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「…献立考えてくれている中申し訳ないんだけど、少しお願いがあって…すぐ帰るから出掛ける準備をして欲しいんだけど…」
『はい、わかりましたケド…』
一般人だしあまり使いたくない手なんだけどな…と躊躇いつつさらっと「波瀬くんの店の店長のフリをして欲しくて…」と要件を伝える。
「不思議なことに波瀬くんが営業として現れるけどね…」
『お手伝いですね?わかりましたー』
「…ありがとう。夕飯は」
あ。
「ちょっと波瀬くんも付き合ってくれてるし…飯奢るか…」
『……え!』
「考えてくれたのにごめーん…」
『あっ、いえ…ふふっ、』
電話口で透花が笑った。
『次の楽しみが出来た、でどうですかね?』
「…確かに…」
『外食も好きですし、今日の楽しみはそっちで!』
あ、そっか、そっちなのね…。
「…いつもありがとう。今から…30分くらいで着くよ。
波瀬くんは俺らに…協力中だから、透花を知らないフリをすると思う。
難しい話をされたとしてもまぁ、座ってるだけで聞き流して大丈」
メールの通知が来た。
開かずともわかる短文で『波瀬の店の裏口を開けに行く』とある。
「あ、俺も店の奥にいるから、ひとりじゃないし心配しないで」
『わかりました』
通話終了。
「ありがとうございます」と返信しておく。
仕事が早いなぁ、波瀬くん…。そういえば江崎が波瀬の店のオーナーなんだ…。
平良が「職場体験」とか言ってたな…どうせなら感想でも聞いてやったりするか…と考えながら病院を出る。
波瀬は恐らく、自分の店に発注でも掛けたのだろう。
安慈を裏口に…ということはその場で見て実態を掴んだ方が早い、と判断したのだと思う。
家に帰れば透花は楽しいだか嬉しいだか、そんな顔で「おかえりなさい」と、着替えて待っていてくれた。
波瀬の店に向かいながらさらっとだけ概要を話しておく。
入口にはタバコを吸う江崎がいた。
相変わらず…多分チョイスだ、紺スーツ黒シャツグレーネクタイ…シックで似合うけど大抵の日本人のイメージは多分、色シャツはそっちだろう…いくら福山風味でも…。
透花を見た江崎は少し表情を変えたが、「…こんにちは」と低い声…まぁ、声の低さは前からだが、多分優しめに声を掛けている、多分。
しかし安慈を見る目は明らかに何かを言いたそう…。
「すみません、ありがとうございます…」
「…まぁ、」と奥へ行こうとすれば「お久し…ぶりです、」と、透花が真っ直ぐ江崎を見て…少し感情が昂る、というより感極まる、に近い声色で言った。
面食らったのか「あ、あぁ、うん…」と江崎は歯切れが悪いような返事で。
透花が頭をひょこっと下げ「なんとお礼を言えばいいのか…」と言えば、安慈には見えた、江崎が少し顔を綻ばせるのを。
「…元気そうで何より。
ほれほれ、急に頭下げんな、血圧下がるぞ。
顔が見れてよかったよ」
それだけ言って「奥な奥」と腕を掴まれ透花の死角に入った瞬間「てめぇはクソ野郎じゃねぇよな?」と不愉快さと圧を隠さない態度で言われてしまった。
「あの子は堅気じゃねぇのか?ん?」
「…普通の子です、何も知りません…。
だから、俺がこうして現場に入れることに感謝します…情けない話ですが、流石に怖かったんで」
「…あっ、そう…」
タバコを踏み消しふぅ、と一息吸い「まぁよく知らんが、波瀬がそうしたんだよな…」と、少し溜飲が下がったらしい。
「アレは平良と俺と慧を見ているし、自分も堅気なのをわかってるから…」
「何があったかは聞きませんが…少しは察します」
こうもあっさり平良が“波瀬”という一般人を使ったこと、どちらもヤクザと繋がっていて、波瀬は過去に警察へ“自首”をし書類送検されている。
現状がこうなら、誰がどうというのは察しが付く。
この反応を見ると…江崎は恐らく平良のやり方を気に入っていないのだろうと「実は波瀬くんの…職業支援、という名目も少しありまして…」とフォローをしておく。
「あいつのぉ?」
「普通の…?まぁ、薬剤営業の職場体験をさせているんですよ…一応ね」
「全部が全部下心なしとは思えないが、アレならまぁ…って気がしなくもないのが不思議だ…」
「もし、透花の事もご心配をされているのであれば」
「なるほど?
相変わらず危なっかしいが気概は買うよ、お前のね。ただ、平良は気に入ってない。わかるな?」
「…そうでしょうね」
「それを聞けたらもう、お前の責任だと思うことにする。ちなみに!俺はあのサイコパスクソ野郎には二度と誰の命も預けねぇから!」
裏口の鍵…普通に目の前でピッキングされた。
…なるほど、信用されていないか。まぁ、それが当然だ。
「はい」
江崎に促され入ればすぐに閉まった。内側からも出られるが…わざわざ鍵を預けなかったと…。
後ろは作業場であり薬剤庫でもあるのか。
入口を覗けば、小さく手を振る透花が見える。多分、江崎に手を振ったのだろう。
顔が見れてよかっただなんて…全く。
…よかった。
透花の命の恩人だ。だが透花の入院中、江崎は会いに来なかった。それもわかる。
すぐに入口を開けに行き、透花を中に入れる。
多分使っても良いだろうと店の冷房を入れ、奥にある冷蔵庫から水を一本渡した。
「何かあったらすぐ、店長に聞くだのなんだのテキトーに言ってこっち来てね、迷わず」
ボイスレコーダーの使い方を教え、渡しておく。
「ごめん」
「え?全然、」
「聞きに徹するというか、そんな感じで…」
「はい」
「あとは波瀬くんがなんとかしてくれるから」
そう打ち合わせしてすぐ、外階段で音がした。
安慈はさっと後ろに戻り、カーテンの隙間からビデオを回す。
「こんにちはぁ〜、はじめまして!」
間宮の声がする…。
え、何そのテンション。露骨に胡散臭ぇというか嫌。
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