無色透明色彩


4


「あ、はい」
「えーっと……エチゾラムですね、2回目の処方が始まって…この前はどうでしたっけ」
「前の週の残薬が5錠と伝えました」
「ほとんど飲んでいないんですね…あ、そうだ。次で確か頓服にしてみるかどうか決めようとしてたんですよね?」

 話している最中、「フジサワ、」とオリバーの声がした。裏口から手術着で戻ってきたようだ。

「あ、先生!」
「どした?」
「あ、えっと今は透花ちゃんのお話を」

 …あ、ちゃん呼びなのね。

「あと…ひまわり会の方の営業さん」
「あ、はい。
 どうやら間宮というMSがばら蒔いているかな、という感じです。まだ確定ではありませんが」
「わかった。フジサワ、そいつのは全部捨てといて」
「畏まりました。
 海江田さん、看護師間でも周知をしてくれとのことでしたが、医師にもですかね?」
「はい」
「わかった。私は出禁処置検討すると、ヨコタ医院長にヨロシク」
「畏まりました」
「正式にヤバかったらお上から手紙来るんだろ?」
「そうなりますね。その他捜査となれば協力等もお願いするかと…」
「もう一回受け取った方がいい?」
「あ、丁度ありますよ、先生に聞こうと思ってて」
「またぁ?しつこいなあのチビMS」
「そちらのサンプルを…」
「あぁ、わかったわかった。
 そんなことよりトウカだ」

 オリバーが目配せをすると、藤沢は下がった。
 開かれたカルテに向かい「何」と聞いてくる。

「いやぁ…大したことではないんですが…ナルコレプシーって聞いてからちょっと…神経質になっちまってるかも」
「…ちなみに?」
「えっと…まぁ、エチゾラムをほとんど使っていないのはご承知の通りでして」
「眠れている、と捉えた。薬ない時急に寝るとか?」
「まさしく…。
 先日は夜、テレビを観ながら。その次は…洗濯物を込んで部屋まで持ってきて、知らず知らずと…とくに夢や…仰っていた人格の倒錯等はなさそうでした」
「寝る時間決まってる?」
「あー……決めてませんが俺が最近夜型というか遅くまで起きてるんで…でも気付いたらちゃんと寝てます」
「だとすれば当てはまりそうにないけど、そうだなぁ…トウカの脳がまだ眠りのリズムを覚えてないのかも。
 オマエら、ゆっくりする時間や趣味とかないんか?たまに気分転換するのも、今のトウカには疲れるだろうが、それが却って良いかもしんない。試しに寝る時間決めてみたら?」
「…なるほど」
「忙しく働いていたのが急に休暇来ると身体がわからなくなる、それはアンジにも起こるヤツ。
 まぁ、普通のことと思う、今のところ。あとはナルコレプシーでよく言うのは、昼間の仮眠なら同じ時間と決めるのがいい。予防としてもありかな、生活もあやふやなんだし。
 神経質になるのも仕方ないしそれがいいかも、これが全部ハズレなら気絶かもしんない。無理なく話もしなさい、ワタシにも。OK?」
「はい、わかりました。ありがとうございます」

 流石医者だ。当たり前なんだろうが1言ったら100で返ってくる。

「で、ハシダの話もわかったし、後は?」
「あ、その話終わっちゃいましたね…本当はもう少し掛かると思ってたんで波瀬くんを待ってというか…一緒に説明しよ、くらいに考えてました。波瀬くんからも聞けば少し見解が変わるかなとか…」

 藤沢がまた現れ「先生、ヤナギダ先生のを貰ってきました」と別の製薬会社の袋を持ってきた。

 「サンキュー」と言って中身を眺め、「多分一緒」と渡してきた。

「一応見るか?」
「…どうしましょうかね。数種類配ってるパターンだと面倒臭そうな…。
 藤沢さん、いつも間宮はなんか、なんでもいいんですが聞いてきたりはしていますか?」
「そうですねー…新薬があるらしく、どうです?くらいで…普通は契約して使ってみてからなのにな…と思ってました」
「研究しているのわかってるんだろうな、ソレ」
「先程、新人さんが海江田さんの…仲間?と聞きましたが…彼はエチゾラムの説明をしてましたよ。ですが間宮さんは違ったような気がします…とにかく「どうです?」と言った感じで…」
「波瀬くんからの聞き取りは俺がしますよ。こちらの話ではあるので…。
 藤沢さんも、注意喚起くらいで今は大丈」
「いや、気に入らないからいい。院長にチクる」
「…はい、わかりましたっ」
「あとはトウカと過ごしてくれ。なんとなくわかったから」
「…ありがとうございます。いまのところのヒアリング結果としては、ひまわり会と間宮に焦点が向きそう…とだけ。
 橋田製薬は普通の中小企業かな、という感想です。規模こそ中小ですがそれなりに長く営業していて、昔から安定した薬の提供はしているようです」
「…わかった、それは少し見てみる…古き良きと言うしね」
「まぁ、今のところ、です」

 一通り終わってしまったな、波瀬が来る前に…しかし病院側も忙しい。
 「色々ありがとうございました」と感謝をし、まずは病室を出て波瀬のケータイにメールを入れておいた。

 MSはかなりの激務だ。ケータイすら見る余裕がないかもしれないけれど…と思いきやすぐ、「今から抜けられますよ」と来た…。

どこがいい? 既読

ウチの店で。そのまま行くんで頑張って変装でもして店主のフリしてください

 ……マジか。え、面割れしてるじゃん、どうしようと考えた末「透花を拾ってこっそり行く」と返す。

了解、15時半頃店に立ってて

 ……1時間ほど猶予があるらしい…なるほど、確かに着く。

 屋上に向かいながら透花に電話を入れる。
 少し掛かったが『もしもし』と普通な声色で出てくれた。

「もしもし、今大丈夫?」
『はい』
「…体調はどう?」
『大丈夫です!今、夕飯を何にしようかなーと…テレビでレシピを観たので、考えていました』

- 18 -

*前次#


ページ: