけで…。

 よくもまぁこの“営業”を回したものだ。
 あの“プレゼント”は数日で波瀬が絞り込んだ、この間宮のみが担当している。

 定期偵察のつもりだったがもう少し掛かりそうだなと、間宮と去りつつも振り向き、頭を下げた波瀬に手を翳し挨拶をしておく。

 二人の姿が見えなくなると、平良はボソッと「喧嘩売ってんのかなんなのか…」と言った。

「潰れたヤクザが持ってた株だろうし。別のスポンサーは欲しいんだろうけど」
「穏健派の株、ですかねぇ…」
「だろうな」
「穏健派って江崎さんと和解したって聞きましたが…あの件でもしや…?」
「まぁ…仲良くはなれないってのが現状だろう。たつみ一家に吸収されるのはごめんってことかな。枝同士だと特に」
「確かに」

 関わりたくない、が“和解”の一手なのだろう。

 「ま、俺には関係ないけどね」と灰皿にタバコを捨て歩く平良に着いて行く。

「ここはどうします?」
「イカレ闇医者からのクレームをそれとなく橋田社長に上げて様子見かな…実際クリーンな会社だし…」
「間違いがあったらやべぇですからねー…今のところオリバー先生には周知協力をお願いするしかないかな…」
「そういえば天使ちゃんはどうなの?」
「あー…」

 天使ちゃん呼びはやめて欲しいがまぁ本人の前じゃないし通じるし…あんまり言ってもなんだか自分も気に触るような気がするな、と「今のところ…」平然と言おうとしたが普通でもないなと「…別人格は消えた…かも」と、今度は自分の歯切れが悪くなる。

「浮かないな」
「………全然まだ確証はないですし診断も無いですが…それよりもナルコレプシーだったら…なんて、」
「ナルコレプシー?またなんで?」
「いや、ふとオリバー先生が引っ掛かってるように見えるしなんか…自身が知らないうちに寝ていることがあるようで…」
「眠りが浅いんじゃなかったっけ?」
「ええ。
 そこは恐らく…これもイマイチらしいですが別人格が起きていた…と言うにはまぁ、ね?」
「確かにキツイものがあるな」
「一度は確認したらしいです、その人格。まだそこまでしか言えないようでしたが……」
「…消えたから寝るようになった…とか?」
「可能性は様々と言いますか…」
「なるほど…。
 ナルコレプシーならモディオダールか…それぞまさしくリタリンだな」
「ちなみに」

 聞いていいかわからないがまぁ、いいかと「慧くんって、どうだったんです?」と聞けば案の定平良は眉間に皺を寄せたが、ふっと真顔に戻り「ざっと聞いた感じで言えば、予想外な症状と不安はあったよ」と答えてくれた。

「人格はアレだけだけど。年齢を重ねたらなんというか若干逞しく」
「まぁあの人といたらそうなりそう…」
「…お前もノンデリタイプだなっ!」
「…“も”?」
「俺もだけどもっ!」
「ですよね」

 …うわぁ、やっぱ粘着質…。
 言わんどこ。ノンデリと言われてしまったし。

「…まぁすんません。ありがとうございます」
「それはいいんだけど…。少しでも気になるなら聞いた方がいいぞ。早め早めで。
 オリバー医師はイカれてるが“ファミリードクター”に相応しいよ。慧も寛解まで時間は掛かったようだが…それは無理なく丁寧で適切に診療してくれたからだ」
「…わかりました」
「お前はなんというか…自分事の報連相が上手くない気がする。気張ると相手にも伝染すると…慧と離れてから気付いたよ、俺は」
「…はい」

 …意外だ。
 もう少し人と関われないタイプだと思っていたけど。
 有難いのは事実なので素直に受け止めることにしよう。なるほど、周りにはそう見えるのか。

 一度外に出て平良と昼食を取り、再び病院に戻る…際には着替え、サラリーマンから大学生に逆戻り。

 「…あ゛ーっ…」と若干親父臭く唸りながらコンタクトを入れる平良はネクタイを変えレンタルの白衣…若く見えるんだなと、自分はホクロに施した化粧品を落とす。

「…若く見えるよな」

 まさか、たった今思った感想が相手から自分に跳ね返って来るとは…。

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