無色透明色彩


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「いや、流石に大学生はキツイ気がしてますよ、2,000円札の時代ですもん。
 平良さんくらいだと若手の研究生で…俺もそっちで行けばよかったな…」
「お前はまだ30ちょい過ぎじゃん…ほとんど大学生みたいなもんだろ、こっちは後半だぞ?」
「…まぁ平良さんから見たらそうでしょうけど、今回は年齢を感じましたわ…。互いのバランスは取れている感じですけど」
「俺は35を越えて若干違和感を覚えた。早くデスクワークに戻りたい」
「それこそちょい過ぎじゃないですか、平良さん理論だと」
「いやそうなんだけど、そうじゃないんだよこの壁は」

 なんなんだ、この会話。

「…そういえば江崎さんっていくつなんです?上なのはわかるんですが」
「俺もそう思ってるけど謎、で留めることにしてる。昭和ではあるらしい」
「あ…やっぱりそうなんだ若く見えるタイプ…幹部にしちゃ若すぎるような…。謎、にしとこ…」

 バッチリと「院から残ってる研究生」と「研修生」になり病院へ戻る。

「もしかして俺、慧くんの方が近いのかな…」
「んー、半々」

 よくわからん回答だけど「あれ、天使ちゃんとは?」と…流石に「天使ちゃん呼びやめません?」と言っておく。

「ここの方が曖昧ですよ、下手すりゃ干支一緒です」
「あー、それくらいなのか…親子ってなると変だが兄弟はいけ…ないよなぁ、見た目」
「傷を抉られているような大して気にならないような心境なのはなんでかなぁ、マジで」
「あ、そうなんだ」

 何に対する「そうなんだ」なのかもよくわからんのだが、この人…。
 だが最近感じている、この人、思っていたより人間臭く…泥臭い。

 自分の方が機械的なような気がしている…淡々と被害者や遺族への行政手続きを出来るくらいには。

 唯三郎の死は、思ったより…ダメージは少なかったような気がする。関係も浅かったし、対象であり“仕事”でしかなかったのは事実だ。
 それでも透花の事件はかなり衝撃的だったし未だに対処が遅れている気がしなくはないけど。

「…また聞いてすみませんなんですが、平良さんは慧くんや…学くんや奥さんとどういう気持ちでここまで来たんですかね?」
「……まぁ学と妻はたまたま慧繋がりで出会ってな。少し自分に似てると…多分思ったんだよ」

 慧のことは言わないらしい。だが自然と「同情ではないのが現状かな。妻に至っては愛情でもないし。これは言い聞かせているわけでもなく、本当に」と、聞きたかったような返答だった。

「学は可愛いよ、普通に。あの子に育てられたとか…わからんでもない気がするがやっぱり若干信じられない、妻もそう言ってる。実の母親が良い人だったんだと思うわ」

 あの子ってことは年下なんだろうな…。

 血縁としては皆バラバラ…複雑なんだろう、とその話は自然とやめた。
 平良は多分、幸せなんだろうなと僅かに感じられたから。

 オリバーの研究室に行くと、透花の担当看護師である藤沢フジサワが「あっ…」と、デスクに置かれた橋田製薬の袋に困った顔をしていた。

「お疲れ様です。すみません、先生今手術中でして…」
「あ、そうだったんですか…すみません、スケジュール確認してなかったですね…」
「いえいえ。
 今日は4時間手術なので、そろそろ戻ると思いますが…」

 袋をちらっと見たので「それですよね」と言えば案の定「はい…」と答えた。

「今回は新人さんもいらっしゃったので私が説明を受けたのですが…」
「半ば無理矢理な感じだったりしました?」
「まぁ、はい…。新人さんの研修なら仕方ないか…と」
「間宮さんと共にいた新人…実は」
「こちら側の人員なんですよ」
「…え!そうだったんですね!?」
「はい。なのでまぁ、事情は聞きましたよ」
「そうでしたか…」
「オリバー先生が帰ってきたら報告しようと思ってましたが…藤沢さんも、あの間宮というMSと…ひまわり会にも注意をと、周知して頂けると話は早いです」
「なるほど、わかりました」
「橋田製薬自体は普通の製薬会社です。恐らくはその他の…ひまわり会が持ってくる会社もそうじゃないかと思います、間宮に警戒、とだけ…」
「わかりました。
 こちらで止められればいいですもんね。正直院内も混乱していたので、それがわかれば肩の荷が降ります…私たちも。あとは、先生と話されるんですよね?」
「まぁ今伝えられたので、後日でもいいかな。我々も一度所に戻り」
「いや、俺だけでもいいけど?」

 平良を見ればふぅ、と息を吐き「オリバー医師に話したいことがあるんじゃなかったっけ?」と言われた。

「え、まぁそうですが…」
「看護師さんでもいいんだろうし。
 橋田も今日は…今の結果を連絡して明日出勤、で構わないだろうし、こっちは一旦諜報に投げればいいだろうから、別に二人じゃなくてもいいかな」
「波瀬くんへの聞き取りは…?」
「じゃあ、そっちを頼む」

 …あ。

「わかりました」

 多分、気を遣ってくれた。

 平良は藤沢に挨拶をし、本当に一人で去ってしまった。

「えっと…」
「あ、すみません、別件なんです。透花についてで…さっきふと話したので気を遣ってくれたのかな…」
「透花さん、何かありました?」
「まぁ確証とかそういうのはなく…考えすぎならいいんですが…」

 家事の最中に気付かないまま寝てしまったらしい、だとか、テレビを見ている最中に寝てしまっていたとか、些細なことしか伝えられないでいるが…。

「疲れているだけとか、まだ万全ではないだろう、くらいに考えていたんですが、少し引っ掛かって…考えすぎや気のせいだとは思ってるんですが…」
「確か透花さんは…あ、ちょっとカルテ開いちゃおうかな…」

 オリバーのパソコンを弄り、「お薬はお試しでしたっけ」と聞いてくる。

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